夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ

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第1章

第1話『静寂の檻と囁く獣たち』

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 夜の動物園は、不思議な空気に包まれている。
 静けさの中で、時折、風に乗って獣たちの気配が流れる。
 来園者のいない園内を歩くと、昼間とはまるで違う世界が広がっていた。

 ——不気味な静寂。

 飼育員の えま は、そっと息を飲んだ。

「……なんか、おかしい。」

 じわり、と背中に寒気が走る。
 えまは小さく息を整えながら、足を止めた。

 彼女には、生まれつき 「動物の感情を感じ取る」 能力があった。
 言葉として聞こえるわけではない。
 ただ、彼らが何を思い、何を恐れているのか——それが、”感覚”として流れ込んでくる。

 幼い頃、それに気づいた時のことを、今でも覚えている。
 動物園へ行くと、檻の向こうから何かを伝えられる気がした。
 ある日、迷子になった犬を見て、ふと口をついた言葉——。

「この子、お腹が空いてるのと、すごく喉が渇いてる……。」

 すると、犬は尻尾を振り、震えながら水飲み場の方向へ走っていった。

 その瞬間、母の手が彼女の腕を掴んだ。

『そういうこと、人前で言っちゃダメよ。』

 母は顔を曇らせ、低い声で囁いた。

『そんなことを言ったら、変な目で見られるから……。』

 でも、その夜——。

『えま、お前、本当にすごいぞ!』

 父はえまの頭をくしゃくしゃに撫で、満面の笑みで言った。

『動物の気持ちがわかるなんて、まるで魔法みたいだな!』

 母と父の反応の違いが、幼いえまには不思議だった。
 それでも、自分の力を否定されるのは悲しかったし、父が褒めてくれるのは嬉しかった。

 だからこそ——。

 この能力を「ただの不思議な力」では終わらせたくなかった。

 この力を活かすために、動物たちと向き合う仕事を選んだのだ。

 ——しかし、今日のそれは、いつもとは違う感覚だった。

 ただの「不安」や「興奮」ではない。
 もっと、深い恐怖。

「……みんな、何を怖がってるの?」

 いつもは穏やかに過ごしている動物たちが、妙に警戒している。
 檻の奥で、ホワイトタイガーがじっと何かを睨んでいた。
 その視線の先には——何もない空間。

「……どうしたの?」

 えまは小さく囁きながら、そっと近づいた。
 しかし、ホワイトタイガーは鋭く鼻を鳴らし、後ずさるように身を引いた。

 ——「そこに、"何か"がいる」

 えまの頭に、動物の意識が流れ込む。
 言葉ではなく、感覚として。
 だが、彼女には何も見えなかった。

「え……?」

 カタン——。

 微かな物音が響いた。
 誰もいないはずの場所で、何かが動いた音。

 えまは思わず息を詰めた。

(誰か、いる……?)

 その瞬間、動物たちが一斉に鳴き声を上げた。
 悲鳴のような警戒音が夜の動物園に響き渡る。

「やっぱり、何かいる……!」

 えまは震える手で無線を掴み、ボタンを押した。

『園長、緊急事態です。』

『……どうした?』

『動物たちが何かに怯えてます。でも、人の気配はありません。』

 無線の向こうで、園長が息をのむ音が聞こえた。

『……透子を呼ぼう。』

『とうこさんを……?』

『お前の力だけじゃ、解決できないかもしれない。科学の力も必要だ。』

 えまの心臓が、大きく跳ねた。
 これは、ただの動物の異変ではない。

 静寂の檻に囁く獣たち。
 ——彼らが見ているのは、一体、何なのか。

 夜の動物園で、恐怖の扉が静かに開かれようとしていた——。



 次回予告

 第2話『科学者・水原透子の到着』

 園長が呼んだのは、生物学者・水原透子。
 科学の視点から、動物たちの異変を解明できるのか?

 “見えない何か”の正体を探る、調査が始まる——。
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