夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ

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第1章

第2話『科学者・水原透子の到着』

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 夜が明けるころ、動物たちは少しずつ落ち着きを取り戻していた。
 しかし、えまの胸のざわめきは消えない。

(動物たちは確かに何かを感じていた……でも、私には見えなかった。)

 あの夜、檻の前でホワイトタイガーがじっと見つめていた "何か" は、一体なんだったのか。

「おーい、えま。お客様が到着だぞ。」

 園長の声が響き、えまは顔を上げた。

 朝の陽光を浴びながら、動物園の正門の前に一人の女性が立っていた。
 長めの白衣をまとい、整った黒髪を後ろで束ねたクールな印象の女性——。

「……君が、えま?」

 女性は静かに歩み寄り、冷静な目でえまを見つめた。

「水原透子だ。初めまして。」

「えっ……あ、初めまして。」

 透子——動物行動学と環境生物学の専門家で、数々の難解な問題を解決してきた第一人者。
 園長から紹介を受けたものの、彼女の実力を直接目にするのは初めてだった。

 えまが緊張して言葉を探していると、透子は小さく微笑んだ。

「……へぇ、君が"例の子"ね。」

 その一言に、えまは思わず息を飲んだ。

「えっ……?」

「園長やご両親から話は聞いてた。ずいぶん昔からね。」

「そ、そんな……私のこと知ってたんですか!?」

 驚くえまに、透子はさらりと答えた。

「会うのは初めてだけどね。ずっと前から噂は聞いてたよ。動物の感情を読み取れる、不思議な子がいるって。」

 透子の言葉に、園長が苦笑する。

「まあな。俺も昔からお前のことを見てたし、透子にはその話を何度もしたからな。」

(……そうだったんだ。)

 子供の頃から 「動物の言いたいことが分かる!」 と話していた自分。
 まさか、その話を透子まで知っていたとは思わなかった。

「さて、それより……。」

 透子は視線を動物園の奥へ向けた。

「"何か"がいるって話だけど、それを科学的に解明しに来たのよ。」

 その一言に、えまはハッとする。

「……科学的に?」

「そう。"幽霊"じゃないなら、何かしらの要因があるはず。」

 透子はサッとメモを開き、園長に尋ねた。

「どこで異変が起こった?」

「えま、昨夜のことを説明してやれ。」

 えまは頷き、昨夜の出来事を話し始めた。
 動物たちが一斉に怯えたこと、ホワイトタイガーが何かを見つめていたこと、そして—— 誰もいない場所で何かが動いた音がしたこと。

「なるほど……。」

 透子は静かに考え込み、ふとえまを見た。

「動物たちは、君に何かを伝えようとしていた?」

「……はい。でも、はっきりとは分かりませんでした。ただ、すごく怖がっているのは感じました。」

「ふむ。」

 透子はメモを閉じ、唇を軽く指でなぞった。

「じゃあ、その"怖がる何か"の正体を探りに行きましょうか。」

「えっ……!?」

「君の力と、私の科学。二つを組み合わせれば、謎を解くのもそう難しくはないはず。」

 透子は微笑み、軽く指を鳴らした。

「さ、案内してくれる?」

 えまの背筋に、ゾクリと冷たいものが走った。
 昨夜、確かに"何か"がいたあの場所へ——今から向かわなければならない。

(私の力と……透子さんの科学……。)

 不安と緊張を胸に抱えながら、えまは静かに頷いた。

「……分かりました。」

 こうして、職業も考え方も違う二人が出会い、これから——

『動物たちが恐れる“何か”』の調査が始まる。


 ---

  (続く)
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