夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ

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第1章

第12話『静寂の檻と白き王者』

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 えまと透子は、足を速めながらホワイトタイガーの檻へ向かった。

 夜の動物園は、先ほどよりもさらに静まり返っている。風が木々を揺らし、時折、遠くで小動物の鳴き声が響くが、それ以外の音はほとんどない。

 動物たちは、まるで何かを警戒しているかのように息を潜めていた。

 何かが、いる。

 えまの直感が、強くそう告げていた。

 ──そして、ホワイトタイガーの檻の前に到着した。

 「……ここね。」

 透子がタブレットを片手に、檻の周囲を見回す。

 その場に足を踏み入れた瞬間、えまの体にピリッとした感覚が走る。

 違和感。

 動物たちの異変を感じるときに覚える、独特の圧迫感。

 そして、目の前のホワイトタイガー──彼はじっと檻の隅に座り、動く気配がなかった。

 いつもなら悠然と構えている彼が、まるで何かに怯えているかのように。

 「……ロイ?」

 えまは小さく呼びかけた。

 ホワイトタイガーの名前はロイ。
 この動物園で一番長く飼育されている個体で、えまが小さい頃から親しんできた存在だった。

 しかし、今のロイはまるで別の動物のように、目に力がない。

 えまはそっと、ロイに意識を向ける。

 『……危ない。』

 ──その瞬間、ロイの声が直接頭に響いた。

 「……っ!!」

 えまは息をのむ。

 「えま?」透子が異変に気づき、彼女の顔を覗き込む。

 「……ロイが、"危ない"って言いました。」

 透子は眉をひそめた。

 「"何が"危ないの?」

 えまは再びロイに意識を向ける。

 『……いる。見えない……でも、いる……。』

 ロイの声は、いつもよりかすかで、まるで何かに怯えるようだった。

 「……"見えない何かがいる"?」

 透子が腕を組み、辺りを注意深く見回す。

 えまも、周囲の気配を探るように耳を澄ませる。

 そして──。

 「カサ……カサ……」

 微かな音が、どこからか聞こえてきた。

 えまの鼓動が跳ね上がる。

 透子も気づき、ゆっくりと懐中電灯を構える。

 「……今の、聞こえた?」

 「ええ。どこから?」

 えまは慎重に目を凝らす。

 音の発生源は、檻の外。すぐ近くの茂みの中だった。

 透子が、そっとタブレットを操作する。

 「……赤外線カメラを起動するわ。」

 タブレットの画面が切り替わり、目に見えない熱源を映し出す赤外線映像が表示される。

 そして──。

 「……!!!」

 えまは息を飲んだ。

 透子も、思わず言葉を失う。

 そこには、確かに"何か"が映っていた。

 ──ただし、それは"人間"や"動物"の形ではなかった。

 赤外線カメラに映るそれは、異様な"影"のような塊。

 そして、ゆっくりとえまたちの方へ動き始めた。

 「……透子さん、これって……!」

 「……分からない。でも、"確実に"そこにいる。」

 透子の声にも緊張が滲む。

 何かが、この動物園の夜に潜んでいる。

 そして、それは今──彼女たちの存在に、気づいた。

 「……っ!」

 その瞬間、赤外線カメラの映像が、一瞬"ブツッ"と途切れた。

 「消えた!?」

 透子が焦って操作するが、何も映らない。

 しかし、えまには分かっていた。

 カメラが捉えなくても、"それ"はまだそこにいる。

 ロイの言葉が、頭の中で反響する。

 『……危ない。』

 えまは強く唇を噛み締めた。

 「透子さん……このままじゃダメです。私、ロイの言葉をもっとちゃんと聞いてみます。」

 透子が驚いたように目を見開く。

 「でも、それは……」

 「ロイは"何か"を知っています。このままじゃ、動物たちはもっと怯えてしまう……。私が聞くしかないんです。」

 えまは決意を固め、ロイの方をまっすぐに見た。

 透子も数秒の沈黙の後、小さく頷いた。

 「分かった。でも、無理はしないで。」

 「はい……。」

 えまは深呼吸し、再びロイに意識を向ける。

 そして、心の中でそっと語りかける。

 『ロイ……あなたが見たものを、教えて。』

 すると、ロイはゆっくりと目を閉じ、かすかに頭を動かした。

 そして、えまの頭に直接、言葉が響いた。

 『それは……"檻の外"にいた。』

 えまの心臓が、一瞬止まりそうになる。

 ロイが言った"それ"は、檻の外。

 つまり、動物園のどこかに"侵入者"がいるということ。

 しかし──

 『……"人間"じゃない。』

 その言葉を聞いた瞬間、えまの背筋が凍りついた。

 「えま?」透子が不安そうに声をかける。

 「ロイが……"それは人間じゃない"って……。」

 その言葉に、透子の表情も険しくなる。

 "それ"は、人間ではない。

 では、一体──"何"なのか?

 夜の動物園に潜む何者かの正体が、ついに明かされようとしていた。

 ‐‐‐

 (続く)
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