夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ

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第1章

第13話『ロイが見たもの』

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「……ロイが、"それは人間じゃない"って……。」

 えまの言葉に、透子の表情が険しくなる。

「人間じゃない……じゃあ、一体何が?」

 ホワイトタイガーのロイは、檻の中でじっとえまを見つめている。
 その目には、不安と警戒が入り混じっていた。

 えまは再びロイに意識を向ける。
 ロイは静かに目を閉じたまま、えまへ語りかける。

『……黒い影。歪んだ姿。動物じゃない。』

「黒い影……。」えまは息をのむ。

「それって、動物の姿をしてたの?」

『……違う。形が……変わる。』

「形が……?」

 透子がタブレットを確認しながら、えまの言葉に耳を傾ける。

「ロイは、影の"形"が変わると言ったのね……。」

「はい。でも、動物でも人間でもないって……。」

 透子は腕を組み、深く考え込む。

「それが科学的に説明できるものなのか、それとも本当に"この世の理から外れたもの"なのか……。どちらにせよ、影が物理的に形を変えるなんて普通はあり得ないわ。」

「じゃあ、ロイが見たものは……?」

「"擬態"の可能性は?」

 透子の言葉に、えまは驚いたように目を見開く。

「擬態……って、カメレオンみたいに?」

「ええ。自然界では、カメレオンやイカのように周囲の環境に溶け込む生き物がいるわ。でも、そんなレベルじゃなく、影のように"変形する"というのは……生物学的に見ても異常よ。」

「つまり、普通の生き物じゃない可能性が高い……?」

 透子はため息をつくように、肩をすくめる。

「ええ、今のところ"普通の動物"では説明がつかない。」

 ロイは再び、えまに向かって語りかける。

『……見た。"それ"は……"檻の外"にいた。』

 えまは息をのむ。

「ロイが見たのは、檻の外です。」

 透子は眉をひそめ、辺りを見回した。

「ここに、何かが潜んでいたということね。」

「でも、何か証拠があるんでしょうか?」

 えまが周囲を見回しながら言うと、透子は静かに頷く。

「それを確かめるために、この場を調べる必要があるわね。」

 透子はタブレットを操作し、近くの地面に目を向けた。

「……えま、ロイの言葉に集中しているところ悪いけど、ここを見て。」

 透子が指をさした先。

 そこには、奇妙な跡があった。

「……これは……?」

 えまは慎重に近づき、それを見つめる。

「足跡?」

「でも、普通の足跡とは違うわ。」透子はしゃがみこみ、指で地面をなぞる。

「形が不規則すぎる。普通の動物なら、四足歩行か二足歩行の形がはっきりするはずなのに……。」

「でも、これは……?」

 えまも、恐る恐る跡を指でなぞる。

 透子は静かに息を吸い込んだ。

「……まるで、"何かが這った跡"みたいね。」

 えまは身震いした。

 這った跡?

 つまり、"それ"は足で歩くのではなく、地面を這うように移動していたのか。

「でも、そんな生き物……この動物園にはいませんよね?」

 透子は頷く。

「ええ。だからこそ、これは"異常"なのよ。」

 えまは再びロイに意識を向ける。

「ロイ……"それ"は、いつからいたの?」

 ロイはしばらく黙っていたが、ゆっくりと答えた。

『……ずっと前から。"それ"はずっとここにいる。』

「……っ!!」

 えまと透子の背筋に、冷たいものが走った。

「ずっと、ここに……?」

 えまが震える声で呟く。

 ロイの言葉は、"それ"が最近現れたものではなく、前からこの動物園に潜んでいたことを意味していた。

「……そんな。」

 透子は静かに立ち上がり、あたりを見回す。

「えま……これ、もしかすると"この事件"は最近のものじゃないかもしれない。」

「えっ……?」

「この動物園に、"何か"がずっと前から存在していたとしたら……?」

 えまは言葉を失う。

 透子の目は鋭く光る。

「……まず、"それ"の痕跡をもっと調べましょう。」

「ええ。」

 えまはゆっくりと頷いた。

 ホワイトタイガーのロイが見たもの。
 それは、この動物園に"ずっと前から"いた存在。

 そして、今もなお、どこかで潜んでいる。

 ‐‐‐

(続く)
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