夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ

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第1章

第14話『闇に刻まれた痕跡』

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 えまと透子は、ホワイトタイガーの檻の前で沈黙したまま立ち尽くしていた。

「"それ"はずっと前からここにいる……。」

 ロイの言葉が、頭の中で何度も反響する。

 この動物園に、何かがずっと潜んでいた。
 動物たちが怯えているのは、つい最近のことではない。
 もしかすると、もっと前から"異変"は始まっていたのかもしれない。

「……とにかく、手がかりをもっと探しましょう。」

 透子は冷静に言うと、タブレットを操作し、別の監視カメラの映像をチェックし始めた。

「ロイが"それ"を見たのは檻の外だった。つまり、ここに何かしらの痕跡が残っているはず。」

 えまも頷き、透子とともに慎重に周囲を調べ始める。

 ──すると。

「……透子さん、これ。」

 えまが足元に目を留める。

 檻の外側、地面に何かがうっすらと刻まれていた。

 「……傷跡?」

 透子が膝をつき、慎重に指でなぞる。

 それは、明らかに"人工的ではない"。
 何か鋭いもので地面を引っ掻いたような痕。

「この形……普通の爪痕じゃないわね。」

「でも、動物のものにも見えません。」

 透子は傷跡の長さを測りながら、眉をひそめた。

「鋭利で細長い。そして、複数の並行した線……。」

「透子さん、もしかして……"それ"の足跡じゃなくて、"手"の痕跡なんじゃ?」

「……!」

 えまの言葉に、透子はハッとした。

「確かに……。"それ"は這うように移動していた。でも、もし"それ"に腕があったとしたら?」

「"それ"がここにいた証拠……?」

 えまと透子は顔を見合わせる。

 ──この傷跡をつけたのは、果たして何者なのか?

 その時だった。

 「カサ……カサ……」

 微かな音が、檻の外から聞こえた。

 えまと透子の身体が、ビクリと硬直する。

「……また、いる?」

 えまが小声で呟く。

 透子は素早くタブレットを構え、赤外線カメラを起動した。

 画面に映し出された映像。

 そこには──。

 「……!!!」

 えまと透子の背筋が凍りつく。

 カメラには、"それ"の影が映っていた。

 ただし──それは、檻の外側ではなかった。

 「……"それ"は、檻の"内側"にいる。」

「っ!!!」

 えまと透子は、息を詰めたまま檻の中を見た。

 ホワイトタイガーのロイは、じっと檻の奥に座り、何かを睨んでいる。

 だが──。

「……何も、いない?」

 確かに、目には見えない。

 しかし、赤外線カメラには"影"が映っている。
 それはまるで、ロイのすぐ傍に立っているように見えた。

「……ロイは、"それ"を見えているの?」

 えまはそっとロイに意識を向ける。

 ──すると。

 『……こわく、ない。』

 えまは息を飲む。

 「……ロイが、怖がっていない?」

 動物たちは"それ"を怖がっていたはずなのに。
 ロイは、"それ"に対して怯えていない。

 「もしかして……"それ"は敵じゃない?」

 透子が驚いたようにえまを見た。

 「でも、動物たちは怯えていたのよ?」

 「ええ。でもロイは、"こわくない"って……。」

 えまは目の前のロイと、赤外線カメラの影を見比べる。

 ──もしかすると、"それ"はただの脅威ではなく、別の意味を持っているのかもしれない。

「……透子さん、もう少し話を聞いてみます。」

 えまはロイに向かって、心の中で問いかけた。

『ロイ、"それ"は何? あなたに危害を加えたりしないの?』

 ロイはしばらく沈黙した後、ゆっくりと答えた。

 『……ちがう。"それ"は、"まもるもの"。』

「えっ……?」

 えまは思わず、透子の方を振り返る。

「……ロイは、"それ"を"まもるもの"って言いました。」

 透子の目が鋭くなる。

「"それ"は、単なる怪異じゃない……?」

 何かを守っている存在。

 それは一体、何を、誰を、守っているのか?

 そして、それがこの動物園に"ずっといた"というのなら。

「……この動物園、もしかすると"特別な場所"なんじゃ?」

 透子の呟きに、えまの心臓がドクンと跳ねた。

 夜の動物園に潜む"それ"。
 ロイが恐れず、他の動物が怯える理由。
 そして、それがこの場所に"ずっといた"という事実。

 この動物園には、まだ知られざる"秘密"がある。

 ──その核心へと、二人は今、近づこうとしていた。

‐‐‐

(続く)
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