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第2話 異世界の令嬢、日本の夜に迷う
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(これは……夢? それとも……?)
眩い光に包まれた直後、ふわりと宙を舞うような感覚が襲う。
だが次の瞬間、重力に引きずり込まれるような衝撃が走り、冷たい地面の感触が足元に広がった。
だが、身体の奥底がまだふわふわと浮いているような気がする。
足が地に着いているのかすらわからず、意識が追いつかない。
頬を刺すような冷気、衣服の隙間から入り込む冷たい風。
指先に触れるのは、粗い石畳のような硬い地面——けれど、それだけではない。
どこからともなく漂う、油や煙のような匂い。
湿った空気と、ざわざわと絶え間なく響く人々の話し声。
メルフィーナは、恐る恐る目を開いた。
——そこには、見たこともない光景が広がっていた。
「……なに、これ?」
視界に映るのは、どこまでも高くそびえる建物。
壁には奇妙な絵と文字がびっしりと並び、ネオンのような眩しい光があちこちで瞬いている。
けれど、その文字の形は魔術師が描く符号のように意味不明で、全く読めない。
そして——
「っ!?」
轟音を響かせながら、巨大な鉄の箱がすぐそばを猛スピードで通り過ぎていく。
その正体が分からず、メルは思わず後ずさった。
(な、なにあれ!? 魔道具なの!?)
金属が軋む音、けたたましいクラクション、機械的な音が次々と耳を打つ。
さらに、行き交う人々がみな手元に小さな四角い板を持ち、それに視線を落としながら歩いているのを見て、メルの困惑はさらに深まった。
「これは……一体……?」
異世界転移したのは間違いない。でも、ここはまるで……
魔法ではなく、機械の支配する世界——!?
メルはただ呆然と立ち尽くした。
◆◇◆
「ねえ、あの子見て! すっごいドレス!」
「映画の撮影かな?」
「いやいや、さすがに目立ちすぎでしょ……」
ふと、人々のひそひそ話が耳に入る。
気がつけば、周囲の人々が明らかに自分を不思議そうに見つめていた。
それだけならまだしも、彼らは手に持っている小さな板をこちらに向け、カチカチと操作している。
(……まるで、見世物みたい!)
舞踏会で視線を集めることには慣れている。
けれど、ここで向けられる視線は興味と困惑、そして、どこか冷たい好奇心を孕んでいた。
(もしかして、この世界の礼儀として、貴族の姿を記録する習慣でもあるの? それとも……)
「な、何なのよ……」
ふいに、不安が一気に押し寄せた。
ここはどこ? どうすればいいの?
誰か、助けて——
そう思った瞬間、
「——危ない!」
突然、ふわりと温かい手がメルの腕を支えた。
驚いて顔を上げると、そこには柔和な笑みを浮かべた老婦人がいた。
◆◇◆
「おやおや、そんな格好でどうしたんだい? まるでヨーロッパのお姫様みたいだねえ」
温かく、どこか懐かしい響きの声だった。
メルは戸惑いながらも、必死に言葉を探す。
しかし、「別の世界から来た」などと説明できるはずもなく——
「えっと……」
口ごもる彼女を、老婦人は優しく見つめた。
「寒くないのかい? そんな薄着で歩いていたら風邪をひくよ」
「え、ええ……大丈夫ですわ」
ふと、老婦人は考え込むように視線を落とし、何かを思い出したように微笑んだ。
「もし行くあてがないなら、私のカフェで温かいお茶でも飲んでいかないかい?」
「……!」
カフェ——紅茶が飲める場所。
それは、この異世界に迷い込んだ彼女にとって、初めて耳にする「馴染みのあるもの」だった。
どこにも行けるあてがない今、誰かの優しさが、こんなにも心に沁みるものだとは思わなかった。
メルは少し迷ったが、老婦人の穏やかな笑顔に、自然と頷いていた。
「……お世話になっても、よろしいかしら?」
「もちろんさ。ほら、こっちへおいで」
差し伸べられた手に、そっと自分の手を重ねる。
こうして、異世界令嬢メルフィーナの“日本での迷子生活”は、新たな出会いとともに動き始めたのだった。
---
→次回予告「働いたことありませんけど!? 貴族令嬢、挑戦の時!」
「……働く?」
貴族令嬢として育った彼女にとって、それはあまりにも突拍子のない提案だった。
しかし、異世界に放り出された今、自分の力で生きていくしかない。
「私に……できることがあるのでしょうか?」
働くという選択肢に戸惑いながらも、メルフィーナは新たな一歩を踏み出すことを決意する——!
眩い光に包まれた直後、ふわりと宙を舞うような感覚が襲う。
だが次の瞬間、重力に引きずり込まれるような衝撃が走り、冷たい地面の感触が足元に広がった。
だが、身体の奥底がまだふわふわと浮いているような気がする。
足が地に着いているのかすらわからず、意識が追いつかない。
頬を刺すような冷気、衣服の隙間から入り込む冷たい風。
指先に触れるのは、粗い石畳のような硬い地面——けれど、それだけではない。
どこからともなく漂う、油や煙のような匂い。
湿った空気と、ざわざわと絶え間なく響く人々の話し声。
メルフィーナは、恐る恐る目を開いた。
——そこには、見たこともない光景が広がっていた。
「……なに、これ?」
視界に映るのは、どこまでも高くそびえる建物。
壁には奇妙な絵と文字がびっしりと並び、ネオンのような眩しい光があちこちで瞬いている。
けれど、その文字の形は魔術師が描く符号のように意味不明で、全く読めない。
そして——
「っ!?」
轟音を響かせながら、巨大な鉄の箱がすぐそばを猛スピードで通り過ぎていく。
その正体が分からず、メルは思わず後ずさった。
(な、なにあれ!? 魔道具なの!?)
金属が軋む音、けたたましいクラクション、機械的な音が次々と耳を打つ。
さらに、行き交う人々がみな手元に小さな四角い板を持ち、それに視線を落としながら歩いているのを見て、メルの困惑はさらに深まった。
「これは……一体……?」
異世界転移したのは間違いない。でも、ここはまるで……
魔法ではなく、機械の支配する世界——!?
メルはただ呆然と立ち尽くした。
◆◇◆
「ねえ、あの子見て! すっごいドレス!」
「映画の撮影かな?」
「いやいや、さすがに目立ちすぎでしょ……」
ふと、人々のひそひそ話が耳に入る。
気がつけば、周囲の人々が明らかに自分を不思議そうに見つめていた。
それだけならまだしも、彼らは手に持っている小さな板をこちらに向け、カチカチと操作している。
(……まるで、見世物みたい!)
舞踏会で視線を集めることには慣れている。
けれど、ここで向けられる視線は興味と困惑、そして、どこか冷たい好奇心を孕んでいた。
(もしかして、この世界の礼儀として、貴族の姿を記録する習慣でもあるの? それとも……)
「な、何なのよ……」
ふいに、不安が一気に押し寄せた。
ここはどこ? どうすればいいの?
誰か、助けて——
そう思った瞬間、
「——危ない!」
突然、ふわりと温かい手がメルの腕を支えた。
驚いて顔を上げると、そこには柔和な笑みを浮かべた老婦人がいた。
◆◇◆
「おやおや、そんな格好でどうしたんだい? まるでヨーロッパのお姫様みたいだねえ」
温かく、どこか懐かしい響きの声だった。
メルは戸惑いながらも、必死に言葉を探す。
しかし、「別の世界から来た」などと説明できるはずもなく——
「えっと……」
口ごもる彼女を、老婦人は優しく見つめた。
「寒くないのかい? そんな薄着で歩いていたら風邪をひくよ」
「え、ええ……大丈夫ですわ」
ふと、老婦人は考え込むように視線を落とし、何かを思い出したように微笑んだ。
「もし行くあてがないなら、私のカフェで温かいお茶でも飲んでいかないかい?」
「……!」
カフェ——紅茶が飲める場所。
それは、この異世界に迷い込んだ彼女にとって、初めて耳にする「馴染みのあるもの」だった。
どこにも行けるあてがない今、誰かの優しさが、こんなにも心に沁みるものだとは思わなかった。
メルは少し迷ったが、老婦人の穏やかな笑顔に、自然と頷いていた。
「……お世話になっても、よろしいかしら?」
「もちろんさ。ほら、こっちへおいで」
差し伸べられた手に、そっと自分の手を重ねる。
こうして、異世界令嬢メルフィーナの“日本での迷子生活”は、新たな出会いとともに動き始めたのだった。
---
→次回予告「働いたことありませんけど!? 貴族令嬢、挑戦の時!」
「……働く?」
貴族令嬢として育った彼女にとって、それはあまりにも突拍子のない提案だった。
しかし、異世界に放り出された今、自分の力で生きていくしかない。
「私に……できることがあるのでしょうか?」
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