異世界の歩き方

月野片里

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零章 始まりはドタバタで

迷走回廊2

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目を開けると見知らぬ天井が目に飛び込んできた、
「目が覚めても変わらないか。」
目を覚まして辺りを見渡し、何があったのかを思い出した。
冥府役場は、今日も沢山の人で賑わってていた。
そんな人達を横目に、受付に座る職員の1人に声を掛けてみる。
ここの職員は皆んな白い服を着ていて、男女ともに清潔感がある。
しかし、この人は少し違った雰囲気だった。
髪はボサボサで無精髭、服もヨレヨレで薄汚れている。
とても役所で働く人には見えない風貌だ。
職員の男はこちらを見ると眠そうな声で答えてくれた。
名前を聞くと、ダルそうに答えてくれる。
名前は未延なつきと言うらしい。
アルフさんは、どうやら役所の仕事よりも寝る事の方が好きみたいだ。
仕事中に居眠りしている所をよく見かけるしね。
俺が名前を言った瞬間、一瞬だけ顔つきが変わったような気がしたけど気のせいかな? まぁ、そんな事は置いといて。
どうやら未延さんの言う事によると、俺は生死不明のあやふやな人間らしくなるべく関わりに会いたくは無いらしく、俺の話を聞き終わると早々に奥の部屋へと案内してくれた。
奥の部屋に着くと、未延さんはお茶を出してくれながら話を始めた。
その話はこうだ。
俺は確かに死んではいない。
だが生きている訳でもないそうだ。
現世で言う所の幽体離脱のような状態らしい。本来ならすぐにでも身体に戻る事が出来るのだが、何故かそれが出来ないのだそうだ。
理由は分からないらしい。
つまり今の俺は魂だけの幽霊みたいなものなのだ。
そして、このままだといずれ消滅してしまう。
だから俺は生き返れないと言われた。
未延さんは申し訳なさそうに頭を下げたが、俺は全く気にしていなかった。
むしろこれで良かったと思っている。
だって、もし生きていたとしたら、またあの辛い日々を送る事になるかもしれないからね。
それに、まだやり残した事もある。
だから、このまま消えてしまう方が良いんだ。
未延さんにお礼を言い部屋を出て行こうとすると、呼び止められた。
未延さんは、最後に1つお願いしたい事があると言った。
それは、役所の仕事を手伝ってくれないかという頼みだった。
何故なのか聞いてみると、人手が足りない上に未延さん自身があまり役所の仕事が好きではないらしい。
それでいつもサボっている内に他の人が辞めてしまったりして困っていたようだ。
なので、出来れば仕事を手伝わないかと言われてしまった。
正直言って迷惑をかけるだけだと思ったので断ろうとしたんだけど、よく考えてみると今は他にする事も無いし、暇潰しになるかもと思って引き受ける事にした。
すると、未延さんはとても嬉しそうにして、早速仕事の説明を始めてくれた。
内容は簡単で、書類整理をするだけだった。
ただ量が半端ない・・・ それから数日の間、毎日のように役所に行って書類整理をして過ごした。
最初は辛かったけど慣れてくると案外楽しくなってきた。
何より、未延さんが喜んでくれるのが嬉しい。
最近は少し打ち解けてきたのか笑顔を見せてくれるようになった。
今日も役所に行くと未延さんが出迎えてくれた。
「おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
挨拶を返すと、未延さんは少し照れたように顔を背けていた。この数日間で分かった事だけど、どうやら未延さんは男性に慣れていないみたいだ。
俺が近づくと恥ずかしそうにしている。
その理由を聞いてみると、どうやら未延さんには婚約者がいるらしく、もうすぐ結婚する予定だったみたいだ。
しかし、突然婚約破棄されて落ち込んでいた所に俺が現れたという事らしい。
それを聞いた時、胸の奥がズキッと痛んだ。
どうやら俺は未延さんに恋心を抱いているようだった。
自分の気持ちに気付いた時はショックだったが、今更告白しても迷惑だろうと思い黙っておく事にした。
仕事場につくと、早速仕事に取りかかる。
未延さんは相変わらず眠そうな顔をしながら作業をしていた。
俺も、いつも通り未延さんの手伝いをしていると、部屋の扉が開き男性が入ってきた。
その男性は、俺を見るなり驚いた表情を浮かべると、急いで駆け寄ってきた。
そしていきなり殴ってきた。
その行動に驚いていると、未延さんも慌てて近付いてきた。
一体どういう事なのか聞くと、彼は未延さんの婚約者だったらしい。
未延さんは俺が殴られた理由を話してくれた。
どうやら俺が未延さんにセクハラをしたという噂が広まっているらしく、彼がそれを耳にしたらしく怒って殴りに来たのだそうだ。
未延さんの話を最後まで聞かずに一方的に暴力を振るった彼に対して怒りが込み上げてきたが、ここで揉め事を起こせば未延さんに迷惑をかけてしまうのでグッと堪える。
そして、未延さんの制止を振り切って帰って行った。
その後、未延さんは俺に謝ってくれたけど、別に未延さんが悪い訳ではないので気にしないで欲しいと言っておいた。
翌日から彼の姿を見なくなった。
どうしたのか未延さんに聞いてみると、どうやら実家に帰ったらしい。
未延さんは俺のせいで迷惑をかけたと言っていたが、本当に悪いのは彼の方だと思う。
未延さんは何も悪くないのだから。
それから数日後、役所に出勤すると未延さんが部屋の前で待っていた。
俺を見つけると小走りで近づいてきて、真剣な眼差しで見つめてくる。
何かあったのかと思っていると、彼女は俺の手を取り握り締めてきた。
その手は小さくて柔らかく、温かく感じられた。
「あの、生き返れる方法が見つかったの
、ここから西にある神社に案内人が居るの、彼の案内で生き返れるよ。」
未延さんの話を聞く限り、どうやら俺は助かる事ができるらしい。
でも、どうして未延さんが案内人の事を知っているんだろうか? 疑問に思っていると、未延さんは俺の考えを読み取ったかのように説明してくれた。
何でも役所の職員なら誰でも知っている話なんだそうだ。
未延さんによると、案内人は死者の魂を導く存在なのだそうで、役所に訪れる亡者の魂を選別しては神社に案内しているんだとか。
ただし、案内人に会う事が出来た者はほんの一握りしかいない為、ほとんど誰も信じてはいないらしい。
俺も半信半疑だったけど、未延さんに手を握られているせいか、不思議と信じる事ができた。
未延さんと一緒に役所を出ると、西の方に向かって歩き始めた。
しばらく歩くと小さな森が見えてきた。
森の中に入ると辺り一面木だらけで薄暗く不気味な雰囲気が漂っていた。少し怖くなって足を止めていると、未延さんが優しく手を握ってくれた。
そのおかげなのか恐怖心が和らぎ、勇気を出して前に進む事ができた。
そのまま歩いて行くと、目の前に古びた社があった。
社の中へ入ると、奥で1人の女性が正座をして待機していた。
その女性は黒い着物を着ており、長い黒髪と赤い瞳が特徴の女性だった。
「いらっしゃいましたか。私はこの神社の主で御狐神と申します。」
そう言って頭を下げてきたので、俺も慌てて自己紹介をする。
すると、未延さんが女性について教えてくれた。
この人は案内人では無く、神様らしい。
名前は御狐神 鈴音と言い、この山を守護する稲荷神の眷属だそうだ。
この山には様々な種類の妖魔と呼ばれる化け物が生息しており、それらは人々の生活を脅かす害獣として恐れられていた。
しかし、ある日を境に妖魔達は姿を消してしまったのだという。
その原因は、この山に祀られている稲荷神社の神である白銀様のお陰だという事だ。
この山を住処としていた妖魔達を追い払う為に神通力を使い続けた結果、力を消耗してしまい倒れてしまったらしい。
そこで、白銀様に代わり別の土地へ行ってもらう事になったのだが、その行き先を決める事が出来なくなってしまったのだそうだ。
その問題を解決するべく、白銀様の御使いがこの女性であり、彼女の役目は新しい土地へと導く事だった。
「貴方がここを訪れたのは偶然ではありません。私達の願いを聞き届け、この場所に導いて下さったのです。」
俺はただ自分が現世に戻りたかっただけなのに、そんな大層な事をした覚えはないんだけど・・・俺が困惑していると、未延さんが補足してくれた。
どうやら、本来であれば死んでしまった者が役所を訪れる事は滅多に無いんだそうで、案内人と出会える確率は0に等しいんだとか。
今回、俺が案内人に巡り合うのは奇跡に近いらしく、御狐神様と未延さんの2人に会うことすら本来なら無理に近いらしい。
それ程までに案内人は珍しい存在で、案内人に出会う事こそが死から蘇る事が出来る唯一の手段らしい。
案内人が死者の魂を導く役割を持っているのは、死んだばかりの人間しか案内出来ないからだそうだ。
未延さんは俺の為にここまで調べてくれていたみたいで、その事に感動した。
「では、これから案内人の元へ向かいましょう。」
そう言うと、御狐神様は立ち上がり歩き出した。
未延さんは俺の手を握ると、御狐神様の後を追って歩き始める。
御狐神様の後ろを歩いている間、未延さんは俺に話しかけてくる事は無かった。
無言のまま歩くこと数分後、大きな洞窟の前にたどり着いた。
その入口の前にはカーキ色のトレンチコートを着た男性が立っていた。
どうやら彼が案内人らしい。
「彼が案内人だよ。彼は人じゃないけどね。」
未延さんはそう言いながら笑みを浮かべると、俺の背中を押した。
押された勢いで転びそうになったけど、何とか体勢を整えて案内人の元へ近付いた。
すると、彼は笑顔で迎えてくれた。
「初めまして、私は案内人をしています地蔵のバクラバと申します。以後お見知りおき下さい。」
俺は彼に挨拶を返すと、気になっていた事を質問する事にした。
「あの、案内人って一体何者なんですか?」
「案内人とは、簡単に言えば魂の案内役です。」
どうやら案内人は、俺達が生きる世界とは別の世界に存在しているらしい。
そこには様々な生き物が暮らしているそうなのだが、その中でも特別な存在がいるんだとか。それが彼、案内人というわけだ。
そして案内人は、死者の魂を導き別の世界へ送り届けるという仕事を行っているらしい。ただし、案内人が死者の魂を送り届けるのは、あくまで善行を積んだ人だけなのだそうだ。
悪人や罪を犯した者は別の世界の閻魔大王によって裁かれる為、案内人の仕事は無いらしい。
案内人は基本的に神社で生活しているらしいけど、他にも色々な場所に赴いているらしい。
ちなみに、この山にいる妖魔達はこの神社にやって来る亡者達を喰らいに来ただけなので、別に悪さをしに来ているというわけではないようだ。
「貴方がここにやって来た理由を教えてもらえますか?それによって案内出来るかが決まります。」
確かにそうだ。
もし、俺が生き返りたいなんて言ったら、この人達の仕事を邪魔してしまう事になる。
だけど、もう答えは決まっている。
俺は生き返る為にここへ来たんだ。
だから、俺は正直に話す事を決めた。
「俺はどうしても生き返りたいんです。俺の両親は事故で死にました。そのせいで、俺は1人で生きていかなければならなくなり、高校を中退してしまいました。」
俺は自分の気持ちを全て話した。
すると、バラクバが口を開いた。
「事情は分かりました。案内人として、あなたを別の世界に送り届ける事は可能です。しかし、それは貴方が1人で生きていく事が前提になります。つまり、今のままではダメだということですね。」
そう言って、彼は俺の体を指差してきた。
どうやら、今の俺の状態だと案内できないらしい。
俺には何の事だか分からなかった。
すると、バラクバは教えてくれた。
俺に足りなものがあると、それは善行らしいバラクバに会うために使い切った状態だということを。
「善行を積むには、それ相応の行動を起こす必要があります。例えば、困っている人を助けるなどですね。」
なるほど、そういう事だったのか。
じゃあ、やっぱり俺がやりたい事は一つしかないな。
「未延さん、御狐神様、ありがとうございます。俺がこの世界でやり残した事、それが見つかった気がします。」
「そうかい・・・良かったよ。」
未延さんは寂しげに微笑むと、俺の手を握ってくれた。
御狐神様も優しく俺を見つめている。
「さぁ、行きなさい。あなたの願いが叶う事を祈っております。」
御狐神様の言葉と同時に、目の前が真っ白になった。
眩しさが収まると、そこは森に囲まれた草原だった。
「ここは・・・どこなんだ?それに、体が軽いような。」
俺は立ち上がって体を確認してみた。
すると、今まで感じていた疲労感が嘘のように消えており、とても体調が良いように思えた。
とりあえず、ここでじっとしている訳にもいかないので、歩き回ってみる事にした。
しばらく歩くと、遠くに街みたいなものが見える。
バラクバと2人街へと向かうのだった。
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