幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

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この先プラトニックにつき【誘惑編】

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「な、暁人!どうだ?」
「……え?どうって?」


隣に腰掛けた美人に顔を覗き込まれ、思わずドキッとする。ふわふわの髪が顔にかかって、今日も要はとんでもなく色っぽい。恭ちゃんが一撃でハートを撃ち抜かれるのも納得の美しさだ。


「だから…爽のこと、誘惑できたか?」
「えっ……?あー……うーん……ちゅーはしたよ…?」
「えっここで!?」
「…う、うん…」
「………お前らってマジで結構大胆だよな?」


要は両足を伸ばして、半分呆れながらケラケラ笑う。

まぁ、普通に考えたら…こんなところでちゅーしちゃダメだよね?


「でも……やっぱり、その……身体には触ってもらえないの……」
「そっか……」
「うん……俺ってそんなに魅力ないのかな…?こんな細い身体じゃやっぱり……」
「いやそれはない絶対に」
「え?」
「俺が言うのもなんだけど、お前かなりエロい身体してると思う…細いけど腰回り絶妙に肉付きいいし」
「…………なんか要、恭ちゃんみたいなこと言うね?」
「ハァ!!!?ふざけんなっ!!!全然ちげーから!!!俺には一切下心ねーもん!!!」


確かに。要は絶対俺のことそういう目で見てないもんね。
…っていうか、恭ちゃんだって…俺に対しては下心なんてないと思うけど。だって、もう…要しか目に映ってないもんあの人。


「はぁ……しょーがねぇなぁ……」
「ん?」
「暁人にはまだ清らかなままでいてほしいなーなんて思ってたけど……お前と爽をくっつけたの俺だしな……お前が喜ぶなら、最大限協力してやるか…」
「へ…?」
「……暁人、日焼け止めって持ってきてる?」
「え?朝全身に塗ったよ?」
「わかってるけど、今持ってるか?」
「あるけど……なんで?」
「よし……じゃあ、爽が戻ってきたら……」



要は俺にとっておきの作戦を耳打ちしてきた。


話終えると、とんでもないドヤ顔で俺にニヤッと笑いかける。
確かに……それなら、どう転んだって触ってもらえるけど……そこから先、爽をその気にさせられるかどうかは完全に俺の力量次第だ。

うまく……いくのかな……



「なーんかさ……!最初はイヤイヤだったけど…海って、楽しいな!俺、友達と海来たの初めてなんだよ」
「俺もだよ…!友達と海初めて!俺もすっごく楽しい!」


要と顔を見合わせて、お互いニコリと笑う。


「それにね…」
「ん?」
「要が恭ちゃんと仲良くなってくれてて…俺…めちゃくちゃ嬉しいの!」
「………ふーん…」
「ふふっ……!要、もしかして…相当恭ちゃんのこと気に入っちゃった?」


要は急に真剣な顔になったかと思うと、小さく……だけど、しっかりと頷いた。嫌なことは死んでも嫌だと言う要が、ちゃんと認めたことに驚く。

恭ちゃんすごいじゃん…!要にちゃんと気に入られてる…!!!


「俺………さ………めちゃくちゃ口悪いだろ?」
「え…?うん」
「けど、……元々は違ったんだよ」
「…違ったって…喋り方?」
「うん………親の躾もあって、喋り方…めちゃくちゃ丁寧だったし…性格もかなり内気だった」


今じゃ想像もつかない話に驚いて、食い入るように要の話に耳を傾ける。


「俺、中学の時にちょっとトラウマがあってさ………そのトラウマ以降……人を寄せ付けない最善を探して……それで、結局この話し方に至ったんだ」
「……そう………だったんだ……」
「うん…今はもう、口が悪いのが自分だって思ってるし…今更変える気もないけど……でも、こうやってトゲトゲして生きてると…嫌なこともいっぱい言われるし、敵もたくさん作るんだよ」
「うん…」
「結局さ…、俺の口の悪さで俺を嫌いになる奴って……別に俺のこと見てるわけじゃないんだよな…表面しか見てないんだよ」


要は長い前髪を耳にかけて、ため息をつく。
きっと要は、俺が想像もつかないような嫌な思いをたくさんしてきたんだね。
有名人の息子で、しかもこんな美人なんだ……嫌でも注目されてしまうに決まってる。


「口の悪さは、俺にとって自分を守る手段だったから……他人に嫌がられようとやめる気なんてない………そもそもめんどくさい輩と関わらないために始めたことだしな…?けどな……それでも、嫌われることに慣れたりは…しないんだよ…ずっと…」
「要……」


そっか……

"毒舌"が要にとっての自己防衛だったんだね。
恭ちゃんとは、真逆の選択をしているけど……やっていることは同じだ。
2人とも、傷付いた心を守るために…必死だったんだね。

なんだ………お似合いどころか、似たもの同士じゃん。


こんなの、惹かれ合うに……決まってる。



「だから俺は、口の悪さは自分の短所だって…ちゃんと認めてる……」
「うん…」
「なのにさ………アイツ…俺の毒舌…好きだって言うんだ」
「…!」
「口が悪いことを"許す"んじゃなく……そこも"魅力"って言ってくれたんだ……」


要は、半分泣きそうな声でそう呟く。
いつもと全く違う親友の姿に、なんだか俺まで泣きそうになった。


「…そっか……恭ちゃんらしいなぁ…」
「参ったよ……俺、そんなの言われたの初めてで……正直、ちょっと困ってる」
「………好きになりそうだから?」
「………そう、言うわけじゃ……ねーけど……」
「ふふっ…」
「あ……恭介には言うなよ!?」
「もちろん、言わないよ?」


要は両足をギュッと抱き込んで、ほんのり赤く染まった顔を隠そうとしている。
その仕草がかわいくてかわいくて…、俺は要の肩に頭を乗せて寄り添う。


「要……かわいいっ」
「それ……絶対お前には言われたくない」
「えーっ!?なんでぇ!?」
「俺が出会った人間の中で、暁人が一番かわいいから」
「あははっ!!今度は爽みたいなこと言うじゃんっ!!」


不思議だなぁ。前は、かわいいって言われることに抵抗あったのに……爽のおかげですっかり最高の褒め言葉に変わってしまった。

今は…大好きって言われるのと同じくらい嬉しい。


「………なんかさ………、恭介のそばにいたら…マジでそのうち心持ってかれそうで…ちょっと怖い……」
「…いいじゃん!」
「いや良くねぇって……アイツ、チャラ男だし…」
「あー……大丈夫だよ……?恭ちゃんは要が思ってるよりずっと、要に対して真剣だから」
「えっ…?なんだよそれ…どういう意味?」
「……まぁ、これ爽の受け売りだけどね?」
「爽?」
「うん、だから今度恭ちゃんに過去の話聞いてみて?」
「…過去?」
「きっと………今度こそちゃんと、色んなことが動き出すよ」


俺が微笑むと、要はよくわからないと言いたげに首を傾げていて…なんだか新鮮だった。


「要は…男の人がちゃんと恋愛対象になる人なんだね」
「………変か?」
「ううん!だって俺だってそうだし?……なんていうか、人を好きになるのって理屈じゃないんだなぁって…俺は爽に教えてもらったから……親友と考え方が一緒で嬉しいなって」


爽とこうなる前は、自分の性的嗜好について深く考えたことがなかったんだよね俺。爽に恋してるって気付いた時も、普通なら同性であることにもう少し悩んでもいいのに、俺にはそういう葛藤は一切なかった。

ただ、爽が好きで…その気持ちに性別は関係ないって無意識に感じてた。

だけど、交際を始めてからは…俺みたいに考えている人は案外稀なんだって知ったんだ。だから…恭ちゃんも要も、俺と同じなのかなって思ったら……勝手に親近感湧いちゃった。


「まぁ………そうだけど……俺のは…暁人のとはちょっと違うけどな?」
「え…?そうなの?」
「うん……でもその話は……また、今度詳しく話すよ」
「そっか……わかった!」


ニコッと笑いかけると、お前ってほんといい奴…っと要がボソリと呟いた。

それこそ、要には言われたくないよ。要こそ、ほんとは俺なんかよりずっとずっといい奴じゃん!誰が誤解してたって、俺はちゃんと要のいいところ知ってるんだからね!!!




どうかこの先、俺の大好きな親友が少しでも傷付くことがありませんように……


俺はそう、心の中で祈った。

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