幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

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この先プラトニックにつき【挨拶編】

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家族との食事を終えて、俺は爽を自室に招き入れた。
お腹いっぱい食べ過ぎて、少々苦しい。お母さんの料理久しぶり過ぎて、箸が止まらなかった。失敗。

部屋の中は俺が出て行った時から、何も変わっていない。荷物はほぼ全て爽と暮らすマンションに持っていったからすっからかんだけど、お母さんがこまめに掃除してくれていたようでとても綺麗だ。
実は、爽をこの部屋に入れたのは幼少期ぶりだったりする。うちは狭いから、家族同士で集まる時はいつも爽の実家だったし、爽がうちに来たとしてもリビングまでしか入らなかったから。

つまり…"恋人"としての爽をこの部屋に入れるのは初めてってことになるよね?…そう思うと、なんだかちょっと緊張感しちゃう。



「うわ……あきの部屋……すっげぇ久しぶり…懐かしいな」
「………」
「………?あき?」


俺は何も言わず、後ろからギュッと爽にしがみついて背中に顔を押し付ける。


「ふっ……なんだよ、家族と離れた途端甘えんぼか?」
「………」
「あき?…ほんとにどうした?」


爽は優しい声で語りかけながら、俺を腕の中でクルリと器用に回転させて正面から頭を包み込む。そのままサラサラと髪を指で梳かれた。
なにその仕草…慣れ過ぎでしょ。タラシめ。


「………あんなの、俺……聞いてないもん」
「ん…?挨拶の話?」
「挨拶なんてかわいいもんじゃなかったじゃん…!!"息子さんを、俺にください"なんて、あれじゃまるで…!」
「……まるで?」
「…………け、………結婚の申し込みじゃんっ……」


あんなセリフ、ドラマ以外で聞くことになるなんて思ってもみなかった。しかも、自分のために爽が言ってくれるなんて……


「俺は、あきの許嫁じゃないの?」
「……え、そう…だけど…」
「なら、あきの解釈は間違ってないよ」
「………は、」
「俺は、そうなること前提でああ言った」


澄んだ瞳で見下ろされて、顔に熱が集まっていくのを感じた。

やっと泣き止んだのに、まだ泣かせる気なの…?


「今はまだ、許嫁だけど……いつかはちゃんと俺と結婚してほしいなって……マジで思ってるよ」
「………爽っ…」
「愛してる……あき」




俺ずっと………爽と恋人になれたことは偶然が重なった奇跡だって思ってた。

親同士が仲良くならなきゃそもそも俺たちは出会ってなかったし、許嫁の約束がなきゃ一緒に住むこともなかった。


他人として出会ってたら、俺と爽が恋に落ちることなんて…きっとなかったって。



でも、違ったんだね。


俺、わかったよ…?



たぶん俺たちは、お互い全く知らない他人として出会ったって……きっとこうなってた。




俺は絶対、爽に恋してた。




俺と爽が恋に落ちることは、きっと運命だったって……今はそう思えるよ……?



爽が、そう思わせてくれた。




「ふふっ…かーわいい顔………」
「……ううっ…」
「あきはまだ若いし、これからたくさんいろんなことを経験してほしいなって思うから…そうなるのはまだまだ先だろうけど………お前が大人の男になるのを、俺ずっと待ってるから……隣で」
「……俺……絶対逃げらんないじゃんっ」
「…逃げたいの?」
「やだ、絶対逃がさない」
「あははっ!お前が逃がさないのかよ!」


爽はケラケラ笑いながら俺の頬にキスをする。優しい、触れるだけのキス。


「ねぇ、爽わかってる…?日本じゃまだ同性婚できないよ?」
「もちろんわかってますよ?でもその頃にはきっと、法律が俺たちに追いつくから」
「わあ…めちゃくちゃ前向きだ…!」
「まぁ、無理なら海外移住して…同性婚できる場所で暮らそーぜ?」
「なにそれぇ~!俺道連れ?」
「当たり前だろ?俺らもう運命共同体じゃん」
「……ふふっ、爽と一緒なら…もう、どこでもいいや!」
「…宇宙でも?」
「宇宙でも!」


顔を見合わせて2人で笑う。

やばい、めちゃくちゃ幸せ。


俺は爽の身体から手を離し、グッと勢いよくベッドに押した。そのままベッドに沈んだ爽は、かなり驚いた顔で俺を見上げる。ベッドに腰掛ける体勢になった爽の上に、跨るように対面で座り、キュッと抱きつく。ゼロ距離の密着度に、自分から仕掛けておいてかなりドキドキする。

大胆すぎるって…?

しょうがないじゃん!あんなこと親の前で言われたら……くっ付きたくなっちゃうよ。離れたくないって……思っちゃうよ。



「……おっ前………、めっちゃ大胆じゃん…何してんの…?」
「えー?抱っこして欲しかったんだもん…」
「…………もーなにコイツ……かわいすぎてムカつくんだけど……」
「えへへ~爽の身体あったかーい」
「…マジで勘弁してくれよ……」


爽は苦笑いを浮かべて俺の背中をさする。
首元に顔を押し付けてクスクス笑えば、小さな舌打ちが返ってきた。余裕のない爽は新鮮で、かわいい。


「………爽?」
「ん…?」
「……だいすき」
「…うーわ…お前、ほんと容赦ねーな…」
「ちゅーして?」
「だから、この体勢でそういうこと言うなっての!!」
「え~?ダメなの?」
「クソ天然が…!家帰るまで待てっての!」
「え?なんで?」
「ここ、お前の実家だぞ?普通にダメだろ」
「えーやだ、今してよぉ」


爽の首に腕を絡めて鼻同士をチョンと当てると、めちゃくちゃ渋い顔の爽に睨まれた。ほんのり赤いから、多分照れてる。


「お前ほんとさ……意味わかんない場面で大胆になんのなんなんだよっ…」
「ダメ?」
「…いや、めっちゃ興奮する」
「じゃあ問題ないじゃん!ちゅーして?ねぇ、爽~」
「ダーーーーッ!!!それはダメだって!!!倫理的に!!!」
「なんでーー!?もう親完全公認じゃん!!!別にちゅーくらいここでしたってよくない!?誰も見てないじゃん!!!」
「ダメ!!!!」
「なんで!!?」
「ぜってーそれじゃ済まねぇもん俺が!!!」
「……え?」


驚いてポカンとしている俺に、爽は耳元で囁いた。


『ここでえっちなことしたいなら別だけど…な?』


慌てて爽の顔を見ると、ニコッとちょっぴりセクシーな微笑みが返ってきた。


「へ!!?…え、えっちなことって……」
「あれ、ちがった?」
「お、俺はただ…爽とちゅーしたかっただけで……」
「……ふぅん…ほんとかなぁ……なんかお前最近めちゃくちゃ積極的だからなぁ…」
「や、やだ…そんな風に言わないでよっ…」
「………ブハッ!!!赤くなりすぎ!!!冗談だって!!!俺ハネムーンまでめちゃくちゃ頑張って我慢してるんだぞ?ここで手出すわけねーじゃん!」
「ハァ!!!?またからかったの!!!?もー酷い!!爽のいじわるっ!!!」



俺の抗議にも、爽は全然聞く耳持たずって顔で笑っている。俺はもう、目の前の綺麗な顔にドキドキが止まらないのに。


さすがにここでなんかしようなんて俺も思ってなかった。ただただ、気持ちが溢れて…キス、したかっただけ。

……ほんとだよ?

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