幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

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例えば及ばぬ恋として【旅行編】

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「んー……これ、合ってる…?」



ひとりぼっちの空間で、思わず意味のないセリフを呟いてしまう。


もうすでに爽には何度も素っ裸を見られてるのに…なんだか今日は着替えシーンを見られるのは抵抗があって、内風呂横の脱衣所に逃げ込んだ。そして、1人で宿に備え付けの浴衣に着替える。

この恥ずかしさの理由は、言わずもがな今夜のことを想像してしまうからなんだけど……


ボーッとしているとふいに想像力が爆発しそうになり、咄嗟にブンブン首を振る。



ダメだ。
今は考えるな。

平常心、平常心。



パンパンっと2回自分の頬を叩いて、なんとか己を律する。

よし、切り替え成功。




爽曰く、中庭にある日本庭園がこの宿の売りらしいから、すっごく楽しみ。


やっとの思いで着替えを終えて、洗面所の大きな鏡を見ると、なんとも不恰好な自分の姿に笑いそうになった。そりゃそうだ、浴衣を着る機会なんてほとんどないもん。
ものすごく微妙な状態で脱衣所の扉を開けると、すでにピシッと浴衣を着こなした爽が立っていた。


「かっ……………!!」
「……か?」
「…………こいい………」
「ぶはっ…!おー、目がハートマークになった…浴衣好き?」
「……っていうか…」
「?」
「………爽が好き」
「………襲うぞバカ」


素直な言葉を溢したのに、爽にはうまく誤魔化されてしまった。いや……本音、なのかな?

爽は俺の浴衣の襟元をグッと掴んで着付け直してくれる。


「ごっごめん…俺うまく着れなくて…」
「ん、普段着る機会ないもんな」
「爽は……浴衣着るの上手だね…?」
「まぁ、腐っても老舗呉服屋の孫だし?小さい頃から母さんに仕込まれてる」
「あっ…!そっか!」


そうだった。お義母さんの実家……有名な呉服屋さんだもんね。そりゃ爽は着物着るの得意だよね。


「はい…出来た」
「ありがとう…!わー、やっぱ上手ー!!」
「…………」
「……ん?爽?」
「いやぁ……クッソエロいなぁって思って……」
「は!?」
「俺、あんまコスプレとか興味ないんだけどさ……好きな奴の浴衣姿って…煽られるもんだな…」
「……っ」
「ふっ……真っ赤………、あき…世界一かわいいよ」
「うー……」
「ん?」
「恥ずかしいってばぁ……!」
「あはっ…マジたまんねーなお前」


爽は、両手で顔を覆う俺を全て包み込むように抱きしめる。
浴衣姿の爽はかっこいいし、エロいって言われて嬉しい。……だけど、反面めちゃくちゃ恥ずかしい。

もう頭の中グッチャグチャだ。


顔が熱い。



ポーッとして爽の身体に密着した状態で小さくなっていると、ふいに思いもよらぬ場所を触られ……飛び跳ねた。



「ひゃあっ…!!?ちょ、なに!?どこ触ってんの!!?」
「……あ、ごめんつい…」
「"つい"でお尻撫でるなぁ!!!」
「だって……あきのお尻キュって上がっててすっげー形いいんだもん……浴衣ってこういうとこも如実に出ちゃうよな……エッロ……」
「ハァ!?ね、ねぇっ!やだっ…お尻掴まないでっ」
「それは……どっちのやだ?」
「……は?」
「ほんとにやめて欲しい時のやだ?それとも………まだして欲しい時のやだ?」


何その質問……!!?

腰を支えつつ器用に俺のお尻を撫で回す爽を、下から見上げる。


「……は、…なにそれっ…!?」
「ね、…あきどっち?」
「…っ」
「もっと、してほしい?」


爽はわざとらしく俺の耳元に唇を寄せて、セクシーな声で囁く。

この人絶対……色々わかっててやってる!!!!!

俺は焦りに焦って、勢い任せにドンっと爽の胸を押し返した。


「おっ……と、」
「……っ爽!!!外行くんじゃないの!!?」
「……ちぇっ……やっぱ流されてくんねーか…」
「だって……!」
「ん?だって…?」
「これ以上されたら……た、………勃っちゃいそうなんだもん……そしたら外…行けなくなっちゃうよ?」


恥ずかしくて両手で口元を押さえていると、爽が目の前でクスクス笑い出した。


「ふはっ…!」
「なんで笑うのぉ…!」
「いや……あきはアレで勃っちゃうのかぁって思ったらかわいくてかわいくて…!」
「……っ」
「はーっ……かわいっ」
「………爽のせいじゃんっ…」
「え?」
「……俺に、お尻で気持ちよくなること教えたの……爽じゃんっ……」


俺がそう言うと、爽は息が止まったみたいに静止して……その場で俯いてしゃがみ込んでしまった。


「……?爽?」
「………あー………やられた」
「ん?」
「からかってやるつもりだったのに…すっげーカウンター………俺の方が勃ちそう……」


余裕のなさそうな声色が無性にかわいくて、思わずプッと吹き出してしまった。

それを真っ赤な顔の爽に下から睨まれる。なにそれ。かわい。


「ねぇ、ほらもう行こ?早く行かないと日沈んじゃうよ?」
「……はぁ、なにこいつ……マジでかわいくてむかつく」
「あははっ!!こっちのセリフだってば!!爽かわいいー!」


爽は俺の言葉に一瞬驚いて、それからすぐにクスリと笑って立ち上がる。


「俺にかわいいとか言うのお前だけ」
「えへへぇ~!俺爽の彼氏だからね!俺だけは爽のことかわいがっていい立場でしょ?」
「ふっ…!だな?………あ!」
「え?なに!?」
「中庭にアイス屋さんあるけど…あき食べるよな?」
「えっ!?ほんと!?」
「うん、ここのミルクアイスめちゃくちゃ有名らしいよ」
「マジ!?嬉しい!食べたいっ!!」
「じゃ、行こう!」


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