幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

文字の大きさ
122 / 218
キスする前に出来ること【疑惑編】

9

しおりを挟む


「もぉー!!!俺心配したんだよ!?」
「……ごめ、」
「別にいいけどさぁ……そんなことより…かな、どうしたの?吐いちゃった?苦しいの…?」
「……あーえっと……飲み、過ぎた…だけ」
「……なんだ、そっか…!ビックリした…!!まだ出る?なら、全部出しちゃいな?」


恭介は俺の横にしゃがみ込むと、俺の髪が便器に入らないように持ちながら背中をさすってくれた。

「も~…かなが飲み過ぎて吐くなんて……、一体どんだけの量飲んだの?」
「……」
「お酒好きなのはいいけど、俺…かなの身体が心配……」
「………、ごめ…ん…」
「ま…俺が側にいる時は多少無理してもいいけどね…介抱してあげられるから」
「………ッ、うっ……けほっ」
「…大丈夫だよ、ヨシヨシ……ゆっくりでいいからね」
「……っ、」


優しい声に、余計に涙が溢れる。恭介からしたら、俺は吐き気の苦しさで泣いてるんだと思っているだろうし…正直都合が良かった。


「…あらまぁ……かな、ご飯また抜いたでしょ…?…ワインしか出てないじゃん」
「……ッ…、人のゲロ見て冷静に分析すんな変態っ…ゲホッ…」
「あははっ!え~?この状況でそういう事言うー?この意地っ張り~」
「……チッ」
「ふふふっ、まぁそういうとこもかわいいんだけどねぇ~!」
「…うるせーよ、」


いつもと同じトーンのやりとりに、なんだか安心して…気が付いたら吐き気は治まっていた。

どんな状況だって、俺は恭介といたら気持ちが安定するんだな…。認めたくないけど、やっぱり…"好き"のパワーは偉大だ。







全てを吐き終えてからは、恭介に促されてシャワーを浴びることにした。まぁ…色んなところがワインまみれだったし、当然だよな。

けれど…シャワーを浴び終えて浴室から出た瞬間、目に飛び込んできたのは…家に置いてあるだけで使ったことのなかった真っ白なバスローブだった。"着替え用意しておくから"という、恭介にしては気が利き過ぎた言葉になんの疑問も持たなかった俺は……つくづく間抜けだ。


……あの変態っ…!なんでバスローブの置き場所なんて知ってんだよ…!!










ガチャッ……



リビングの扉を開くと、さっきより少しスッキリしているように見えた。

恭介……部屋、片付けてくれたのか…
また荒れ気味だったの、コイツ気づいてたのかな……


「かなぁ~!シャワーお疲れ様ぁ~!!ホットケーキ作ったからちょっとでも食べ…ブハァッ!!!!!」
「テメェいい度胸だな」
「エエーーッ!!?マジで着てくれたの!!?ちょ、えっろ!!!ねぇ!!!バスローブ最高なんだけど!!!!?ど、どうしようっ…予想外すぎて俺っ…!!こんなエロいお兄さん独り占めしていいんですかぁっ!!!!?」


恭介はバスローブ姿の俺を見た瞬間、思いっきり両肩を掴んで全力で叫び出した。自分で仕組んだくせに…なに動揺してんだよコイツ。


「…はぁ?パンツすら用意しなかった奴のセリフとは思えねーな…ったく、まぁいいけど…着てみたら意外と楽だし」
「…………へ……、マジで、ノーパンすか…先輩……」
「………えー……?自分で確認すれば?」
「はぇ!!!!!?!?!」
「ふっ…!冗談だよばーか」


笑いながら恭介の頬を引っ張ると、顔を赤らめながらヘラッと笑われた。気の抜けた表情だ。
チラッと視線を向けた先には、俺が大好きなホットケーキが用意されている。

こんなに尽してくれるのに……どうして………


いや、まだ事実を確認してないんだ。諦めるのは早い。もしかしたら、何か事情があるかもしれないじゃないか。




「かな……ねぇ、抱きしめていい?」
「………」


恭介の言葉に、昨晩の出来事を思い出す。



……俺以外の人間を抱きしめたその腕で…俺を抱くの…?

…なんて、そんなこと聞けるわけない。

でも、このままなんて……無理だ。



「………その、前に…」
「…ん?」
「妹さんの…体調、どう?」
「え」
「具合良くなったのか?」
「えっと……、うん!すごい元気になったよ!?全然大丈夫!!!」


咄嗟に視線を逸らした恭介のその態度は、俺が数日間感じていた違和感が間違いではないことを知らせていた。

……やっぱり、変だ。コイツ……嘘…ついてる。


「……昨日、ずっと看病してたのか…?」
「…うんっ、…もちろん!俺かなに会えなくてすっごい寂し…」
「お前…妹さん以外に、誰かに会った……?」
「……へ?なんで、そんなこと…」
「いいから!!恭介……、誰かに会った?」
「………会って、ないって…」



不安そうな目で俺を見る恭介に、ゆっくり血の気が引いていく。



じゃあ、あれは誰?



何で嘘つくの?



俺のこと、大事にしてくれるんじゃなかったの…?




"死ぬほど一途"って言ってたくせに…

俺が性行為できないから、浮気したの……?





聞きたいことは無限にあった。だけど、聞いて何になる?無意味だ。恭介の浮気が事実でも…俺は、別れるつもりなんてない。


「………そっか、…良くなったなら…よかった…」
「……?かな?」
「……ホットケーキ…食べていい?」
「いい…けど、それより……」
「ん?」
「抱きしめたいんですけど…、いいですか?」
「…ん、いいよ…」


俺の許可を得た恭介は、いつものようにニコッと笑ってギュッと俺を抱きしめた。首筋に鼻先を埋められて、くすぐったい。

普段なら、一番幸せな瞬間なのに……


「いい匂いっ……かな、大好きっ…」


…ズキっと心臓が痛くなった。










今考えれば多分この時すでに、





俺の心は崩壊を始めていた。











…To be continued.
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

処理中です...