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バイプレイヤーズロマンス【前編】
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※スピンオフです。
今にして思えば、
俺の樋口 爽への感情は……"恋"というより"憧れ"に近かったように思う。
自分が苦しい時、辛い時、たった1人手を差し伸べてくれた素敵な王子様。地獄のような大学生活で抱いた、淡い感情。
それが本物の恋なのか…はたまた友情の延長なのか…それすらよくわからないまま長い時間が過ぎてしまった。
けれどそれが去年、唐突に終わりを迎えた。
『はじめまして…!日下部 暁人です!』
初めて樋口からあきちゃんを紹介された時、やっと自分の想いに決着がついた気がしたんだ。
彼に想い人がいることは学生時代から知っていたし、写真を盗み見たこともあったから美人なことはなんとなく知ってはいた。
だけど、一瞬にして勝てないと悟るほどだとは想像もしていなかった。だって…あんな綺麗な子、初めて見たから。小さくて、儚げな輝くほどの美少年。キラキラの瞳からは未来への希望と、万人への愛を感じた。見た目もそうだけどなにより心が真っ白で、驚いた。聖人君子の仮面を被り、真っ黒な腹を隠して生きてきた俺とは…真逆の存在。悔しいなんて感情すら湧かないほどの…完全敗北。
樋口が彼を大切にして来たその意味が、一瞬で俺にもわかってしまった。あきちゃんは樋口に愛されるために生まれて来たんだ。そう思ったらもう、俺の入る余地なんて最初からなかったって納得出来た。
それからゆっくり…樋口への想いを手放して、そしたらなんだか気持ちが安定した。長いことグラついた中途半端な想いを抱えていたからかな…決着がついてスッキリしたんだ。
きっと俺はもう……新しい恋に踏み出すことは、ない。
自分の店と、従業員と、うちの店を愛してくれるお客様を大切にする。それが今の俺の全てだって思えたし、そうやって生きていければ良かった。
…なのに、人生って本当にわからない。
シェイクスピア曰く、
"ぼんやりしている心にこそ、恋の魔力が忍び込む。"
俺を見つめる熱のこもったグレーの瞳は、
長年の片想いに決着をつけた男の子と……
全く同じ色だった。
その日、俺は閉店後の店のカウンターで帳簿を付けていた。翌日は定休日で、いつになくのんびりしていたと記憶している。
あきちゃんは樋口が迎えに来てすぐに帰ったけど、弟の旭くんはまだバックヤードに残っていたようで着替えを済ませた後ひょっこりとこっちに顔を出してくれた。
「楓さん、お疲れ様です!」
「…旭くん!お疲れ様~!」
俺と同じだけ労働した後とは思えない、爽やかな笑顔に癒される。若さってすごい。
うちの店は…働き者で、聡明で、根っから優しいこの兄弟で持っているようなものだ。今となっては、2人を紹介してくれた樋口に感謝しかないな。
「楓さんまだ帰らないんですか?」
「あー…うん…もうちょっと残ろうかなって…」
「…お店の…帳簿ですか?」
「そうそう、サボるとめんどくさくなるからなるべくマメにやっとこうと思って」
「そうですか……あんまり…無理しないでくださいね?楓さん…ワーカホリックだから普段からオーバーワーク気味なんで」
「え、そっかな?」
「そうですよぉ!働きすぎて倒れないか…僕心配です!」
「えっと、それは…ごめんなさい…!」
そんな心配されてるとは露ほども思っていなくて、素直に謝罪の言葉を口にすると旭くんは目を細めて俺を見る。慈愛に満ちた…優しい瞳だ。
「あ!良かったら俺車で送ろうか?もう外暗いし…」
「いえ、大丈夫です!女の子じゃないんですからそんな気にしないでください」
「そう…?でも送って欲しい時はいつでも言ってね?」
「はい……と、いうか……あの、」
「ん?」
「僕もちょっと残っていいですか?」
「うん…!もちろんいいよ!あ…じゃあ~コーヒー淹れよっか?」
「え、いいんですか?今朝も頂いたのに…」
「もっちろん!!」
「やった…!嬉しいです…!」
「ふふっ…ちょっと待っててね?」
解いていたロングヘアを再び一纏めにして、緩く結ぶ。
もう片付けを終えた後だけど…うちの大切な従業員には美味しいコーヒーを飲ませてあげなきゃね?うちの店にとってコーヒーは賄いみたいなものだから。
目の前のカウンターに腰掛けた旭くんに見守られながら、お湯を沸かして…ゆっくりゆっくり時間をかけて本日最後のハンドドリップを始める。
これは俺のささやかなこだわりなんだけど、うちの店に同じコーヒーカップはひとつもないの。それどころか、全て俺が自分で買い付けてきた一点物。色や形もバラバラなこの特別なカップとソーサーが、コーヒーを飲む時間をより贅沢なものにしてくれるんだと俺は思う。
うん、いい香り…。
もう夜だし、眠れなくならないように量は朝よりかなり少なめ。
「はい、お待たせ」
「…ありがとうございます」
俺が手渡したインディゴのカップを受け取った旭くんは、ニコッと可愛らしく笑う。相変わらず信じられないくらい綺麗な顔面だ。樋口の周りは常々美形だらけだけど…旭くんの綺麗さは…なんていうかこう…春の風みたい。暖かで優しい性格がモロに顔に出てる。その上背もまだまだ伸び続けていて、最近樋口の身長を越えたとあきちゃんが言ってたっけ。高校生でここまで見た目も人格も完成してる子、他に見たことない。あきちゃんも含めて、本当に日下部家は素敵なお宅なんだと思う。
あ…でもそろそろ高校卒業なんだよね旭くん。今日は日曜日だから私服だけど、学ラン姿を見れるのも後ほんの少しなんだなぁ……ちょっと寂しいかも。
コーヒーを一口飲み込んだ旭くんは、美味しい…と小さく呟く。それから俺をジッと見つめて、動かなくなった。
今にして思えば、
俺の樋口 爽への感情は……"恋"というより"憧れ"に近かったように思う。
自分が苦しい時、辛い時、たった1人手を差し伸べてくれた素敵な王子様。地獄のような大学生活で抱いた、淡い感情。
それが本物の恋なのか…はたまた友情の延長なのか…それすらよくわからないまま長い時間が過ぎてしまった。
けれどそれが去年、唐突に終わりを迎えた。
『はじめまして…!日下部 暁人です!』
初めて樋口からあきちゃんを紹介された時、やっと自分の想いに決着がついた気がしたんだ。
彼に想い人がいることは学生時代から知っていたし、写真を盗み見たこともあったから美人なことはなんとなく知ってはいた。
だけど、一瞬にして勝てないと悟るほどだとは想像もしていなかった。だって…あんな綺麗な子、初めて見たから。小さくて、儚げな輝くほどの美少年。キラキラの瞳からは未来への希望と、万人への愛を感じた。見た目もそうだけどなにより心が真っ白で、驚いた。聖人君子の仮面を被り、真っ黒な腹を隠して生きてきた俺とは…真逆の存在。悔しいなんて感情すら湧かないほどの…完全敗北。
樋口が彼を大切にして来たその意味が、一瞬で俺にもわかってしまった。あきちゃんは樋口に愛されるために生まれて来たんだ。そう思ったらもう、俺の入る余地なんて最初からなかったって納得出来た。
それからゆっくり…樋口への想いを手放して、そしたらなんだか気持ちが安定した。長いことグラついた中途半端な想いを抱えていたからかな…決着がついてスッキリしたんだ。
きっと俺はもう……新しい恋に踏み出すことは、ない。
自分の店と、従業員と、うちの店を愛してくれるお客様を大切にする。それが今の俺の全てだって思えたし、そうやって生きていければ良かった。
…なのに、人生って本当にわからない。
シェイクスピア曰く、
"ぼんやりしている心にこそ、恋の魔力が忍び込む。"
俺を見つめる熱のこもったグレーの瞳は、
長年の片想いに決着をつけた男の子と……
全く同じ色だった。
その日、俺は閉店後の店のカウンターで帳簿を付けていた。翌日は定休日で、いつになくのんびりしていたと記憶している。
あきちゃんは樋口が迎えに来てすぐに帰ったけど、弟の旭くんはまだバックヤードに残っていたようで着替えを済ませた後ひょっこりとこっちに顔を出してくれた。
「楓さん、お疲れ様です!」
「…旭くん!お疲れ様~!」
俺と同じだけ労働した後とは思えない、爽やかな笑顔に癒される。若さってすごい。
うちの店は…働き者で、聡明で、根っから優しいこの兄弟で持っているようなものだ。今となっては、2人を紹介してくれた樋口に感謝しかないな。
「楓さんまだ帰らないんですか?」
「あー…うん…もうちょっと残ろうかなって…」
「…お店の…帳簿ですか?」
「そうそう、サボるとめんどくさくなるからなるべくマメにやっとこうと思って」
「そうですか……あんまり…無理しないでくださいね?楓さん…ワーカホリックだから普段からオーバーワーク気味なんで」
「え、そっかな?」
「そうですよぉ!働きすぎて倒れないか…僕心配です!」
「えっと、それは…ごめんなさい…!」
そんな心配されてるとは露ほども思っていなくて、素直に謝罪の言葉を口にすると旭くんは目を細めて俺を見る。慈愛に満ちた…優しい瞳だ。
「あ!良かったら俺車で送ろうか?もう外暗いし…」
「いえ、大丈夫です!女の子じゃないんですからそんな気にしないでください」
「そう…?でも送って欲しい時はいつでも言ってね?」
「はい……と、いうか……あの、」
「ん?」
「僕もちょっと残っていいですか?」
「うん…!もちろんいいよ!あ…じゃあ~コーヒー淹れよっか?」
「え、いいんですか?今朝も頂いたのに…」
「もっちろん!!」
「やった…!嬉しいです…!」
「ふふっ…ちょっと待っててね?」
解いていたロングヘアを再び一纏めにして、緩く結ぶ。
もう片付けを終えた後だけど…うちの大切な従業員には美味しいコーヒーを飲ませてあげなきゃね?うちの店にとってコーヒーは賄いみたいなものだから。
目の前のカウンターに腰掛けた旭くんに見守られながら、お湯を沸かして…ゆっくりゆっくり時間をかけて本日最後のハンドドリップを始める。
これは俺のささやかなこだわりなんだけど、うちの店に同じコーヒーカップはひとつもないの。それどころか、全て俺が自分で買い付けてきた一点物。色や形もバラバラなこの特別なカップとソーサーが、コーヒーを飲む時間をより贅沢なものにしてくれるんだと俺は思う。
うん、いい香り…。
もう夜だし、眠れなくならないように量は朝よりかなり少なめ。
「はい、お待たせ」
「…ありがとうございます」
俺が手渡したインディゴのカップを受け取った旭くんは、ニコッと可愛らしく笑う。相変わらず信じられないくらい綺麗な顔面だ。樋口の周りは常々美形だらけだけど…旭くんの綺麗さは…なんていうかこう…春の風みたい。暖かで優しい性格がモロに顔に出てる。その上背もまだまだ伸び続けていて、最近樋口の身長を越えたとあきちゃんが言ってたっけ。高校生でここまで見た目も人格も完成してる子、他に見たことない。あきちゃんも含めて、本当に日下部家は素敵なお宅なんだと思う。
あ…でもそろそろ高校卒業なんだよね旭くん。今日は日曜日だから私服だけど、学ラン姿を見れるのも後ほんの少しなんだなぁ……ちょっと寂しいかも。
コーヒーを一口飲み込んだ旭くんは、美味しい…と小さく呟く。それから俺をジッと見つめて、動かなくなった。
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