162 / 218
バイプレイヤーズロマンス【中編】
2
しおりを挟むあれから約5ヶ月。
そろそろ本気でアプローチをかけてもいい頃だとは思っている。
…だけど、現状僕は楓さんの恋愛対象ですらない気がしてならない。それもそのはず…僕はまだ高校生なのだから。大人の彼からしたらまるっきり子供扱いだ。
…さて、どうしたものかな。
入荷したての本を検品しながら少々考え込む。すぐにでも行動したいのは山々だけど…少しでも下手打ってこの人に嫌われるのは絶対ごめんだ。だけど、年上でしかも同性の口説き方なんて…その辺の恋愛指南書には載ってないでしょ?
世間一般の"普通"からかけ離れた現状に文字通り頭を抱える。
「ねぇ旭くん!今日ね新しいコーヒー豆仕入れたの!開店前に味見してみない?」
「え、いいんですか!?」
「うんっ!今準備するね!」
「うわっ、すごい嬉しいです…!なんの豆ですか?」
「えっへへ~!バレンタインデーブレンドだよ!」
ニコッと花が咲いたように笑う綺麗なお兄さんに、思わず仰け反りそうになった。クッソかわいい。惚れた欲目を除いたって、楓さんはめちゃくちゃかわいい。かわいすぎる。
笑う時に目元に寄る皺が好き。
ツルツルでサラサラの艶っぽいロングヘアが好き。
居てくれるだけで周りを幸せにするあったかい雰囲気が好き。
見るもの全てに好奇心旺盛でどんなものも新鮮に楽しめるその感性が好き。
僕は……あなたが、世界で一番大好きだ。
だから楓さん……
頼むから、僕に振り向いてくれませんか。
荒れ狂うような僕の心の中の葛藤なんて知りもしない楓さんは、いつもと変わらない表情でコーヒーを淹れている。朝から好きな人が淹れてくれるコーヒーが飲めるなんて…ここは天国か。
「はいっ!どーぞ!」
「…ありがとうございます」
楓さんから手渡されたコーヒーカップを握りしめ、そっと口に運ぶ。
うん、おいしい……
僕の好きな人は……コーヒーの神様だ。
「これすっごくおいしいです!」
「だよね!俺もこれすごいすき!」
「なんか、チョコレートの風味…しますね」
「えっわかるー!?そうなの!ビターチョコレートって感じだよね!!バレンタインデーブレンド最高!!さっすが旭くん…味覚も超一流~!」
「あはっ、褒めすぎです」
ああ、かわいい。
いつも穏やかでふわふわなのに、テンション上がるとウキウキのオーラ全開でちょっと早口になるとことか…すっごいかわいい。
…すっごい好き。
「でもそっかバレンタインかぁ…もうそんな時期なんですね…」
「そうそう~早いよねぇ」
「お店でなにかする予定なんですか?」
「あーうんそう、もちろんこのコーヒーも出すし、バレンタインが題材の本のコーナー作ったり…あとは、簡単なチョレート菓子とか用意しよっかなって」
「へぇ…いいですね!」
「でしょ~?でもね…当日はうち定休日だからさ…」
「あ…そういえば…そうですね」
「タイミング悪いなぁ……バレンタインにぼっちとか…独り身のおじさんとしてはちょっと辛いとこだよね~!」
楓さんはクスクス笑いながら言うけど、"おじさん"なんて…この人から一番遠い言葉だと思う。アラサーには絶対見えないもんな。
バレンタイン……か。
流すとこだったけど……よく考えたら、好きな人にアタックするには絶好の機会じゃないか…?
これを逃す手はない…!
「あの……楓さん」
「んー?」
「バレンタインなんですけど、良かったら僕と…」
バンッ!
「おっはよーございまぁーすっ!!!!!!」
僕も楓さんも、突然の声に驚いて振り向く。従業員入口の扉の前には…案の定大好きな兄が立っていた。
…大好きだけど……、今は本当に…間が悪い。
あきちゃんの顔を見た瞬間、楓さんはニコッと笑う。
「あきちゃんおはよー!今日も早いね?あきちゃんの出勤時間…まだ30分くらい余裕あるよ?」
「えへ~2人に早く会いたくて早めに来ちゃった~!」
「えー?なにそれかわいい~好き~」
「ふへへ~俺も楓さん大好き~」
ヘラヘラ笑いながら両手を握り合う2人に隣で笑ってしまう。全くもう…どっちもクソかわいいっつの。
爽くんが見たら絶対に嫉妬しそうな距離感で話す2人を見守りながら、小さくため息をつく。
…まぁ、いっか。今日は閉店までここにいるんだし…楓さんを誘うチャンスはきっとある。
「…?あれー?旭…なんかニヤけてない?」
「え?」
「あれ、ほんとだー!旭くんのそんな表情初めて見た!レアだね!」
「うん!レアだー!!なになに!?なに考えてたの!!?」
「ちょっとあきちゃんやめてよっ!弟をからかわない!っていうか…2人の方がニヤニヤしてない!?」
「え~だって旭をからかえるチャンスなんて滅多にないもーん!」
「旭くんって…隙ないもんね!完全無欠感は樋口以上じゃない!?」
「俺もそう思うー!爽って結構マヌケだもん!」
「あはっ!あきちゃん言うねぇー!!」
ケラケラ笑い出す2人に釣られて僕も思わず吹き出す。…ごめんね、爽くん。
「さ、そろそろお店開けよっか!あきちゃんは着替えておいで!旭くんは…看板出してくれる?」
「「はーい!」」
この時の僕は……
まさかこの日の夜勢いで告白してしまうなんて、
夢にも思っていなかった。
14
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる