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バイプレイヤーズロマンス【中編】
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しおりを挟む「ほら、この髪だって……昔のあきちゃんの真似なんだよ?」
「……あ……!確かにあきちゃん……小さい頃髪伸ばしてました」
「でしょ?実は大学の時ね、一度樋口の財布に入ってるあきちゃんの写真盗み見ちゃったことがあったの」
「……それで…」
「……うん……、俺……めちゃくちゃキモいよね……無理だってわかってたくせに……髪まで伸ばして……」
楓さんは自分の髪を掴んで、ゆっくりと指を通す。艶々で美しい。そうか……これも、爽くんのため……。
「まぁ、今は本当に…樋口のことはただの友達としてか見てないし…あきちゃんとのことも心から応援してるんだけどね?」
「え……えっ!!!?そうなんですか!?」
「うん……、ごめん旭くんずっと勘違いしてたよね…?俺もう…樋口のことはちゃんと吹っ切ってるよ?」
予想もしていなかった言葉に、驚いたやら嬉しいやらぐちゃぐちゃに混ざったよくわからない感情が頭を駆け巡る。
こんな言葉が聞けるなんて思ってもいなかった。まさか楓さんも、もう吹っ切っていたなんて。てっきりまだ爽くんに片想いしているもんだと思い込んでいた。
これは願ってもない……嬉しすぎる誤算だ。
「……えっと……じゃあ……髪は?」
「え?」
「なんで髪…伸ばしたままなんですか?」
「ああ、これは…みんなに似合う~って言ってもらえるからそのままにしてるだけで…未練とかはほんとに全くないよ?」
「なんだ……そうだったんですね……」
「うん…ちゃんと言わなくて、ごめん…なんかずっと言うタイミング逃してて」
「いえ……良かったです……すごい、嬉しいし……」
「え、あ……えっと…」
「それに、すっごい似合ってます……僕、楓さんのロングヘア好きです」
「…あー…ふふっ、うん……ありがと」
やっと笑顔になった楓さんに、少しだけ安堵した。
もちろん、キッカケは相当妬けるけど。それは…今は言わないでおこう。
でも……そういうことなら、腑に落ちないことがある。本当にもう爽くんへの想いがないなら……
なぜ楓さんは…こっちを見てくれないんだろう。
「………楓さん…それなら……なぜ、」
「え…?」
「なぜ……僕を拒絶するんですか…?」
「………え?……だって、それは……」
「楓さん……僕のこと、好きですよね?」
「へ!!?」
勢いよく後ずさった楓さんの手を、意地でも放すもんかと追いかけて握り直す。
「今日一日一緒にいてわかりました……楓さん……僕のこと、いいなって思ってくれてますよね?」
「………っ」
楓さんは険しい顔で黙り込む。
だけど、逃すつもりはない。ここで押さなきゃ…男じゃない。
「ダメっ…!だって、俺……っ、君より11個も…」
「もういい加減年齢のことなんて……言い訳に使わないでくださいっ!」
「い、言い訳って…!」
「僕は来月、18になります!もう、自分のことは自分で決められる歳です!誰を好きになって、誰と愛し合うかは……僕が自分で決めます!!」
「……っ、でも…」
「楓さんっ…!あなたが本当に不安なことは何なんですか!?本当は…別の人が好きなわけでも、年齢が気になるわけでもないんですよね!?」
「ダメだよっ…、旭くん…!俺なんて…!」
「目を逸らさないでくださいっ!!!」
「…っ」
「僕は、あなたが………楓さんが好きなんです!!」
楓さんの身体をグッと引き寄せ、抱きしめる。缶コーヒーがカラカラと転がる音がしたけれど、そんなの構って居られなかった。
初めて抱きしめた最愛の人からは、優しくて甘い香りがした。背はそんなに変わらないはずなのに、この人は…こんなに細かったのか。
外は寒いし身体は冷えていたはずなのに、接触している部分は火事でも起きたのかと思うほど燃え上がっている。
好きだ。
あなたを見たら僕はもう…この言葉しか、浮かばない。
「だってとか……俺なんてとか……そんなの僕…聞きたく無いです」
「……っ、だ……めっ、放してっ……」
「楓さんっ……ほんとに、嫌ですか……?」
「………っ」
「本当に…僕が嫌いですか?」
「……うっ……嫌いな……わけ、ないっ……」
「なら…!ちゃんと、言葉にしてくださいっ…!!」
少しだけ身体を離して、楓さんの長い髪をかき分け輪郭に指を這わせる。少し垂れ気味の美しい瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちている。
せっかく泣き止んだのに……
また泣かせて……ごめんなさい。
「……だい、すきっ……あさひくっ………大好きっ……」
「……っ、」
「ほんとは…っ、わかってた……俺っ、……自分の気持ちに、ちゃんと気付いてた…!だけど、絶対気付いちゃダメだって…思っててっ……」
「…楓さんっ…」
「ほんとはっ…ほんとは…!おれっ…」
泣きながら必死に言葉を紡ぐ楓さんが愛しくて愛しくて、たまらない。
「楓さん……もう一度言わせてください」
「え……」
「楓さんが過去にとても辛い経験をされてきたのはわかりました……だから、これから先のあなたの未来は絶対……僕が守ります」
「あさ……ひ、くん」
「僕は……もっともっといい男になります」
「………」
「樋口 爽よりもっとずっと……いい男になってみせます」
「っ…」
「僕はずっと……あなただけの王子様になりたかった」
もう一度楓さんの身体を抱きしめて、背中をトントンとあやすように撫でる。
「僕と、付き合ってください」
抱きしめたままだったから顔は見えなかったけど、小さく震えながら泣く楓さんに…次の言葉は容易に予想が出来た。
……はずだった。
「……………ごめん、なさいっ……」
「………え?」
楓さんは僕の腕から抜けて立ち上がると、半泣きのまま俺を見下ろす。
なぜ…?
僕たちは、確かに両想いだ。それはもうわかっている。
それならなぜ……拒絶される……?
考えても考えても理由がわからず、座ったまま見上げると…楓さんは全てを諦めた顔で……静かに呟いた。
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