幼馴染の御曹司と許嫁だった話

金曜日

文字の大きさ
177 / 218
バイプレイヤーズロマンス【後編】

6

しおりを挟む


「あの……」
「…ん?」
「お兄さん……あ、お兄さんですよね?お姉さん…?」
「あ…男です」


これは割とよくある会話。俺背は高めだけど、童顔だし男としては髪が異常に長いから結構な頻度でこう聞かれる。でもスーツ着てまで聞かれるとは思わなかったからちょっと意外。


「めちゃくちゃかわいい……」
「え」
「…あ!やば!つい本音が口から出ましたすんません!!」
「…あ、あははっ…!いやいや、ありがとう…?で、いいのかな…?」
「あの…!お兄さんは卒業生のご兄弟ですか?」
「え?ううん、知り合い……かな?」


友達、とは……今はまだ言えないから。


再びステージに目を向けると、思わず口角が上がってしまう。旭くん…ほんとに素敵。


「あ…もしかして、見惚れてます?」
「へ?」
「日下部会長…すっげぇカッコいいですよね!」
「…うん…!…え…、……えっ?会長?」
「…?はい、今答辞読んでるのうちの元生徒会長です」
「………ええっ!!!?」


言われて初めて気付いた。そっか……生徒会長だったから答辞読んでたんだ…!なるほど…!

旭くんが生徒会長だったなんて全然知らなかった。だって、旭くんもあきちゃんもそんなこと一言も……

全く君って子は…どんだけミステリアスなんだよ!


「あの人…3年間一度も首席の座から落ちたことない上に、人当たりも容姿も良い完璧超人ですよ」
「………首席…」
「はい、欠点ゼロな上頭良くてめちゃくちゃ優しいから死ぬほど女子にモテるんです…超羨ましいです!!」
「……へぇ…そんなに?」
「はい!本人はぜんっぜん興味なさそうですけどそれはもうエグいくらいモテモテです!」
「…ふふっ…そっかぁ…だろうねぇ」
「俺、日下部会長のこと大好きですけど……正直…後任としてはかなり荷が重いんですよ」
「…!君、今の会長?」
「はい…今期は俺が生徒会長です!」


頭をかきながら照れたように笑う目の前の男の子がかわいくて…こっちまで笑ってしまう。この子、旭くんの直属の後輩ってことかぁ…。なんだか知らなかった旭くんの学生生活を垣間見れたようで新鮮。


「そっか、頑張ってね?」
「……はい…!…あの、お兄さん…」
「ん、なぁに?」
「その…お名前をお聞きしても…?」
「え…?名前?」
「はい…!なんというか…、こう…今まさに新しい扉が開かれたと言いますか……今まで女の子にしか感じたことのない感情がふつふつと…」



『以上、答辞といたします…卒業生代表、日下部 旭』




答辞の言葉が途切れた瞬間、割れんばかりの拍手が体育館を揺らした。俺は必死に話す男の子からステージ上の旭くんに視線を戻し、再び熱い眼差しを向ける。これだけ人がいたら絶対バレないから、気兼ねなく見つめられる。

丁寧にお辞儀をした旭くんはゆっくりと顔を上げ…キョロキョロと視線を彷徨わせる。何かを探しているようだ。旭くんはしばらくそのまま立ち尽くし…




そしてついに、見つけてしまった。


……俺を。




視線が交わった瞬間、旭くんは一瞬驚いた後安心したようにニコッと笑って…一言呟いた。




"いた"




鳴り止まない拍手の中だったし、もうマイクも切られていたから聞こえはしなかったけれど口の動きで彼の言葉は容易に読み取ることができた。
俺は思わず両手で口元を覆って、涙を堪える。心臓が痛い。

不意打ちヤバ…!なにこれ…!ビックリするくらいキュンとした…!
ああもう、ばか……!こっち見てくれただけで何舞い上がってんの俺…!大人だろ恥ずかしい!

案の定旭くんのキラキラ王子様スマイルは俺以外にも効果抜群だったらしく、体育館中から女の子の悲鳴やらため息やら…色んなものが聞こえた。

気持ち、超わかる!!!旭くんかっこいいよね!!!



「……あ、あれ……?日下部会長…こっち、見てる…?」
「……えっ、あ、」
「え…もしかしてお兄さん…!会長のお知り合いなんですか!?」
「あー……、うん、実は」
「…ゲ!!……やっべ!!!俺ヤバイ人ナンパしようとした!?」
「ええっ!?今ナンパしようとしてたの!?」


俺がそう言うと、真っ赤になってあたふたと焦り出す。"違うんです違うんです!"と必死に叫ぶが、どうやら言い訳は苦手なようだ。


「あー…クッソォ…すみませんでした…!会長には言わないでください…」
「えっと…、俺に声かけてくれたこと?」
「と、いうか…誘おうとしたことを…ですかね?日下部会長のお知り合いを誘おうとしたなんて…俺ヤバイですもん!」
「え?ヤバイの?なんで?」
「だって俺…日下部会長のあんな笑顔初めて見ました…!!あなたが会長の大切な人なことは一目瞭然です!ああー…やばいっ!俺あの人だけは絶対敵に回したくないんです!!」
「そんな、大層なもんじゃないよ…俺」
「いいえ!長く会長の側にいたんでわかります!あなたは絶対特別な人だ!!」


自信満々に言い切られてしまって、思わず苦笑い。勘がいいのか悪いのか…ほんと、面白い子だなぁ。
旭くんがステージから降りると、卒業生が全員立ち上がる。同時に吹奏楽部による演奏が始まり、いよいよ退場のようだ。

俺、ほんとに最後しか見れなかったんだな。でも旭くんの答辞が聞けてすごくラッキーだった。

これだけで、来てよかった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...