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第1話 荒野の町のミートソースパスタ
第1話 荒野の町のミートソースパスタ 01
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荒野にポツンと存在する町、ウルハイムの小さな飲食店。
色の剥げたボロくて安っぽい茶色のベニヤ板のテーブルには、氷も入っていないのに水滴を帯びている透明なグラスが二つに並べられており、黒髪の天然パーマで顎周りに無精髭が薄っすら露になっている男はその一つを手に取って、口腔内を湿らせる程度の僅かな量の水を口に含んだ。
「ぬるい……」
眉間に皺を寄せて、男はグラスを再びベニヤ板のテーブルに置き、率直な感想を述べてみせた。というのも、水がぬるくなった原因はこの場所の温度が起因となっており、室温は40度に差し迫るほどの高温を維持していたのだ。
「フブキさん、あまり贅沢を言わない方が良いですよ。この水だって、ここに居る人達にとっては貴重な資源なんですから」
そう男、フブキ レンタロウに言い聞かせたのは、彼の対面に座っている赤茶髪の一本結びをしている女性、ハツシモ サヤカだった。
「貴重ねぇ……こんなクソ熱い荒野のど真ん中で、こんな不便な生活するくらいなら引っ越した方がマシだろうに」
レンタロウは頭に浮かんだことをボソリとぶっきら棒に呟いたのだが、しかしサヤカはその言葉を聞き逃さなかった。
「誰もがフブキさんやワタシのように、仕事とはいえヒョイヒョイ色んな場所を放浪する根無し草になれる訳じゃないんですよ」
「根無し草って……」
「どんなに不便な所でも住めば都。その場から離れたくないという方もいらっしゃるんですから」
「まあ、そんなもんなのかねぇ」
レンタロウはサヤカの言葉に対して特に共感をした訳でもなく、かといって否定するつもりも無かったので、適当な返事をしてみせた。サヤカもしばらくレンタロウと時を共にしているので、その返事がレンタロウの本意で無い生返事であることに気づきながらも、これ以上何も突っ込んでくる事は無かった。
「お待たせしました。カラカラ牛とヒアガリトマトのミートソースパスタです」
二人の会話が途切れてから数分後、ウェイトレスが木製のトレーにミートソースパスタを盛った皿を二皿乗せてやって来ると、それを二人の前に配膳し――
「ごゆっくりどうぞ」
ニコッと微笑んでからそれだけ言うと、ウェイトレスは再び厨房の方へせかせかと戻って行った。
二人の前に置かれた皿からは、芳醇なトマトの甘酸っぱさと、牛ミンチが炒められた時に放つこんがりと肉肉しくも香ばしい香りが二人の鼻をくすぐり、ただでさえ空腹であるのに、更なる食欲をこのミートソースパスタは引き立ててきた。
「水はあれだったけど、このパスタは美味そうだな。そんじゃいただきます」
レンタロウはステンレス製の銀のフォークを手に持つと、ミートソースの下に潜っている麺を抉り出し、ぐるぐると掻き混ぜて融合させていく。
「……フブキさん、いい加減その掻き混ぜる癖何とかした方がいいですよ?」
サヤカはそんなレンタロウの食事姿を怪訝そうな目で見ながら、自らはフォークに麺を巻きつけ、適量のミートソースを掬ってみせた。
「癖じゃない。これが一番パスタやカレーをベストな状態にして美味く食べる事のできる方法なんだよ。素人め」
「はいはい。フブキさんも別にプロじゃないでしょ」
長い間同行しているので、どうせこちらが何を言っても改めることは無いだろうと予期していたサヤカは、自慢げな顔をしているシンタロウに対してこれ以上何も言わず、上品にフォークで掬ったパスタを口へ運んだ。
「ん! 美味し~い!」
サヤカは口を動かしながら、頬を緩める。
このミートソースパスタに使われているヒアガリトマトの特徴は、枯れた荒れ地で育てられている。なので水分量が少なく、しかしその分味が濃い、程良い酸味がありながらもそれ以上の甘味を感じるトマトであるため、コンソメやその他の味に飲み込まれない、トマトの味をしっかり感じ取れる一品となっていた。
色の剥げたボロくて安っぽい茶色のベニヤ板のテーブルには、氷も入っていないのに水滴を帯びている透明なグラスが二つに並べられており、黒髪の天然パーマで顎周りに無精髭が薄っすら露になっている男はその一つを手に取って、口腔内を湿らせる程度の僅かな量の水を口に含んだ。
「ぬるい……」
眉間に皺を寄せて、男はグラスを再びベニヤ板のテーブルに置き、率直な感想を述べてみせた。というのも、水がぬるくなった原因はこの場所の温度が起因となっており、室温は40度に差し迫るほどの高温を維持していたのだ。
「フブキさん、あまり贅沢を言わない方が良いですよ。この水だって、ここに居る人達にとっては貴重な資源なんですから」
そう男、フブキ レンタロウに言い聞かせたのは、彼の対面に座っている赤茶髪の一本結びをしている女性、ハツシモ サヤカだった。
「貴重ねぇ……こんなクソ熱い荒野のど真ん中で、こんな不便な生活するくらいなら引っ越した方がマシだろうに」
レンタロウは頭に浮かんだことをボソリとぶっきら棒に呟いたのだが、しかしサヤカはその言葉を聞き逃さなかった。
「誰もがフブキさんやワタシのように、仕事とはいえヒョイヒョイ色んな場所を放浪する根無し草になれる訳じゃないんですよ」
「根無し草って……」
「どんなに不便な所でも住めば都。その場から離れたくないという方もいらっしゃるんですから」
「まあ、そんなもんなのかねぇ」
レンタロウはサヤカの言葉に対して特に共感をした訳でもなく、かといって否定するつもりも無かったので、適当な返事をしてみせた。サヤカもしばらくレンタロウと時を共にしているので、その返事がレンタロウの本意で無い生返事であることに気づきながらも、これ以上何も突っ込んでくる事は無かった。
「お待たせしました。カラカラ牛とヒアガリトマトのミートソースパスタです」
二人の会話が途切れてから数分後、ウェイトレスが木製のトレーにミートソースパスタを盛った皿を二皿乗せてやって来ると、それを二人の前に配膳し――
「ごゆっくりどうぞ」
ニコッと微笑んでからそれだけ言うと、ウェイトレスは再び厨房の方へせかせかと戻って行った。
二人の前に置かれた皿からは、芳醇なトマトの甘酸っぱさと、牛ミンチが炒められた時に放つこんがりと肉肉しくも香ばしい香りが二人の鼻をくすぐり、ただでさえ空腹であるのに、更なる食欲をこのミートソースパスタは引き立ててきた。
「水はあれだったけど、このパスタは美味そうだな。そんじゃいただきます」
レンタロウはステンレス製の銀のフォークを手に持つと、ミートソースの下に潜っている麺を抉り出し、ぐるぐると掻き混ぜて融合させていく。
「……フブキさん、いい加減その掻き混ぜる癖何とかした方がいいですよ?」
サヤカはそんなレンタロウの食事姿を怪訝そうな目で見ながら、自らはフォークに麺を巻きつけ、適量のミートソースを掬ってみせた。
「癖じゃない。これが一番パスタやカレーをベストな状態にして美味く食べる事のできる方法なんだよ。素人め」
「はいはい。フブキさんも別にプロじゃないでしょ」
長い間同行しているので、どうせこちらが何を言っても改めることは無いだろうと予期していたサヤカは、自慢げな顔をしているシンタロウに対してこれ以上何も言わず、上品にフォークで掬ったパスタを口へ運んだ。
「ん! 美味し~い!」
サヤカは口を動かしながら、頬を緩める。
このミートソースパスタに使われているヒアガリトマトの特徴は、枯れた荒れ地で育てられている。なので水分量が少なく、しかしその分味が濃い、程良い酸味がありながらもそれ以上の甘味を感じるトマトであるため、コンソメやその他の味に飲み込まれない、トマトの味をしっかり感じ取れる一品となっていた。
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