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第1話 荒野の町のミートソースパスタ

第1話 荒野の町のミートソースパスタ 03

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「店に入る前より余計暑くなりやがったな……」
「そうですね。紫外線の遮断率を上げとかなきゃ」

 サヤカは右人差し指を自分の首筋に当てる。すると体内に取り込まれているナノデジが反応し、サヤカの体の表面を覆っている電磁バリアが、より紫外線が皮膚表面に届かないよう遮断し始めた。

「フブキさんもやっといた方がいいですよ?」
「別に俺は美容なんざ気にしてねぇよ」
「いやいや……美容云々っていうよりは、これだけ日差しが強いと肌痛めちゃいますからね。日焼けで皮が剥げるのはそれはそれは痛いのなんの――」
「分かった分かった! やりゃあいいんだろやりゃあ!!」

 レンタロウは表面では嫌そうにしながらも、しかし日焼けの痛みは味わいたくなかったので、渋々といった感じを装いつつも、こっそり紫外線遮断率を元の設定の倍以上上げたのだった。

「さて、これからどうします?」
「どうするっつっても作戦は夜だからな……まあそれまで日の当たらないとこで昼寝でもしときゃいいんじゃねぇか?」
「発想がグーたらそのものですね。もっとアクティブにならないと体どころか心も老化していく一方ですよ?」
「うるせぇ……ん?」

 サヤカに捨て台詞を吐くと同時に、レンタロウは体の中で着信音が響いている事に気がついた。ナノデジには通信機能も搭載されており、その機能による着信音が骨伝導によってレンタロウの耳に伝わってきたのだ。

「フブキだ」
「こちらヒタチ」

 レンタロウが着信を受けると、ナノデジが瞬時に電磁バリアを通じてレンタロウの脳内に映像データを送り込む。その映像にはカーキ色のワイシャツ着た、オールバックの金髪の男が映り込んでいた。

「不機嫌なのかレンタロウ?」
「いや、そうでもないが……」

 ヒタチはレンタロウの顔を一目見て察したが、しかしレンタロウははぐらかしてみせた。

「そうか」
「それでヒタチさん、何の用事で? 作戦は夜の筈だろ?」
「まあそうだが、ちょっと作戦内容が変わってな。それを伝えるために連絡した」
「作戦内容って――確か帝国の連絡基地局の爆破だったはずだろ?」

 レンタロウは首を傾げるが、ヒタチは「まあそうではあるが」とどちら着かずの返事をした。

「昨夜、諜報班が第47基地局付近にステルスドローンを飛ばした時に撮れた映像なんだが、まずそれを見てもらいたい」

 するとヒタチの姿の映像から、漆黒の空間に大きなパラボラアンテナを構えた建物と大きな門がそびえ立っている映像へと切り替わった。
 
「映像は昨日の21時23分、第47基地局の正門前だ」

 映像はステルスドローンのままだが、ヒタチの声が聞こえきた。

「コイツは……トラックか?」

 エンジン音と共に夜の暗い映像に突如現れたのは、12メートル程の大型トラックだった。

「諜報班からの報告によると、恐らくリトルグリッドからテクノピア帝国へ向けての輸送トラックだろうとのことだ」
「リトルグリッドっていったら、確か帝国の最新兵器廠があったな。もしかして輸送物ってのは兵器か?」
「そいつはまだ分からない。分からないからこそレンタロウ、君に調べて欲しいんだ」
「なるほどね……」

 面倒な仕事が増えてしまったと、レンタロウは溜息を吐いた。

「まあ少し用が増えたものの、所詮は僻地の破壊工作。それほど難しい仕事ではない事に変わりはないさ」

 ステルスドローンの映像から再び通信用の映像に切り替わると、ヒタチは口角を片方だけ上げて薄い笑みを浮かべていた。

「見てるだけの奴はそう言うよな……ったく」

 そんなヒタチの姿を見て、レンタロウはそうぼやいてみせた。

「後ほど基地局の地図データとプラスチック爆弾のマテリアルデータに加え、スキャンスチールプログラムも送らせてもらう。その他の装備マテリアルは揃っているか?」
「ああ、揃ってるよ」
「流石は仕事人だな」
「褒めても報酬は下げんぞ。むしろ仕事が増えたから、請求額は上げさせて貰うからな?」
「そこはしっかりしておくさ。お前と俺達はそういう仲だからな?」
「あんまりアンタらの片棒を担ぐと、痛い目に遭いそうだからな」
「フッ……これからも良きビジネスパートナーってことで、今回の任務、よろしく頼む」
「ああ」

 それからヒタチとの通信が切れると、脳内に送られた映像データは消え、レンタロウの目が直接捉えている現実世界の荒野の風景が映し出された。
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