仕事人達のグルメ事情〜新世界食放浪記〜

小倉 悠綺(Yuki Ogura)

文字の大きさ
17 / 36
第2話 鉄鋼街のコロッケパン

第2話 鉄鋼街のコロッケパン 10

しおりを挟む
「イテテテ……クソッタレ! 誰がお前の言う事なんか――」
「聞かなくてもいいぞ。その代わり、背中に風穴が少々空くかもしれないけどな」

 レンタロウは無慈悲に笑ってみせ、懐に手を入れる。そこに拳銃は仕舞われて無いのだが、スリの男にはその仕草だけで十分、幻の拳銃を見せる事が出来た。

「ヒッ! お、お前まさかジャンク・ホロウズの……!」
「ぶつかる相手をちゃんと選ぶべきだったな」
「チクショウ……分かったよ、協力するから命だけは助けてくれ……」

 遂にスリの男は完全に戦意を喪失させ、観念した。

「分かりゃいいんだよ。それに命は取らないし、協力をしてくれたらちゃんと報酬は渡す」

 レンタロウは懐に入れていた手を出して、更に両手を挙げて丸腰である事をアピールする。すると今までの緊張感とのギャップにより、スリの男は心底ホッとし、更にレンタロウへの信頼に似たような感情が湧いて出てきた。

「アンタ……名前は?」
「俺はフブキ レンタロウだ。お前は?」
「スジカイ キンジ……」
「それじゃあスジカイ、さっき見せた写真の男をこれから捜して欲しい。ここで暮らしてるアンタなら、俺達なんかよりよっぽど詳しいだろ」
「そりゃあそうかもしれねぇが……でもフブキの旦那よぉ、ここには何百万人って人が住んでるんだ。そこからたった一人を捜し出すなんてなかなか無茶な事だぜ?」
「それを承知の上で捜すんだよ。だから報酬を出すって言ってるんだ」
「そ……そうだよな……考えてもみりゃあ、そりゃそうだ」

 よもや完全に格下となったスジカイは、上位のレンタロウの意向を汲むため、そう自分に言い聞かせた。

「とりあえず俺達は大通りを中心に捜すから、スジカイ、お前は路地の方を捜してくれ」
「お……俺が路地ですかぇ……」
「こっちはオーナーなんだから楽な方探すのは当たり前だろ?」
「そ……そりゃそうかもしれやせんが……そ、そうだ!」
「今度は何だよ」
「報酬ですよ! もしフブキの旦那達が先に見つけたら、その時俺の報酬はどうなるんです? まさかタダ働きなんて事にはならないでしょうね!?」

 そう言って差し迫って来るスジカイを、レンタロウは鬱陶しそうに手で払った。

「うるせぇなぁ……勿論その時も報酬は払う。ただしその時の報酬は3万リョウだ」
「た、たった3万!?」
「その代わり見つけた時は10万、捕らえて連れて来た時には20万にしてやる」
「に、に、20万!!」
「これでも不服か?」
「ぜんっぜん! むしろそんなに貰っても良いんですかい?」
「まあな」

 コッパー街に住む住人の平均月収が約12万リョウである事から、20万はスジカイにとってスキミングで得るよりもずっと高額な報酬だった。

 しかしレンタロウにとっては200万の修理代がたった20万で浮く、安い買い物である事に違いは無かった。

「そうだフブキの旦那、その男の写真ちょっと貸してくだせぇ」
「ああ。だけどその写真は俺達が使うからな?」
「分かってやす。だからコイツで撮っておくんですよ」

 スジカイが取り出したのは、掌に丁度収まるくらいの平べったい板状の電子端末であり、そのカメラ機能で写真の写真を撮った。

「お前、それスマートフォンって奴じゃねぇか。随分と古いもん持ってるなぁ」
「ヘぇ。実は俺、こういう旧世代のデジタルガジェットって奴を集めるのが趣味なんでさぁ」
「ほう」
「お恥ずかしい話、最初にこのスマートフォンってのを闇市で購入してからすっかり嵌っちまいまして。だけど表の市場じゃ滅多にありやせんし、闇市でも動く物は珍しくて高額なんですが、それでも時々あっては買い集めてしまいやして……そうやってる内に、今のようにスカンピンになっちまいやした。しかも周りからはガラクタ集めだってバカにされる始末でさぁ……」
「そうか……でもそういう物を集めるっていうのは決して悪いことじゃ無いと思うぞ」
「そ……そうですよねぇ! コイツがあったからこそ、今のナノデジやらがあるんですから、コイツはガラクタなんかじゃなく、歴史的価値のある物なんでさぁ!」
「ああ。だけど人から盗んだ金でそれらを買ってちゃ、表立ってその主張は出来ないがな」
「ヘッヘッ、流石フブキの旦那! ソイツは痛いとこを突かれやした!」
「…………」
「わ、分かりやした。金輪際、盗みはもう止めにいたしやす……」
「分かればよろしい」

 無言の圧力でスジカイを更生させたレンタロウは、貸した写真を取り上げ、懐に直し込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...