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第3話 カレーなる爆走のナギサハイウェイ

第3話 カレーなる爆走のナギサハイウェイ 08

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「発砲許可が出るという事は、この周囲一帯が危機対処警報の適応範囲になるという事だから問題無い」
「危機対処警報ってなんッスか?」
「何って……警察学校で習っただろう?」
「憶えてないッス」

 イチモンジの清々しい程の無知っぷりに、オキナミは呆れて溜息を吐いてしまった。

「まったく……君は先程、サイレンが鳴っているパトカーに対して一般車両が自然と道を開いてくれた光景を見ただろ?」
「見たッス」
「あれはサイレンが鳴った事で、自動車の自動運転システムが緊急車両が通過する事を検知して避けたんだ。それと同じで、危機対処警報を発令すると、一般車両はそれを検知し、その対象区間を避けて動いてくれるようになる。だから発砲をしても一般車両に当たる事は無いし、タイヤをバーストさせて横転させても距離を取っているから二次災害が起こる事も無い」
「へぇ~……やっぱり最近の自動車は頭が良いッスねぇ」
「AIは日々日進月歩だ。しっかり勉強しないと置いて行かれるぞ」
「ウッス、精進します……」

 イチモンジが先輩からのアドバイスに耳を傾けている間にも、応援のパトカーは次々と集まり、遂に後方の車線全てがパトカーで封鎖され、夜の暗さも相まって赤い光の壁が出来上がっていた。

「これで奴らも四面楚歌……あとは許可が出れば蜂の巣だ」
「蜂の巣ッスか……ん?」

 するとイチモンジは運転席と助手席の間に配置しているエアディスプレイに映るマップ情報を見て首を傾げた。

「どうした?」
「いや……多分自分の思い過ごしだと思うッスけど」
「言ってみなさい」
「この先ナギサブリッジを越えたらスイモンキョウのインターチェンジがあるじゃないッスか?」
「ああ、確かにあるな」

 オキナミはエアディスプレイを見ながら答える。

「しかしそれがどうしたんだ?」
「まあその……後方は固められても、先にあるスイモンキョウから下道に逃げられる可能性があるんじゃないかと思ったもんッスから」

 イチモンジが心配の種を吐露すると、オキナミはそれを聞いて笑ってみせた。

「フッフッ……何の心配かと思いきや。応援を出した時点でインターの封鎖などやってるに決まってるだろう? 我々もバカでは無いのだからな」
「……何かフラグっぽいッスね」
「フラグ?」
「一応確認してみたらどうッスか?」
「心配性だな君も」

 と、余裕を見せながらも、オキナミはスピーカーマイクを持って確認を入れる。すると――

「なにっ!? スイモンキョウを封鎖出来てないだと!!」

 イチモンジの不安は的中。警察はまだスイモンキョウインターチェンジの封鎖に乗り切れておらず、オキナミはその知らせを聞いて寝耳に水だと吠えた。

「クソッ、本部は何をチンタラ油売ってるんだ!」

 怒り狂うオキナミと、それを見て「あーあ」と落胆するイチモンジの事など知らない前方を走るレンタロウ達は、未だ打開策を模索しているところだった。

「フブキさん、後ろの車線全部埋められちゃいましたよ!」
「マズイな……車が無くなっちまったらこっから先、盾が無くなっちまうぞ」

 今までは一般車両の合間に入る事で、相手からの武力行為を敬遠していたのだが、それらがパトカーの封鎖により無くなってしまうと、レンタロウ達は丸腰同然となり、動く的と化してしまう危機に瀕していた。

「もしあっちが攻撃してきたら、こっちも反撃したらどうにかなりますかね?」
「んな訳あるか。あっちは乗り手が鉄板の装甲に守られてて、こっちは丸出しだぞ。撃ち合いにすらならねぇよ」
「だったらどうすれば……」

 直にやってくる絶対絶命の状況に為す術無く、二人が悩み込んでいると、前に見えてきたのはナギサ海峡を跨ぎ、ウィローシティのあるウィロー半島までを繋ぐ吊り橋、ナギサブリッジだった。

「橋か……あれを渡ったら下り口があるな」

 レンタロウはエアディスプレイに映るマップを見る。ナギサブリッジを渡った先にはスイモンキョウインターチェンジの表記があった。

「追手から逃げるなら下りた方が良さそうですが、下りた先で待ち構えられてる可能性もありますからね……」
「そうだな……だがこのまま走り続けても、ウィローシティまであっちが待ってくれるかどうか」

 スイモンキョウを越えた先には終点以外他に下り口は無く、レンタロウ達にとって、まさにこのナギサブリッジを渡るまでが捕まるか逃れるかのターニングポイントだった。

 そしてそれはイチモンジ達警察も同じであり、本部が頼りにならない今、現場ではついにある決断を下そうとしていた。
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