家族で異世界冒険譚(ターン)!第1部 〜永井家異世界右往左往〜再構成改定版

武者小路参丸

文字の大きさ
6 / 7

第6話 異世界ファミリー・ポチッとな!

しおりを挟む
異世界と現代世界。


課長(カ=チオ)さんの段取りによれば。

自分(ミサオ)が居ない世界の時間は、暫定措置としてだが停止してくれている。

いずれ変更する事もあるのかも知れない。

そんな不思議ルールの中で何度か転移を繰り返しながら、ミサオも要領をつかんできた。


異世界で討伐を行った後、町の宿屋で一日休んでから現代世界に戻る。

このスタイルが、当たり前になりつつある。本業にも影響しなくなった。

基本、現代世界の本業であるタクシーの乗務員の仕事は、月2~3回3連休が取れる形。

隔日勤務と言われる、1日で2日分の仕事をする特殊な雇用形態のおかげである。

朝7時に営業所で朝礼を行って出庫。

深夜2時前後に営業所に戻って来る形。

このスタイルが3連休が多く取れる秘密なのだが、3連休初日はやはり身体を休める事で潰れてしまう。

となると、3連休の中日で副業に取り掛かる形になるが、ここで時間停止の落とし穴。

正直、異世界副業の間は現代世界の時間が停止しているので.異世界でできるだけ粘って目一杯稼いでから現代に戻ればお財布ウハウハだとミサオも一度考えた。

だから、護衛任務とかも受けて異世界で数日過ごした事もある。

ここでミサオが気づいた事。

現代世界の休みを有効利用してるつもりだったのだが・・・実際のミサオ個人は、働いているのである。

結果として、気が休まらない。

人間とは、心と身体のバランスが取れていないと不調が出る。

異世界で討伐した後に現代世界に戻ってもその時の興奮が収まらずに、一時期不眠症気味になってしまい、本業に支障が出てしまったのだ。

時間や日にちの感覚もおかしくなってくる。

何事も適度が大事だと改めて気が付いたミサオ。

(うん。欲張らないで、副業は一日。クールダウンの為に異世界で一泊して、転移した時間と同じ位の時刻に現代に戻るべきだな。)

このルーティンを守ることで、ミサオの精神的な疲労もだいぶ緩和されてきた。

肉体は課長さんのありがたいやらかしで至って健康である。

そうなると人間というものは・・・慣れる。

環境や思想・文化の違いも苦にならなくなってきた。

トイレとお風呂事情だけは・・・未だにミサオもまだ慣れないが。

いずれ改善したいとミサオは考えている。

さて、ミサオも冒険者稼業をやってるからには、たまには闇憑き以外の魔物討伐や、先ほど話していたドキドキする初の護衛任務も経験する。

護衛の仕事の時は、ドラマチックなあるある展開の盗賊や魔物も出現せず、肩透かしで終わってしまったのはいい思い出。

この日は2つの依頼を合理的にこなそうとミサオも意気込んで動いていたのだが・・・。

「今日~はついでに薬草も、採取だ~採取だ~!魔物とダブルで確認宜しく!」

鼻歌を歌いながらテリオス冒険者ギルドの受付に依頼された品物を並べ出すミサオ。

「すみませんミサオさん。魔物は受付けますが、そちらは雑草ですので・・・。」

「何?だってこの草・・・。」

「それは、根っこが対象なんですよ!」

受付の女性にすげなく言われるミサオ。

「・・・あの、じゃ、魔物だけでどうか一つ・・。根っこ直ぐに取って来るんで、どうか依頼失敗にはしないで下さいっ!」

「まだ日にちありますから!涙目で袖掴まないで下さいっ!」

たまには失敗もするが、これもご愛嬌。


仮パーティだった「暁の矛」は、 お互いの信頼性も高まって正式な本パーティ「暁の牙」となり、 ミサオもすっかり打ち解けていた。


たまには、酒場で一緒に飲む仲。

今日も4人は卓を囲んでいる。


「しっかし、ミサオの持ってきたこの酒、 なんていうか、グッて喉にくるけど鼻から抜ける香りが深い。 

今まで飲んだことないけど、美味いのは分かる!」


ジェイが、豪快にコップをあおる。


「ジェイ。その酒はブランデーって言うんだけどさ、 

気に入ったなら、また色々持ってきてやるよ!」


ミサオも笑う。


「・・・俺は、この、肉に衣がついたヤツ・・・好きだ。」


ドリトスは、ナゲットをもぐもぐ食べながら言った。


「ドリトス、それナゲットってやつな。 

気に入ったなら、今度唐揚げも用意してやるよ。 

ただな、絶対自分のこと"オデさぁとか言うなよ? 

絶対だぞ?」


ドリトスは素直に頷きながら、ナゲットを追加で頬張る。


「ねえ、この黒くて甘いヤツ、チョコだっけ? 

お酒に弱い私にはちょうどいいかも」


サブリナも、嬉しそうにチョコレートを摘まむ。


「ていうか、ミサオって商人やっても成功するんじゃない? 

考えてみたら?」


サブリナが冗談まじりに言ったその一言に、 

ミサオはふと真剣に考え込んだ。


(商人か・・・。確かに副業って面では、収入増えるしな。 

でも、元々は害獣駆除だから・・・。

こっちに来られるのも害獣駆除任せて貰ってる前提だし。

いや、兼業なら有りか?)


思い切って聞いてみる。


「あのさ、冒険者って、商人とかも兼ねてやれるのか?」


ジェイ、ドリトス、サブリナ、全員が頷いた。


要は、商人ギルドに登録して許可を取れば問題ないらしい。


(これは・・・マジでクミコちゃんと話し合う段階かもな。いや、その前に課長さんにスジ通してからか。)


ミサオは、木製コップに残ったブランデーを飲み干し、 なじみとなった宿屋へと向かった。

宿屋のベッドに腰掛け、ひたすらメールの文章を打ち込むミサオ。

「拝啓・・・違う違う!・・・お忙しい所申し訳ございませんが確認があります。

害獣駆除の仕事を辞める事は考えておりませんが、逆に害獣駆除以外の仕事をやったりする事は社内的・・・いや、課長さん的にどのようにお考えでしょうか?

ふと思いついてご質問させて頂きました。お暇な時にでも教えて下さいますよう、宜しくお願い致します。

永井。

・・・おし。これでおかしくねぇべ。んじゃ、送信!・・・大人はスマートに物事しないとね。って、返信早っ!」

ミサオが課長に対して丁寧に書いた確認のメールに対して、返信があまりにも早く届く。

ドキドキしながら確認する。

「・・・マジかよっ!」

返信には一言。

「りょ!」


(何なんだよ・・・一応上司なんだべよ。なんで軽いノリなんだよ。ありがたいよ?ありがたいけど、重みもう少しあっても俺、良いと思うの間違ってるかな?課長さん・・・もう少し、考えて動いた方が良いと思うよ?)

何か腑に落ちずに頭を抱えるミサオ。

取り敢えず課長さんからお墨付きは貰えた。

次はなんと言っても家族。

すなわち、クミコとの話し合いである。

・・・何度となくおこなった異世界での害獣駆除(闇憑き討伐)の副業。


その対価は、現代世界での本業収入を上回ってしまった。


今やどちらが副業なのかわからない。


正直、クミコには内緒で、 車のローンやカードの支払いもすべてクリア済みだった。


さらに、現実的に家を買うラインまで見えてきた。


そんな中での、異世界商人兼業の話。

仕事と収入だけみれば、異世界全振りで動いた方がミサオ的にはいい。


一人で全部こなせるとは思っていないが、 手伝って欲しいともミサオは思っていない。

人を雇い入れても十分商売としてペイ出来る目安も容易に考えられる。


ただ。

ミサオ的には秘密にしていることが、やっぱり辛い。


(言葉で説明しても、与太話にしか聞こえないだろうが・・・。)


ミサオは思った。


「百聞は一見にしかずか、やっぱ。・・・何とかして、現場見せよう!」

宿屋で夜を過ごし、朝食も取らずにこの日は現代に慌て気味に戻る。

現代世界はミサオが戻れば時計が動き出す。

現代世界の時間では、三連休の2日目のまだ昼間。

もう一日休みがある。ここに例の作戦をぶっ込もうとミサオは考えている。


自宅に戻る前に、事前に課長(カ=チオ)さんには事情を説明し、許可も得た。


きっかけ作りには、ジョロにも一役買ってもらう。

そして次の日の朝。

たまのわがままの体を取り、ジョロの洋服を見に行きたいとクミコが腰を上げそうなネタで何とか表に連れ出す事に成功したミサオ。

これも副業のおかげ。財布に余裕が出来るのは正義。

永井家唯一の軽自動車に皆で乗り込みエンジンをかける。

クミコとジョロは後部座席。助手席の後ろにはワンコ用のチャイルドシートもしっかり着けている。

そして出発進行。


ドライブ中、窓から顔を出して外を見たり、 他のワンコに挨拶するのが大好きなジョロ。


今日もご機嫌だ。


「そういえばさぁ、俺の副業先の事務所、この傍なんだわ。 

ちょっと見に来ない?」


さりげなく話を持ちかけるミサオ。


だが。


「えぇ~っ、だって害獣駆除の会社でしょ? 

ネズミとかハクビシンの死骸とかあったら嫌だし、薬剤も心配だし・・・。

ジョロ連れてって大丈夫なの?」


クミコの言い分は、もっともだった。

しかし、ミサオもここで諦める訳にはいかなかった。家族の未来がかかっている。

何とか嫌がるクミコを言いくるめながら向かった先。


案内したのは生活感ゼロの、副業用に借りたマンションの一室だった。

勿論会社など存在してない訳だから薬剤も動物の死骸も存在しない。

ミサオは嫌がるクミコに頭を下げまくって何とか室内にジョロと入って貰った。

1K。

最低限の家電とテーブル。

布団一組と座布団4組。

そんな一室の冷蔵庫からペットボトルのお茶を出して、 ミサオは改めて向き合った。


「あのさぁ・・・。害獣駆除の副業の話なんだけどさ。 

マミ・・・クミコちゃんに言ってないことあってさ。」


クミコは、呆れたようにため息をついた後、真顔で尋ねた。


「で、何?お金に余裕出来たから、ここで何か悪い事でもしてんの?」


(うわっ、直球来たよ!)


ミサオは一瞬ひるんだが、腹を括った。


「いや、害獣駆除も本当にやってるし、ちゃんと稼いでるよ。 

ただ、場所と対象がねぇ・・・。」


「だから何なの?ハッキリ言って!」


クミコの追撃に、ついに口を割る。


「異世界! 

場所は異世界! 

害獣は、その、魔物・・・の中でも特殊なヤツ!」


一瞬、クミコの目が真ん丸に見開かれた。


そして。

可哀想な者を見る目に変わった。


(そりゃそうなるよなぁ・・・。)

「あのね、俺が以前。こんな歳で異世界アニメ見たり、ファンタジー小説読んでたから、バカ言ってるんだろうって思うのは理解出来る。うん。逆の立場なら俺でも思う。」

一応クミコの考えてそうな事は先に口に出すミサオ。

想定はしていたが、やっぱり少し寂しい。ジト目が辛い。


ミサオは深呼吸した。


「わかってる!言葉じゃ信じられないよな! 

だから、その目で見てくれ!異世界を!」

ノリと勢いで突っ走るしかない。


ミサオはスマホを掲げ、力強く言い放つ。


「異世界ファミリー・ポチッとな!」


右手の親指でアプリをタップした次の瞬間。


部屋は眩い光に包まれ、 

ミサオ、クミコ、コジ丸=ジョロの姿は部屋から消えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...