家族で国家機密──うちの犬がしゃべった、その先で 改定版

武者小路参丸

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第12話 虎、来たる──FBI親子と、嵐の交流戦

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「ねえ、パピ?何で今日は朝からいきなり出動!とか言って、スーツ姿で成田空港なの?」

「そうよ!突然知らない人達と合流するわ、車何台も連ねて走るわでアタシ達は話置いてけぼりで!もう少しわかるように説明して!」

ミサオに急き立てられて、慌てて自家用の軽自動車に乗せられ、あれよあれよという間に現場に連れて来られたジョロとクミコ。

「ん?ああ、要請の内容自体が、スケジュールパツパツだったもんでな?しかも途中でウチの車置いてくとか、ワゴン車に乗り換えるとかの指示が後から後から追加で連絡来てたじゃん?大体家族だからって俺だけに要請寄越すなって話だよ!その上、他の警護の人員と車の中で打ち合わせだっつって一苦労気持ちの余裕なかったわ。悪かったな。」

2人に詳しい内容を伝える余裕が無かった事に、素直に詫びるミサオ。

「だって今回の話って、Unknownと直接どうのとかじゃなくて、外国からのお客さん警護と案内らしいぞ?別にウチの家族じゃ無くて良いと思うんだけどさ。やっぱ暇してると思われたんかな?」

話しながら少し落ち込むミサオ。

「パピ、大体何でわざわざ僕達なの?しかも獣人モードで。」

ジョロが首をかしげる。ミサオやクミコと同じスーツ姿だが、シッポと耳が見えているので、周りにはゆるキャラにしか見えない。

「ん?ああ、それがさ。今回初めて来るらしいんだ。外国からの、ウチらと同じ様な家族。しかもFBI所属だと!」

「FBI!あのクリミナルなんちゃらみたいな感じ?」

ミサオの発言に、クミコはケーブルテレビで仕入れた情報で答える。

「マミ?それ海外ドラマじゃん?俺等Unknown相手だよ?向こうも普通そうじゃね?」

警護任務にしては、装いも会話もおかしい永井家。

出国ゲートの外で待つ永井家一同と、その他数人の警護要員達。警護対象者達が乗った旅客機は既に無事到着している。今か今かと待っている中、奥の方からパラパラと、人がこちらに向かって移動してくるのが見えてくる。

その中に、明らかに違和感のある姿があるのに気付く永井家。

「"Hey! You must be the family assigned to escort us today! Looking forward to working with you, brothers!"(やあ!君たちが我々のエスコートをしてくれる家族かい?今日は頼むね?兄弟達!)」

ゲートをくぐり終えた人達の中からこちらに向かって来る3人の男女からミサオ達永井家に声が掛かる。

お互いに、はたから見ればゆるキャラを連れている様に見えるのだから、何かの撮影だと周囲からは思われているかも知れない。

永井家の皆の目の前に歩いて来た家族。

その中の1人は、黒のキャップに黄色いTシャツ・ゴールドの太めのネックレスをジャラジャラと着け、太めのデニムのパンツとスニーカーという出で立ち。見えている肌は全て黄色と黒の縞模様。お尻からはシッポ。耳は見えてはいない。見た目でバッチリわかるその人物が声を最初に掛けて来たのである。

「虎、なの?ハ、ハゥドューユードゥ?」

クミコが焦りながらも、挨拶を返そうと努力する。

「・・・それ一択だよね?米国はペットなの?虎って。いや、それよりも英語!今何言ったのか、マミわかった?」

ミサオも予想外だったのか呆れつつも、会話の壁にオロオロしだす。

「やあ!いらっしゃい!ようこそ日本へ!」

英語もちんぷんかんぷんで戸惑う親達を余所に、虎獣人と握手を交わすジョロ。

「うわっ!息子の方がフレンドリー!・・・お前、英語分かるの?」

ミサオが不思議そうにジョロに聞く。

「へ?分かるよ?獣人同士だもん。パピもマミも分からないの?」

逆に問い返されるミサオとクミコ。

「そう言う事ね・・・。言葉と言うより思念伝達に近いのかしら?ジョロ、羨ましい。」

クミコが少し拗ねる。

「やあ!今日はありがとう。あ、言葉は日本語で平気ですよ?妻がこっちの人ですから!」

陽気に話す白人男性とそのそばに立つ日本人女性。虎獣人の子以外の家族2人は、ハーフパンツにサンダル、アロハにストローハット、ご丁寧に黒のサングラスという姿。

「ハイ!ど~もこにちは~!永井家の皆さんで~すね?私達はステイツのD.Cからきま~した!」

虎獣人の子の母親からも声をかけられる。

父親からの説明だと、奥様は日本人なのに言葉が少しおかしくなっているらしい。

「旦那さんの方がベラベラやないですかっ?」

「奥様、日本人ですよね?」

クミコとミサオが同時に突っ込む。

「ハハッ、向こうに染まってしまってつい・・・。」

背も高く、スレンダーな体型の女性が優しい笑顔で答える。

「すみませんね!妻は私より米国かぶれでして・・・。改めまして、私の名前はマーク・ハドソン。妻がミワ・ハドソン。で、息子がタイガ・ハドソンと言います。私はビューロー(FBI)で特殊な仕事に着いていましてね。今回は視察名目ですが、骨休めも兼ねてるんですよ。タイガもじ~じやば~ば、日本のグランパやグランマに会いたいもんな?」

マークと名乗る、渋い口ひげを蓄え、大きい身体で金髪のグラサンイケメンパパが、タイガの頭をワシャワシャと撫でる。

「ビューロー?・・・あ!FBIのBってそこの事か!あ、どうもすみません!色々呆気に取られてしまって。・・・一応今は公務も兼ねてますが、私がこの永井家の父親であるミサオと申します。日本の警察の役職では警部補ですね。ルーテナントでいいのかな?で、こっちが妻のクミコで、こっち息子のコジマルです。あ、このコジマルですが、ニックネームがジョロなんで、気軽にジョロと呼んでやって下さい!・・・ちなみにミスターハドソン・・・は、私達の事をどこまで?」

挨拶を終えたミサオが父親のマークにたずねる。

「・・・斎藤さんから説明は受けています。H-FORCE(エイチ・フォース)内では、自衛隊での二尉相当ですよね?把握しています。私は向こうで別の政府系組織の、SSAという所と兼務している立場にいます。貴方と似たような感じですね。そうそう、ミサオさん?私の事も、マークで良いですからね?」

笑顔でミサオの肩を抱くマーク。

隣では妻のミワがクミコにハグしている。

「はは、は~い!ま、ま、まいね~むいずクミコ!よ~ろし~くね~!」

クミコは相変わらず困惑している。

「マミ、わかりやすくね?会話も通じるんだからさ、リラックスして!俺等もジョロ見習おう?」

警護とは名ばかりの家族交流が始まったハドソン家と永井家は、用意してあるワゴンタイプの警護車両に乗り込み、まずは到着の挨拶の為に東京の警視庁へと向かう。

もちろん目的地は警視庁内に設置されているH-FORCE(エイチ・フォース)本部である為、到着後は業務用エレベーターとダミーの部屋を通ってという少し面倒な動線を使う。

無事到着した本部では、司令である斎藤とマークが固い握手をかわす。

「ウェブ上ではいつもやりとりしてますが、やはり生身でお会い出来るのは感慨深いですね。・・・初めましてタイガくん。斎藤と言います。家族の皆さん、とても仲良さそうですね?何よりです。」

ハドソン家を見て微笑む斎藤。

「はい!ダディもマムも、僕を大切にしてくれています。だから僕も、任務の中で大切な事をいつも忘れない様にしています。」

タイガの言葉にうなずく斎藤。

(タイガくん、日本語出来んのかい!)

ミサオとクミコが2人で顔を見合わせる。

「ではミスター。やはり予定通りに?」

「はい。タイガも楽しみにしてましたし、ミワも日本の武器を試せるのを心待ちにしていました!」

(ん?武器?)

ミサオがマークの発言をいぶかしむ。

「ハイ、クミコ?日本のハンドガン、ステイツよりち~いさい?一緒に、レッツシューティング!」

「え?あの?パピ?ジョロ?」

いきなり首の後ろをミワに掴まれながら、射撃訓練に連れて行かれるクミコ。

「・・・ご愁傷様、マミ。で、俺達は?」

クミコをそのまま見送ったミサオは、斎藤に自分達が何をするのか質問する。

「・・・今回のハドソン家の来日は、この先の国際連携への布石として実現されたものです。あまりにも短い滞在ではありますが、その時間を有効に生かしたいと考えています。と言う訳で、ジョロくんとミサオさんは、こちらの2人と模擬戦をやってもらう予定ですね。」

「タイガくんと?やるっ!」

「ジョロ!負けませんよ?」

獣人2人は笑顔で臨戦モードだが、ミサオは訓練を終えて実戦も経験していても、元は素人同然。

ストリートファイトしか知らない者と、若い時からの訓練を積み上げてきた強者とは訳が違うと理解している。

「・・・相手はFBIのプロですよ?俺にどうしろと?」

斎藤の言葉に引き気味のミサオ。

「お手柔らかにお願いしますね?ミサオ。」
こちらは笑顔のマーク。

斎藤を先頭に、ジョロ・ミサオ・マーク・タイガの4人は格闘訓練場へと場所を移し、それぞれにペアとなり腕前を競う事となる。

斎藤の仕切りと掛け声の元、動き易いジャージ上下に着替えた二組の家族の模擬交流戦が始まる。

初手は肉弾戦で相対するタイガとジョロ。

がっぷり四つに組み合い、力比べになっている。

「・・・君、元々トイ・プードルだよね?何で力で僕に対抗出来るの?」

「・・・結構キツいよ?流石虎さん、伊達じゃないよね?」

ピクリとも動けぬ体勢のまま、互いに声を掛け合うジョロとタイガ。

(ベキッ!)

(ミシミシッ!)

格闘訓練で使う場所として様々な補強をしてあるはずだが、何故か室内に聞こえてはいけない様な音が響く。

「何故に相撲?それなのに足元のマット破けて地べたにヒビって!他にやり方ありそうな・・・。」

息子達の健闘に目をやるミサオに、マークからの誘いが掛かる。

「HEY!ミサオ、よそ見しないよ?READY?」

「おっと失礼!GO!」

組み合うマークとミサオ。

と、瞬時に組み伏せられるミサオ。

「痛!ギブ!ギブギブ!」

右腕を決められたミサオが左手でタップする。

「ミサオ、本気を出して下さいね?」

力を緩めながら言うマーク。

「マークさん、俺正規の訓練3日間しか受けてないから!元々プロじゃないから!」

ミサオがマークに訴える。

「それ、息子が危険になった時も言えますか?」

マークからいきなりの重い発言。ジョロの事を引き合いに出されると、ミサオも心のスイッチが切り替わる。

勝ち負けじゃ無く、守る。どんな事をしても。

顔付きにも、若い頃の獰猛さが浮かんでくる。

「!・・・失礼。マークさん、いやマーク。・・・俺は我流だよ?」

昔取った杵柄のストリートファイトスタイル。ミサオは低い体勢からのダッシュをかける。

と、マークの手前で急停止からのアッパー。後ろに避けたマークへ前蹴りの追撃。それに合わせるマークの右拳のカウンター。

身体の左側を後ろに引いて、右のボディを寸前でかわすミサオ。

「・・・あなたはフリースタイルの方が良いみたいですね?ミサオ。」

「よく言いますよ、わざと避けやすくしたでしょ?・・・少しあったまってきましたよ。もう少しいきますか?」

ここから、ミサオとマークの模擬戦は続く事となる。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

時を同じく、場所は変わって射撃訓練場では。

(タンタンタンタンタンタン!)

「ヒャッハ~!これこれ!ステイツより精度いいかも!」

「あの、ミセスミワ?そんなタンタン撃たなくても。・・・的は逃げないし、ね?」

訓練場では、ハイテンションのミワと引き気味のクミコが的に向かっている。

クミコはほぼ、ミワの暴走の制止役になっている様子だが。

「何で誰も来ないのよ~!現場出てる方が気楽なのは何故?」

クミコの言葉は発砲音の中に虚しく消えてゆく。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「いや、いい勉強になったよジョロ。」

「そんな事ないよティギー。1泊なんて淋しいね。次来た時は、他の仲間にも紹介するよ!」

お互い怪我も無く、ガッチリと固い握手を交わしているジョロとタイガ。

その横で、父親2人が息子達の様子を眺めていた。

「仲良き事は美しきかな。若いって素晴らしいね、ミサオ!」

マークは1人感動している。

「・・・結局コテンパンかよ。そのマークの笑顔が少し憎らしいわ!・・・ま、次回に雪辱だな。いつの間にかジョロもティギー呼びに変わってるし。ありがとう、マーク。」

首の辺りをもみほぐし、愚痴りながらもお礼を言うミサオ。

父親2人もここで握手をする。

その様子を、斎藤司令は黙ってうなずきながら見つめている。

と、離れた場所から徐々に騒がしい声が近づいてくる。

「クミコ!久々にSushi、廻るSushi!みんなでLETS.GO!」

「何でそんなに元気なの?パピ助けて・・・。」

ミワのテンションに撃沈したクミコがミサオに助けを求める。

「・・・相当ミワに気に入られたね?君のハズバンド。」

「・・・ま、仲悪く無いみたいだし、いいんじゃない?たまには普段の俺の気持ちもわかってもらわないとさ。それにミワさんの飯の要望もあるみたいだし、行きますか?みんなで。司令!ここからの予定は、街の視察って事で良いんですよね?」

斎藤にこれからの行動への確認をして、了承を貰ったミサオは、子供達にも声を掛けて、皆で斎藤オススメの新橋の回転寿司店へと警護車両で向かう。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「最近は、回って来るだけじゃなくて、ロコモーティブでもSushi来ますか?面白~いで~すね~!」

「ミワ、そのイントネーション、力抜けるのよね?」

気付けばクミコもミワを呼び捨てにしている。

「女性陣も楽しめてますね!子供達は楽しんでますか?」

マークが女性陣から子供達に目線を移す。

「僕はカルビ!」

笑顔で言うタイガ。

「僕トントロ!」

合わせて言うジョロ。

「タイガくんとジョロも、ここ寿司屋なんだけどな?・・・マーク、コップ出して!そうそう、ま、一杯。」

子供達の注文に首をひねりながらも、マークのコップに瓶ビールを注ぐミサオ。

「・・・ぷはぁ~!ありがとうミサオ。動いた後のこの一杯目。このとりビー!良いですね!」

マークはご満悦といった表情になる。

「俺、帰り車運転するから飲めんけれども、そう美味そうに飲まれると悔しいな?くそ、家で飲んでやる絶対!」

こうして2つの家族でワイワイと食事が進んでゆく。

お腹も心も満たされた後、高輪のホテルまでハドソン家を送った永井家は、車を乗り換えた首都高速の平和島パーキングまで警護車両で送って貰い、再び自家用車に乗り換えて、自宅まで帰っていった。

翌日は、自家用車でそのまま成田空港へと直接向かった永井家。既に空港には、ハドソン家が警護要員に囲まれながら、チケットカウンターの近くで座っている。

「何か、あっと言う間だね?ティギー。グランパとグランマにも会えたんでしょ?」

「そうだね。せっかく用意してもらったホテルから電話したら、すぐに会いたいって言われちゃって!結局品川の家まですぐに向かって。警護の人達に悪い事しちゃった!で、みんなでお泊りして。朝のグランマの味噌スープ、染みたな。・・・たった1日だったけど、凄くエキサイティングだったよジョロ!・・・君は日本の、ほら、あれ。・・・そう!マブダチ!」

「マブダチ!そう、ティギーと僕はマブダチ!」

笑顔で話すタイガとジョロ。

「親睦も深まって何よりですね!今度はあなた達がD.Cに来て下さい!これは社交辞令じゃ無く、必ずですよ!」

力強い言葉でミサオに伝えるマーク。

「お!いいね!家族で海外旅行、まだ経験無いから!やっぱ飯の量もビッグかな?」

少しワクワクするミサオ。

「今は日本の円、価値安いのよ?」

そこに現実を突きつけるクミコ。

「それなぁ。・・・行くならエコノミーか?いや、その前に俺、高所恐怖症・・・。」

金銭と高所のダブルアタックに撃沈するミサオ。

それを見ているクミコが苦笑している。

「マミ?パピ?ほら、みんな行っちゃうよ?」

ジョロに声を掛けられ、空港の時計を見ると、まもなく搭乗時刻だと気付くミサオとクミコ。

ここでハドソン家と永井家は、ゲートを境にお別れとなる。

ハドソン家に手を振って見送る永井家の3人。

「人々の平和の為に!」

ミサオにVサインを送るマーク。

「みんなの笑顔の為に!」

マークにVサインを返すミサオ。

「家族の!」

「未来の為に!」

互いに右手の親指を立てて叫ぶタイガとジョロ。

「ライフルとハンドガン、自宅まで送ってね~クミコ!」

「んなもん個人で送ったら捕まるからっ!メールするね~!」

最後までミワに振り回されるクミコ。

一泊二日の視察兼観光を終え、タイガとその家族は、帰国の途に着いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「台風みたいだったな?マミ。」

「も、無理。ミワ、パワフル過ぎ!・・・マークの方がよっぽど日本人よね?」

空港の駐車場へと向かいながら、お互い苦笑する永井家夫婦。

「世界には、ティギーみたいな仲間達がまだまだ居るんだよね。・・・みんなで力を合わせて、早くUnknownか収まるといいなぁ。ね?パピ、マミ!」

嵐の様な、けれども太陽の様なハドソン家を始めとした、海外の仲間達。

その無事と健闘を祈りながら、永井家は横須賀へと帰って行った。

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