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第7話 異世界のチンピラと初の御用
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「ヤヨイもさ、クミコちゃんもさ。・・・いいよ?俺が魔法の初歩教えたんだから。でもさ、何でこんな事になんの?」
大分親しくなった3人。ミサオの口調も親しげである。そんなミサオがヤヨイとクミコの2人に愚痴を吐く。
ぼやくミサオの前に並ぶ人・人・人。老若男女。いわゆる村人総出。
木箱の上に立ち、皆を見下ろす状態。朝礼台の上の校長先生の様。もちろんミサオは校長先生ではない。
「何でこんな事に・・・。」
嘆くミサオに声が飛ぶ。
「先生まだ~!」
誰かが声をあげる。
「先生ちゃうわドアホ!・・・まずは右手前に出す。手の平、前にして。目~つぶって。頭の中で炎を想像して?・・・そのイメージ持ったまま、その炎が手の平からスゥッと出てくるよ?出てくるよ?はい目を開けて!」
「うわっ!スゲぇ!」
「ばあさん!わしの手の平!綺麗な炎じゃ!」
「お父さん見て見て!ランタンみたい!」
村人が盛り上がる。昼からレッツパーリィである。
「ミサオ、みんな出来てるみたい。」
ヤヨイがミサオの右横で言う。
「夢・・・じゃないわよね?この光景。」
左隣のクミコがつぶやく。
(こんなにすぐ出来るもんか?俺の魔法のアドバンテージ無くなりそうです。グスン。)
素晴らしい成果にも関わらず落ち込むミサオ。
「ミサオさん。アンタ凄いね!何者?」
笑顔でミサオのそばに近づいてきた男。
「村長・・・これ、本当に良かったんですか?考えたらリスクありますよ?かなり。」
笑顔の男。この村の村長、ジローに伝えるミサオ。
「約束しましたからな。この力は外ではミサオさんの許可無く使用禁止。村の生活の向上にのみ使う。狩りの場合は、周囲に他人の目がないのを確認してから。念押しもしてますから平気平気。」
「村人が信用出来るのは俺も分かってます。それよりも人の目に万が一でも触れた時の危険が・・・。」
「漏れそうになれば始末はつけますよ?それなりの手段で・・・グフッ。」
「怖っ!今の笑い方超怖っ!・・・マジに頼みますよ?なんかあったら夢見が悪いから。」
「上手くやりますよ。それよりミサオさん。あなた、ずっとこの村に残るつもりですか?」
「へ?」
村長ジローの思いもかけぬ言葉に鼻白むミサオ。
「いや、いてもらえるのは村としてありがたい。ありがたいけど・・・その力。世の為人の為に使わぬのは非常にもったいないと思うのだが・・・。」
村長の言葉を受け、その場で考え込むミサオ。
(俺そんな偉かないけどな?向こうじゃ白い目で見られる事多いくらいだったのに。根っこは変わらんぞ?勘違いは、ろくな事になんねぇし。)
「いや、村長。俺はね?この村・・・。」
「村長!あたし達もそれ考えたの!そろそろチュウオー辺りに出てみなきゃって!ね、クミコ。」
「えぇ。この力を良い方向に活かして、この村だけでなく、もっと多くの人々が幸せに、快適な生活が送れる様に。もちろん自分達の生活も含めてだけど。ね、ミサオさん!」
(聞いてないって!俺抜きで既定路線なのそれ?マジか・・・。)
「ん?あ、そうそうそれな?まあ、そこまで離れた距離でもないし、交代で魔法の指導来れば村も困らんよな?そういう感じで、まぁそろそろ外の世界に出て見ようかな?なんてね。はは、ははは。」
空気を読んで、合わせるミサオ。
(これでいいのか?適当言ってるけど俺、知らんぞ?未来の自分よ?あとは頼む!)
結局、悩みは先送りにするミサオ。
かくして3人はチュウオーでの生活の段取りを始める。まずは不動産へ。
「・・・あのさ、3人一緒って・・・俺一応成人男性。あなた達未婚女性。おかしくない?」
「何が?ライター売ったお金で部屋探し。わざわざ別の場所にするのもったいないでしょ?」
いかにも合理的判断だと言うかのようなヤヨイ。
「そうですよ。同じベッドでその・・・寝る訳でも・・・。」
何故か身悶えするクミコ。
「まだヤヨイの言い分は一理ある。でもクミコさん?そのリアクションは、その、何と言うか、色々問題だとミサオは思う。うん、思う。」
あれこれ言っては見たものの、結局中古の住宅を1000万イェンで手に入れる。現代で言う4LDK。屋根裏付き。庭もある。
村に戻って皆に引っ越しが決まった事を告げて早々に荷物をまとめる。
手回り品のみだから簡単に済んだ。
交代でクミコの家を使い、魔法の指導の時の宿泊が出来るようにとの措置。
結局段取り2日。怒涛の引っ越しを終え、早くもチュウオーでの初めての朝。
「・・・一国一城の主・・・ではねぇな。クミコさんの銭だから・・・あれ?俺まだヒモ状態?まだ自分の力で銭稼いでないじゃん?・・・ぐぬぬ・・・不覚。」
気持ち良い朝日に照らされているのに心に闇を抱えるミサオ。
「でも、こっからが難問なんだよな・・・。どこの仕事も基本ガキの頃から丁稚か弟子入り基本らしいし、俺、少年院時代の溶接とか板金くらいしか経験無いから、こっちの生活レベルじゃ活かせないんだよな?」
考えれば考えるほどドツボにハマるミサオ。
「ま、まあ町ん中プラプラしてりゃ、何かあんだろ。何か・・・あるよな?あるんだよな?」
気が気ではなくなるミサオ。仕方が無いので朝食を寝ている2人を起こさない様に朝食を作り始めるミサオ。ヒモ同然のミサオなりの気遣いである。
「おはよう!何ミサオ、朝食作ってくれたの?気が利くわね!素直にありがとう。天の神々に感謝して・・・うま!」
ヤヨイは単純。
「ミサオさんおはよう・・・また朝食作ったんですか?私やるのに・・・でもこの肉と目玉焼き?コミに合うのよねぇ・・・。は!ミサオさん、ありがとうございます。それじゃ、せっかくなんで、いただきます。」
クミコは気遣い。2人の性格が出る。
「これくらい大したことでも無いから。今日はヤヨイは村で指導だろ?クミコさんは?」
「私は薬師の組合に調合した薬草の粉末届けに行きます。ミサオさんは?」
「・・・うす。職探しっすかね?うす。」
「別に金に困ってる訳でもないし、まだ焦ること無いって!ね、クミコ?」
「えぇ。本当は私達もしばらく働かなくてもいいんですけど、やっぱり私の作ったものでも当てにされてる所もあるし、信用もあるから急に休む事も出来なくて・・・。だからミサオさんは気にしないで、家でゆっくりしてても良いんですよ?」
2人は優しい。だが、優しさに甘えていると、どんどんクズになるのが怖いミサオ。
「いや、流石にそれは俺的に辛い。2人云々じゃ無く、個人的にね?ただ俺の故郷とシステム違うから難しいのよ。ツテとかないしさ?だから町の中歩いてキッカケ探しにでも行くよ。・・・掃除してから。」
さみしい背中で言うミサオ。
「・・・本当に気にしないで・・・。」
「そこまでだ、クミコのお嬢さん。・・・情けは時に、刃(やいば)に変わるんだぜ?」
「は、はぁ・・・。」
結局2人を見送ってから町へと繰り出すミサオ。
「お~れは天下の異~世界人~。だ~けどか~なしいヒ~モ暮らし~!仕事は?無いよ!だってここではツテが無い~!」
ヤケになって自作の歌を歌いながら歩くミサオ。
「おいおっさん!人の肩にぶつかっといてワビも無しかよ?えぇ?」
「すみません!けして悪気は無くて・・・。」
「ウチの仲間の顔潰してくれたんだ。分かるよな?安くないんだよ。な?」
(・・・この世界もいるのかよ。チンピラうぜぇな。)
通り過ぎた路地裏から聞こえる会話にしかめっ面になるミサオ。
「俺等がこの辺の仕切りやってんだぜ?知らないとは言わせねぇよ?」
「あの・・・どうすればお許しいただけるんてしょうか?」
震える声で、囲む3人に問う男。
「誠意だよ誠意!あ!肩痛ぇ。折れてなけりゃ良いなこれ。」
「おいおい大丈夫か?・・・あれ?俺、酒飲みたいなー!ギャハハハハ!」
「二人共可哀想だろ?おじさん震えてるじゃねぇか。・・・いいかおっさん。俺等もガキの使いじゃねぇんだわ。分かるよな?」
3人の下卑た笑い。
ミサオの中で何かがプツンと切れる。そのまま脅かされている男性の方へと歩く。
「・・・おじさん!ごめん待たせて。じゃ、行こうか。」
震える男性のそばへと行き、肩を抱えてその場を離れようとするミサオ。
「え?あの、どちら・・・。」
「何買おうか見てたら目移りしちゃって。本当にごめんね。さ、おばさんも心配するから、早く帰ろう!」
言いながら男性にウインクするミサオ。
「おぅあんちゃん!横からいきなり出てきて何なんだよ!こっちはそのジジイと話してんだよ!邪魔だ!」
男の怒声も柳に風とばかりにミサオは男性に話かける。
「おじさん、お知り合い?」
「え?い、いや、知らない人達で・・・。」
「そう。知らない人達なんだ。へ~。じゃあ気にしなくていいですね。おじさん、おばさん待ってるから、先に帰って待ってて下さいよ。ね?」
「で、でも・・・。」
「いいからいいから。さ、行って!」
背中を押して男性をその場から逃がすミサオ。
「・・・お前、何してくれてんだよ!」
「かっこつけてんじゃねえぞ!こちとら肩の骨いかれてんだよ!」
「お前、俺の大事な仲間の怪我の責任、取れんのか?事と次第によったら・・・。」
最後の1人が腰に付けた剣の柄に手をかける素振りを見せる。
「へ~。肩、ですか。どれどれ。私武道やってた関係で骨、少しは分かるんですよ。左肩ですよね?」
怪我をしたと言い張る男の左肩をつかんで力を込める。
「お前急に!・・・いだ!ちょ、待て!いだ!いだだだだ!やめ、やめてけ・・・」
(メキッ。)
「ウガッ!いだい、いだい・・・。」
左肩を押さえてうずくまる男。
「テメェ何しやがった!」
「仲間の肩に何ナメた事してんだよ!」
残りの2人が血相を変える。
「肩ですか?正常でしたよ?・・・俺が折るまでは。」
「何お前ナメ・・・。」
「うるせぇんだ!ピーチクパーチクよ!このドチンピラ、埋めんぞこの場で!」
その場の空気が一瞬凍りつく。
「お前誰に物言って・・・。」
「黙れクズ。いつの時代もどこの世界も、いるもんだなぁ三下!テメェ等ケンカ売る相手間違えたな?俺は手加減ねぇぞ?あ?来いよ。ほら、来いっつってんだろコラ!」
無造作に歩み寄り、左側に居た男の髪の毛を掴み、かがませた状態で顔面に膝蹴り。
「ギャッ!いらい!はが!はがが!」
顔面を押さえて転げ回る男。どうやら鼻にクリーンヒットしたらしい。路上に血が広がる。
「テメェ、覚悟はしてんだな?」
ミサオから見て右側の男が腰の剣を抜く。
真剣。
模造刀などでは無い。切られれば死。
「ダンビラ(真剣)抜いたってこたぁ、タマ(命)の取り合い。死ぬ覚悟してるんだよな?もう引けねえぞ?」
言いながら剣を構える男に向かって歩き出すミサオ。
「お、お前切るぞ?ほ、本気だぞ!」
男の剣先が震えている。
「あ?お前腰引けてんぞ?切らねえのか?ほら、届くだろうがもう。それともコケ威(おど)しか?クソが!」
「この!この、死ね~!」
男が剣を大きく振り上げる。そのタイミングでミサオが男の前にピタリと貼り付く。
「剣なんてよ、距離保たなきゃあ単なる鉄の棒なんだよ。引かなきゃ斬れねぇ。そんな道理もわかんねぇでダンビラいじんなガキ!」
(ボグウォ!)
「アガ・・・。」
アゴに入った右の拳。
そのまま白目を向いて倒れる男。
(いや、マジの刃物は焦るわ~。身体強化かけてても怖いわ!やっぱ。)
心臓がバクバクしているのを気取らせずに、3人を見下ろすミサオ。
「次はマジで殺す。そのツラで悪さ見かけたら最後だ。」
言い残して立ち去ろうとするミサオの後ろから笛の音がする。
「そこの男!止まれ!武器などあれば、その場に置け!」
数人の鎧をまとった男達に囲まれるミサオ。
(あっちゃ~。この国の官憲かよ?いきなりバッサリとかねえよな?)
何かあったら魔法があると、素直な態度に出るミサオ。
「別に武器など持ってない。両手上げとくから調べろ。経緯はこいつらだけじゃ無くて、周りの見物人にも聞いてくれ。そうすりゃ分かるだろ。ほら、みっともないから、どこでも連れてけよ。」
握った両拳を揃えて前に出すミサオ。
「貴様、ふてぶてしいと言うか肝っ玉据わってると言うか・・・まぁいい。事情は聞かねばならん。我らに同行願おうか。別に縄はかけぬ。逃げるつもりもなかろ?」
「逃げたらこっちが悪人扱いにならぁね。胸張って付き合いますよ。」
「それじゃ、こっちだ。付いて来てくれ。」
声を掛けてきた慣れた様子の兵士の先導で、ミサオは異世界で初事情聴取となるようだった。
ーーーーーーーーーーーー
あとがき
7話目までお付き合いいただきありがとうございます!
今回は、村での指導から町暮らしへの移行、そして早速のトラブル発生という回でした。
ミサオの本領発揮(?)とも言える強面ムーブと、異世界のチンピラとのやり取りは現代ヤクザの空気感が残っていて、異世界ならではの剣も混じり、なかなかの緊張感でした。
無事に解放されるのか、それともさらに面倒な事態になるのか、次回もぜひお楽しみに!
大分親しくなった3人。ミサオの口調も親しげである。そんなミサオがヤヨイとクミコの2人に愚痴を吐く。
ぼやくミサオの前に並ぶ人・人・人。老若男女。いわゆる村人総出。
木箱の上に立ち、皆を見下ろす状態。朝礼台の上の校長先生の様。もちろんミサオは校長先生ではない。
「何でこんな事に・・・。」
嘆くミサオに声が飛ぶ。
「先生まだ~!」
誰かが声をあげる。
「先生ちゃうわドアホ!・・・まずは右手前に出す。手の平、前にして。目~つぶって。頭の中で炎を想像して?・・・そのイメージ持ったまま、その炎が手の平からスゥッと出てくるよ?出てくるよ?はい目を開けて!」
「うわっ!スゲぇ!」
「ばあさん!わしの手の平!綺麗な炎じゃ!」
「お父さん見て見て!ランタンみたい!」
村人が盛り上がる。昼からレッツパーリィである。
「ミサオ、みんな出来てるみたい。」
ヤヨイがミサオの右横で言う。
「夢・・・じゃないわよね?この光景。」
左隣のクミコがつぶやく。
(こんなにすぐ出来るもんか?俺の魔法のアドバンテージ無くなりそうです。グスン。)
素晴らしい成果にも関わらず落ち込むミサオ。
「ミサオさん。アンタ凄いね!何者?」
笑顔でミサオのそばに近づいてきた男。
「村長・・・これ、本当に良かったんですか?考えたらリスクありますよ?かなり。」
笑顔の男。この村の村長、ジローに伝えるミサオ。
「約束しましたからな。この力は外ではミサオさんの許可無く使用禁止。村の生活の向上にのみ使う。狩りの場合は、周囲に他人の目がないのを確認してから。念押しもしてますから平気平気。」
「村人が信用出来るのは俺も分かってます。それよりも人の目に万が一でも触れた時の危険が・・・。」
「漏れそうになれば始末はつけますよ?それなりの手段で・・・グフッ。」
「怖っ!今の笑い方超怖っ!・・・マジに頼みますよ?なんかあったら夢見が悪いから。」
「上手くやりますよ。それよりミサオさん。あなた、ずっとこの村に残るつもりですか?」
「へ?」
村長ジローの思いもかけぬ言葉に鼻白むミサオ。
「いや、いてもらえるのは村としてありがたい。ありがたいけど・・・その力。世の為人の為に使わぬのは非常にもったいないと思うのだが・・・。」
村長の言葉を受け、その場で考え込むミサオ。
(俺そんな偉かないけどな?向こうじゃ白い目で見られる事多いくらいだったのに。根っこは変わらんぞ?勘違いは、ろくな事になんねぇし。)
「いや、村長。俺はね?この村・・・。」
「村長!あたし達もそれ考えたの!そろそろチュウオー辺りに出てみなきゃって!ね、クミコ。」
「えぇ。この力を良い方向に活かして、この村だけでなく、もっと多くの人々が幸せに、快適な生活が送れる様に。もちろん自分達の生活も含めてだけど。ね、ミサオさん!」
(聞いてないって!俺抜きで既定路線なのそれ?マジか・・・。)
「ん?あ、そうそうそれな?まあ、そこまで離れた距離でもないし、交代で魔法の指導来れば村も困らんよな?そういう感じで、まぁそろそろ外の世界に出て見ようかな?なんてね。はは、ははは。」
空気を読んで、合わせるミサオ。
(これでいいのか?適当言ってるけど俺、知らんぞ?未来の自分よ?あとは頼む!)
結局、悩みは先送りにするミサオ。
かくして3人はチュウオーでの生活の段取りを始める。まずは不動産へ。
「・・・あのさ、3人一緒って・・・俺一応成人男性。あなた達未婚女性。おかしくない?」
「何が?ライター売ったお金で部屋探し。わざわざ別の場所にするのもったいないでしょ?」
いかにも合理的判断だと言うかのようなヤヨイ。
「そうですよ。同じベッドでその・・・寝る訳でも・・・。」
何故か身悶えするクミコ。
「まだヤヨイの言い分は一理ある。でもクミコさん?そのリアクションは、その、何と言うか、色々問題だとミサオは思う。うん、思う。」
あれこれ言っては見たものの、結局中古の住宅を1000万イェンで手に入れる。現代で言う4LDK。屋根裏付き。庭もある。
村に戻って皆に引っ越しが決まった事を告げて早々に荷物をまとめる。
手回り品のみだから簡単に済んだ。
交代でクミコの家を使い、魔法の指導の時の宿泊が出来るようにとの措置。
結局段取り2日。怒涛の引っ越しを終え、早くもチュウオーでの初めての朝。
「・・・一国一城の主・・・ではねぇな。クミコさんの銭だから・・・あれ?俺まだヒモ状態?まだ自分の力で銭稼いでないじゃん?・・・ぐぬぬ・・・不覚。」
気持ち良い朝日に照らされているのに心に闇を抱えるミサオ。
「でも、こっからが難問なんだよな・・・。どこの仕事も基本ガキの頃から丁稚か弟子入り基本らしいし、俺、少年院時代の溶接とか板金くらいしか経験無いから、こっちの生活レベルじゃ活かせないんだよな?」
考えれば考えるほどドツボにハマるミサオ。
「ま、まあ町ん中プラプラしてりゃ、何かあんだろ。何か・・・あるよな?あるんだよな?」
気が気ではなくなるミサオ。仕方が無いので朝食を寝ている2人を起こさない様に朝食を作り始めるミサオ。ヒモ同然のミサオなりの気遣いである。
「おはよう!何ミサオ、朝食作ってくれたの?気が利くわね!素直にありがとう。天の神々に感謝して・・・うま!」
ヤヨイは単純。
「ミサオさんおはよう・・・また朝食作ったんですか?私やるのに・・・でもこの肉と目玉焼き?コミに合うのよねぇ・・・。は!ミサオさん、ありがとうございます。それじゃ、せっかくなんで、いただきます。」
クミコは気遣い。2人の性格が出る。
「これくらい大したことでも無いから。今日はヤヨイは村で指導だろ?クミコさんは?」
「私は薬師の組合に調合した薬草の粉末届けに行きます。ミサオさんは?」
「・・・うす。職探しっすかね?うす。」
「別に金に困ってる訳でもないし、まだ焦ること無いって!ね、クミコ?」
「えぇ。本当は私達もしばらく働かなくてもいいんですけど、やっぱり私の作ったものでも当てにされてる所もあるし、信用もあるから急に休む事も出来なくて・・・。だからミサオさんは気にしないで、家でゆっくりしてても良いんですよ?」
2人は優しい。だが、優しさに甘えていると、どんどんクズになるのが怖いミサオ。
「いや、流石にそれは俺的に辛い。2人云々じゃ無く、個人的にね?ただ俺の故郷とシステム違うから難しいのよ。ツテとかないしさ?だから町の中歩いてキッカケ探しにでも行くよ。・・・掃除してから。」
さみしい背中で言うミサオ。
「・・・本当に気にしないで・・・。」
「そこまでだ、クミコのお嬢さん。・・・情けは時に、刃(やいば)に変わるんだぜ?」
「は、はぁ・・・。」
結局2人を見送ってから町へと繰り出すミサオ。
「お~れは天下の異~世界人~。だ~けどか~なしいヒ~モ暮らし~!仕事は?無いよ!だってここではツテが無い~!」
ヤケになって自作の歌を歌いながら歩くミサオ。
「おいおっさん!人の肩にぶつかっといてワビも無しかよ?えぇ?」
「すみません!けして悪気は無くて・・・。」
「ウチの仲間の顔潰してくれたんだ。分かるよな?安くないんだよ。な?」
(・・・この世界もいるのかよ。チンピラうぜぇな。)
通り過ぎた路地裏から聞こえる会話にしかめっ面になるミサオ。
「俺等がこの辺の仕切りやってんだぜ?知らないとは言わせねぇよ?」
「あの・・・どうすればお許しいただけるんてしょうか?」
震える声で、囲む3人に問う男。
「誠意だよ誠意!あ!肩痛ぇ。折れてなけりゃ良いなこれ。」
「おいおい大丈夫か?・・・あれ?俺、酒飲みたいなー!ギャハハハハ!」
「二人共可哀想だろ?おじさん震えてるじゃねぇか。・・・いいかおっさん。俺等もガキの使いじゃねぇんだわ。分かるよな?」
3人の下卑た笑い。
ミサオの中で何かがプツンと切れる。そのまま脅かされている男性の方へと歩く。
「・・・おじさん!ごめん待たせて。じゃ、行こうか。」
震える男性のそばへと行き、肩を抱えてその場を離れようとするミサオ。
「え?あの、どちら・・・。」
「何買おうか見てたら目移りしちゃって。本当にごめんね。さ、おばさんも心配するから、早く帰ろう!」
言いながら男性にウインクするミサオ。
「おぅあんちゃん!横からいきなり出てきて何なんだよ!こっちはそのジジイと話してんだよ!邪魔だ!」
男の怒声も柳に風とばかりにミサオは男性に話かける。
「おじさん、お知り合い?」
「え?い、いや、知らない人達で・・・。」
「そう。知らない人達なんだ。へ~。じゃあ気にしなくていいですね。おじさん、おばさん待ってるから、先に帰って待ってて下さいよ。ね?」
「で、でも・・・。」
「いいからいいから。さ、行って!」
背中を押して男性をその場から逃がすミサオ。
「・・・お前、何してくれてんだよ!」
「かっこつけてんじゃねえぞ!こちとら肩の骨いかれてんだよ!」
「お前、俺の大事な仲間の怪我の責任、取れんのか?事と次第によったら・・・。」
最後の1人が腰に付けた剣の柄に手をかける素振りを見せる。
「へ~。肩、ですか。どれどれ。私武道やってた関係で骨、少しは分かるんですよ。左肩ですよね?」
怪我をしたと言い張る男の左肩をつかんで力を込める。
「お前急に!・・・いだ!ちょ、待て!いだ!いだだだだ!やめ、やめてけ・・・」
(メキッ。)
「ウガッ!いだい、いだい・・・。」
左肩を押さえてうずくまる男。
「テメェ何しやがった!」
「仲間の肩に何ナメた事してんだよ!」
残りの2人が血相を変える。
「肩ですか?正常でしたよ?・・・俺が折るまでは。」
「何お前ナメ・・・。」
「うるせぇんだ!ピーチクパーチクよ!このドチンピラ、埋めんぞこの場で!」
その場の空気が一瞬凍りつく。
「お前誰に物言って・・・。」
「黙れクズ。いつの時代もどこの世界も、いるもんだなぁ三下!テメェ等ケンカ売る相手間違えたな?俺は手加減ねぇぞ?あ?来いよ。ほら、来いっつってんだろコラ!」
無造作に歩み寄り、左側に居た男の髪の毛を掴み、かがませた状態で顔面に膝蹴り。
「ギャッ!いらい!はが!はがが!」
顔面を押さえて転げ回る男。どうやら鼻にクリーンヒットしたらしい。路上に血が広がる。
「テメェ、覚悟はしてんだな?」
ミサオから見て右側の男が腰の剣を抜く。
真剣。
模造刀などでは無い。切られれば死。
「ダンビラ(真剣)抜いたってこたぁ、タマ(命)の取り合い。死ぬ覚悟してるんだよな?もう引けねえぞ?」
言いながら剣を構える男に向かって歩き出すミサオ。
「お、お前切るぞ?ほ、本気だぞ!」
男の剣先が震えている。
「あ?お前腰引けてんぞ?切らねえのか?ほら、届くだろうがもう。それともコケ威(おど)しか?クソが!」
「この!この、死ね~!」
男が剣を大きく振り上げる。そのタイミングでミサオが男の前にピタリと貼り付く。
「剣なんてよ、距離保たなきゃあ単なる鉄の棒なんだよ。引かなきゃ斬れねぇ。そんな道理もわかんねぇでダンビラいじんなガキ!」
(ボグウォ!)
「アガ・・・。」
アゴに入った右の拳。
そのまま白目を向いて倒れる男。
(いや、マジの刃物は焦るわ~。身体強化かけてても怖いわ!やっぱ。)
心臓がバクバクしているのを気取らせずに、3人を見下ろすミサオ。
「次はマジで殺す。そのツラで悪さ見かけたら最後だ。」
言い残して立ち去ろうとするミサオの後ろから笛の音がする。
「そこの男!止まれ!武器などあれば、その場に置け!」
数人の鎧をまとった男達に囲まれるミサオ。
(あっちゃ~。この国の官憲かよ?いきなりバッサリとかねえよな?)
何かあったら魔法があると、素直な態度に出るミサオ。
「別に武器など持ってない。両手上げとくから調べろ。経緯はこいつらだけじゃ無くて、周りの見物人にも聞いてくれ。そうすりゃ分かるだろ。ほら、みっともないから、どこでも連れてけよ。」
握った両拳を揃えて前に出すミサオ。
「貴様、ふてぶてしいと言うか肝っ玉据わってると言うか・・・まぁいい。事情は聞かねばならん。我らに同行願おうか。別に縄はかけぬ。逃げるつもりもなかろ?」
「逃げたらこっちが悪人扱いにならぁね。胸張って付き合いますよ。」
「それじゃ、こっちだ。付いて来てくれ。」
声を掛けてきた慣れた様子の兵士の先導で、ミサオは異世界で初事情聴取となるようだった。
ーーーーーーーーーーーー
あとがき
7話目までお付き合いいただきありがとうございます!
今回は、村での指導から町暮らしへの移行、そして早速のトラブル発生という回でした。
ミサオの本領発揮(?)とも言える強面ムーブと、異世界のチンピラとのやり取りは現代ヤクザの空気感が残っていて、異世界ならではの剣も混じり、なかなかの緊張感でした。
無事に解放されるのか、それともさらに面倒な事態になるのか、次回もぜひお楽しみに!
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顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
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