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第30話 旅立ち──商人の顔と、魔法の素質
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「お?みんな準備出来たか?一応刃物は各自1本持って・・・るよな。まあ、気休め程度。魔法あるし。あ、クリスはおいおいな。」
「おいおいとは?」
ミサオの言葉をいぶかしむクリス。
昨日のイチローの話の後。今回のお役目の指示について3人に相談しようとした所。
「ねぇねぇ、ヒラサキってどんな所よ?クミコは知ってる?」
「聞いた話だと夏の海は水浴みなどでにぎわう所みたいね。私達も領の外出たのって、この前の裏護衛の件初めてでしょ?」
「話だけか。・・・私も詳しくは知らないな。海の近くなら海産物が有名なのかもな。持ち物は着替えぐらいだろう。後は何かしらの護身の道具。荷馬車くらいは頼まんとダメかもな。なってったって表の顔は商人。2人は他領の薬草や狩りの獲物の見聞を広める為の同行辺りが怪しまれないだろうな。では各自部屋で準備をしよう。」
「りょうか~い!クリスもクミコも後でな?」
「うん!ヤヨイもクリスも終わったらダイニングで見せ合いっこね!」
「見せ合わなくても良いのだが・・・承知した。」
勝手に話がまとまっていた。
「あの・・・お嬢様方?俺まだ行く人間の相談して無いよね?何で全員参加なの?せめて話し合いとかしない?ねぇねぇ。お~い。・・・俺、ボッチじゃん。別に主人公キャラ狙ってないけどボッチ状態じゃん。・・・いいよ別に。荷馬車の段取りつけてくるから。・・・商会に転移。」
(シュン。)
と、さみしい一幕が有りつつの翌日となっている。
「え?あぁ言って無かったっけ?お前さんは体術も剣もいける口だろうけんどもさ。俺や2人と動くなら魔法。こいつを覚えてもらわんとな?」
「はあ?魔法を覚える?何奇天烈な事を言っておるのだミサオ?大体魔法なんて簡単に覚え・・・。」
「覚えられるよ?」
ミサオがクリスの言葉に被せて言い放つ。
あっさり。
この男。
やはり隠すつもりがない様子である。
身内認定したら気遣い以外の、腹の中を見せる事は早い。
「そ、それを私に教えても良かったのか?秘密にしておくのが普通では無いのか?」
驚愕するクリス。密命を背負ったクリスにとっては願ったり叶ったりではあるが、ミサオのあけすけな態度が逆に心配となる。
「何で?お前ルームメイトで同僚なんだろ?ならヤヨイやクミコとおんなじ身内やん。俺、ケガとか見たくないから。」
「・・・ありがたい。そこは素直に感謝する。覚えられるなら指導も願おう。しかしだな?こう、もっと警戒心を持ってだな?」
「俺、敵認定したら躊躇しないから。正義の味方なんてカッコいい事思ってないし。力使うのもためらわないよ?この身内守る為なら。」
淡々と。
だが意思を持って答えるミサオ。
クリスは冷静な言葉の裏の覚悟に震える。
「もしも。・・・もしもクリスがめんどくせぇ事頼まれてても俺は関係ない。しがらみの方でこっちに余計な事してくる様ならその元を潰す。ま、仮の話だがな?そんなバカは居ないと思うが。」
クリスは心に一瞬刃を喉元に突き立てられた気持ちになる。
(知っていたのか!・・・他の世界から来て、その世界でそれなりに生きてきたのなら想像出来る事なのか・・・。その上でも尚私に魔法を伝授すると・・・。覚悟。騎士道とは違う形だが修羅場をこの男もくぐり抜けて来ているのだな・・・。)
クリスも何かを納得した様子。
「・・・ミサオ。手間をかける様だが頼む。」
「なぁに、クリスはこの2人よりは覚え早いと思うぞ?身体能力高いから。さ、外の荷馬車に乗った乗った!」
ミサオは3人を急かす。
「あんたそんな事言って御者台で馬扱えるの?」
ヤヨイの確認。
「あ!・・・転移でおっちゃんとこから連れて来てんだった。俺車の免許あるけど、馬車扱う講習なんて受けた事ないわ。・・・誰か頼める?」
無言で手が上がるミサオ以外の3人。
「・・・必須なんじゃん。・・・交代で頼めるかい?そん時俺にも教えてよ・・・。ヒモ扱い以来だわ。この謎の敗北感。グスン。」
結局チュウオーからの出発時はヤヨイ、次にクミコ、そしてクリスが疲労の度合いで交代でやる事になる。ミサオは覚える為、ヤヨイの隣。
荷を置く所にクミコとクリスも乗り込む。
「んじゃ、エチゴ商会仕入れ部隊!ヒラサキ領までしゅっぱ~つ!」
ミサオが勢いのいい声を上げる。
「お前、それ馬扱える様になってから言った方がサマになるぞ?」
ヤヨイの痛烈な突っ込み。後ろではクミコと真面目そうなクリスも笑っている。
「しょうがねぇだろ!向こうでも馬なんて子供の頃のポニーと韓国済州島(チェジュド)旅行の時くらいしか乗った事ないんだから!大体車の運転の方が色々面倒なんだぞ?免許取るのに金かかるし、学科と実地の教習受けなきゃならねぇし!」
ミサオが言い訳じみた事を言う。
「ほら走らすよ?舌噛むから気をつけな?ほい!」
ヤヨイが手綱を上下に一振りすると、2頭の馬がゆっくり歩き出し、馬車も連れて動き出す。
「言わせてくれよ?俺またミソッカス扱いじゃん?なぁヤヨイ?」
「う・る・さ・い。ほら、あたしの動きちゃんと見てなよ?口で教えるの苦手なんだから。」
「この鬼教官!人でなし!」
「殺すぞコラ!お前は私達がどんな想いでお役目一緒に・・・。」
「ごめん!感謝してます!途中の茶屋とかあったらおごります!おごらせてください!見捨てないでか弱い俺を!」
まだ新たなお役目が始まったばかりなのに、この4人は朝からうるさい珍道中となっていた。
ーーーーーーーーーーーー
あとがき
ご覧いただきありがとうございます!
今回は、ミサオたちが“ヒラサキ領への潜入任務”へと出発するまでの一幕を描きました。表向きは仕入れという名目の旅立ちですが、その裏には、ご領主様から託された“密命”──ある領主の動きを探るという重大な目的が潜んでいます。
そして今回のもう一つの見どころは、ミサオとクリスの関係性の変化。
とある会話の中で、ミサオが彼女に“あるもの”を伝えることを決意します。それは、信頼でもあり、覚悟でもあり、過去に裏打ちされた彼の流儀でもある──この場面、セリフの端々に宿る“想い”をぜひ読み取っていただけたら嬉しいです。
次回、ついにヒラサキ領に到着。
緊張感と、日常の軽妙さが交錯する“潜入任務編”、本格始動です。引き続きよろしくお願いいたします!
「おいおいとは?」
ミサオの言葉をいぶかしむクリス。
昨日のイチローの話の後。今回のお役目の指示について3人に相談しようとした所。
「ねぇねぇ、ヒラサキってどんな所よ?クミコは知ってる?」
「聞いた話だと夏の海は水浴みなどでにぎわう所みたいね。私達も領の外出たのって、この前の裏護衛の件初めてでしょ?」
「話だけか。・・・私も詳しくは知らないな。海の近くなら海産物が有名なのかもな。持ち物は着替えぐらいだろう。後は何かしらの護身の道具。荷馬車くらいは頼まんとダメかもな。なってったって表の顔は商人。2人は他領の薬草や狩りの獲物の見聞を広める為の同行辺りが怪しまれないだろうな。では各自部屋で準備をしよう。」
「りょうか~い!クリスもクミコも後でな?」
「うん!ヤヨイもクリスも終わったらダイニングで見せ合いっこね!」
「見せ合わなくても良いのだが・・・承知した。」
勝手に話がまとまっていた。
「あの・・・お嬢様方?俺まだ行く人間の相談して無いよね?何で全員参加なの?せめて話し合いとかしない?ねぇねぇ。お~い。・・・俺、ボッチじゃん。別に主人公キャラ狙ってないけどボッチ状態じゃん。・・・いいよ別に。荷馬車の段取りつけてくるから。・・・商会に転移。」
(シュン。)
と、さみしい一幕が有りつつの翌日となっている。
「え?あぁ言って無かったっけ?お前さんは体術も剣もいける口だろうけんどもさ。俺や2人と動くなら魔法。こいつを覚えてもらわんとな?」
「はあ?魔法を覚える?何奇天烈な事を言っておるのだミサオ?大体魔法なんて簡単に覚え・・・。」
「覚えられるよ?」
ミサオがクリスの言葉に被せて言い放つ。
あっさり。
この男。
やはり隠すつもりがない様子である。
身内認定したら気遣い以外の、腹の中を見せる事は早い。
「そ、それを私に教えても良かったのか?秘密にしておくのが普通では無いのか?」
驚愕するクリス。密命を背負ったクリスにとっては願ったり叶ったりではあるが、ミサオのあけすけな態度が逆に心配となる。
「何で?お前ルームメイトで同僚なんだろ?ならヤヨイやクミコとおんなじ身内やん。俺、ケガとか見たくないから。」
「・・・ありがたい。そこは素直に感謝する。覚えられるなら指導も願おう。しかしだな?こう、もっと警戒心を持ってだな?」
「俺、敵認定したら躊躇しないから。正義の味方なんてカッコいい事思ってないし。力使うのもためらわないよ?この身内守る為なら。」
淡々と。
だが意思を持って答えるミサオ。
クリスは冷静な言葉の裏の覚悟に震える。
「もしも。・・・もしもクリスがめんどくせぇ事頼まれてても俺は関係ない。しがらみの方でこっちに余計な事してくる様ならその元を潰す。ま、仮の話だがな?そんなバカは居ないと思うが。」
クリスは心に一瞬刃を喉元に突き立てられた気持ちになる。
(知っていたのか!・・・他の世界から来て、その世界でそれなりに生きてきたのなら想像出来る事なのか・・・。その上でも尚私に魔法を伝授すると・・・。覚悟。騎士道とは違う形だが修羅場をこの男もくぐり抜けて来ているのだな・・・。)
クリスも何かを納得した様子。
「・・・ミサオ。手間をかける様だが頼む。」
「なぁに、クリスはこの2人よりは覚え早いと思うぞ?身体能力高いから。さ、外の荷馬車に乗った乗った!」
ミサオは3人を急かす。
「あんたそんな事言って御者台で馬扱えるの?」
ヤヨイの確認。
「あ!・・・転移でおっちゃんとこから連れて来てんだった。俺車の免許あるけど、馬車扱う講習なんて受けた事ないわ。・・・誰か頼める?」
無言で手が上がるミサオ以外の3人。
「・・・必須なんじゃん。・・・交代で頼めるかい?そん時俺にも教えてよ・・・。ヒモ扱い以来だわ。この謎の敗北感。グスン。」
結局チュウオーからの出発時はヤヨイ、次にクミコ、そしてクリスが疲労の度合いで交代でやる事になる。ミサオは覚える為、ヤヨイの隣。
荷を置く所にクミコとクリスも乗り込む。
「んじゃ、エチゴ商会仕入れ部隊!ヒラサキ領までしゅっぱ~つ!」
ミサオが勢いのいい声を上げる。
「お前、それ馬扱える様になってから言った方がサマになるぞ?」
ヤヨイの痛烈な突っ込み。後ろではクミコと真面目そうなクリスも笑っている。
「しょうがねぇだろ!向こうでも馬なんて子供の頃のポニーと韓国済州島(チェジュド)旅行の時くらいしか乗った事ないんだから!大体車の運転の方が色々面倒なんだぞ?免許取るのに金かかるし、学科と実地の教習受けなきゃならねぇし!」
ミサオが言い訳じみた事を言う。
「ほら走らすよ?舌噛むから気をつけな?ほい!」
ヤヨイが手綱を上下に一振りすると、2頭の馬がゆっくり歩き出し、馬車も連れて動き出す。
「言わせてくれよ?俺またミソッカス扱いじゃん?なぁヤヨイ?」
「う・る・さ・い。ほら、あたしの動きちゃんと見てなよ?口で教えるの苦手なんだから。」
「この鬼教官!人でなし!」
「殺すぞコラ!お前は私達がどんな想いでお役目一緒に・・・。」
「ごめん!感謝してます!途中の茶屋とかあったらおごります!おごらせてください!見捨てないでか弱い俺を!」
まだ新たなお役目が始まったばかりなのに、この4人は朝からうるさい珍道中となっていた。
ーーーーーーーーーーーー
あとがき
ご覧いただきありがとうございます!
今回は、ミサオたちが“ヒラサキ領への潜入任務”へと出発するまでの一幕を描きました。表向きは仕入れという名目の旅立ちですが、その裏には、ご領主様から託された“密命”──ある領主の動きを探るという重大な目的が潜んでいます。
そして今回のもう一つの見どころは、ミサオとクリスの関係性の変化。
とある会話の中で、ミサオが彼女に“あるもの”を伝えることを決意します。それは、信頼でもあり、覚悟でもあり、過去に裏打ちされた彼の流儀でもある──この場面、セリフの端々に宿る“想い”をぜひ読み取っていただけたら嬉しいです。
次回、ついにヒラサキ領に到着。
緊張感と、日常の軽妙さが交錯する“潜入任務編”、本格始動です。引き続きよろしくお願いいたします!
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