67 / 340
第12章
異世界の笑顔は激甘です(4)
しおりを挟む
ドンドンドン!
「マオ! マオ! 開けてくれ! 部屋の中に入れてくれ!」
ドンドンドン!
夜になった……。
暇というか、抜け出す隙を見つけては、王太子はオレの部屋にやってきて、部屋に入れてくれと扉を叩く。
もう、ここまでくると、王太子のソレは執念を通り越して、怨念めいてきて怖い。
今読んでいる本が、地方のそういう系の話を集めたものだった。
しかも、どんぴしゃりな話を読み終えた後なので、よけいに不気味さが増す。
夜、ひとりでトイレに行けるかどうか、ちょっと不安だよ……。
にしても、近衛騎士たちに「オマエラちゃんと仕事しろ」と言いたいね。
そもそも警護がザルすぎるんだよ。
ザルというか、底の抜けたタライみたいなものだ。
王太子をもっとしっかりと見張れ。
他所様の問題に口をはさむのはどうかと思うけど、でも、でも、そんなに簡単に王太子を見失ってどうするんだと、ビシッと叱りつけてやりたいよ。
オレも元の世界では、みんなにはナイショでフラフラ……と、城下に出かけることがあったけど、近衛騎士たちは、常に一定の距離を保ちながら、オレの後をついてきていたよ。
王族など、プライバシーとか個人情報とか自由とかはあったもんじゃない。四六時中監視されてなんぼでしょうが。
失敗から学ばないのか?
学習能力がないのだろうか?
「政務が終了して、直ちにこちらに来られたようですね……食事も採らずに……」
リニー少年はオレたちの給仕をしながら、何度目かのため息を吐き出した。
王太子から食事はしなくても生きていけると聞いたので、そんな言葉でオレをどうこうできるものではない。
ドリアのあの元気さなら、一日、二日、食べなくても大丈夫だろう。
「開けてくれ! 開けてくれ!」
ドリア王太子の声がよく響いている。
オレの結界魔法は完璧だよ。
オレに敵とみなされた者は、例え、ドラゴンだって、この結界を破ることはできないだろう。結界強度は完璧だ。
昼間、オレに抗議を入れようとやってきた宰相に対しても、結界が反応し、はじいてしまったのには焦ったけど……。
リニー少年は微妙な顔をしながらも「英断かと思われます」と呟いていた。
「勇者様……」
「なんだ?」
たっぷりの時間をかけてメインの肉料理を食べ終わったところで、フレドリックくんが口を開いた。
あの日以降、三食、お茶の時間は、なぜかフレドリックくんと共にテーブルについていた。
体が資本なフレドリックくんにしては珍しく、食が進まないようである。
あれだけドンドンと扉を叩かれていては、落ち着いて食事もできないよね。
それはオレだって同じだから。
ふたり……いや、三人は同時にため息をこぼす。
「勇者様。もう、アレは異常です。病気ですよ」
「うん。オレもそう思う」
やっかいなヤツに好かれてしまった……と思わなくもないね。
「どうでしょう?」
「なにが?」
扉とオレを交互に見ながら、フレドリックくんはいきなりにっこりと笑った。
「マオ! マオ! 開けてくれ! 部屋の中に入れてくれ!」
ドンドンドン!
夜になった……。
暇というか、抜け出す隙を見つけては、王太子はオレの部屋にやってきて、部屋に入れてくれと扉を叩く。
もう、ここまでくると、王太子のソレは執念を通り越して、怨念めいてきて怖い。
今読んでいる本が、地方のそういう系の話を集めたものだった。
しかも、どんぴしゃりな話を読み終えた後なので、よけいに不気味さが増す。
夜、ひとりでトイレに行けるかどうか、ちょっと不安だよ……。
にしても、近衛騎士たちに「オマエラちゃんと仕事しろ」と言いたいね。
そもそも警護がザルすぎるんだよ。
ザルというか、底の抜けたタライみたいなものだ。
王太子をもっとしっかりと見張れ。
他所様の問題に口をはさむのはどうかと思うけど、でも、でも、そんなに簡単に王太子を見失ってどうするんだと、ビシッと叱りつけてやりたいよ。
オレも元の世界では、みんなにはナイショでフラフラ……と、城下に出かけることがあったけど、近衛騎士たちは、常に一定の距離を保ちながら、オレの後をついてきていたよ。
王族など、プライバシーとか個人情報とか自由とかはあったもんじゃない。四六時中監視されてなんぼでしょうが。
失敗から学ばないのか?
学習能力がないのだろうか?
「政務が終了して、直ちにこちらに来られたようですね……食事も採らずに……」
リニー少年はオレたちの給仕をしながら、何度目かのため息を吐き出した。
王太子から食事はしなくても生きていけると聞いたので、そんな言葉でオレをどうこうできるものではない。
ドリアのあの元気さなら、一日、二日、食べなくても大丈夫だろう。
「開けてくれ! 開けてくれ!」
ドリア王太子の声がよく響いている。
オレの結界魔法は完璧だよ。
オレに敵とみなされた者は、例え、ドラゴンだって、この結界を破ることはできないだろう。結界強度は完璧だ。
昼間、オレに抗議を入れようとやってきた宰相に対しても、結界が反応し、はじいてしまったのには焦ったけど……。
リニー少年は微妙な顔をしながらも「英断かと思われます」と呟いていた。
「勇者様……」
「なんだ?」
たっぷりの時間をかけてメインの肉料理を食べ終わったところで、フレドリックくんが口を開いた。
あの日以降、三食、お茶の時間は、なぜかフレドリックくんと共にテーブルについていた。
体が資本なフレドリックくんにしては珍しく、食が進まないようである。
あれだけドンドンと扉を叩かれていては、落ち着いて食事もできないよね。
それはオレだって同じだから。
ふたり……いや、三人は同時にため息をこぼす。
「勇者様。もう、アレは異常です。病気ですよ」
「うん。オレもそう思う」
やっかいなヤツに好かれてしまった……と思わなくもないね。
「どうでしょう?」
「なにが?」
扉とオレを交互に見ながら、フレドリックくんはいきなりにっこりと笑った。
12
あなたにおすすめの小説
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる