94 / 340
第17章
異世界の禁書庫はピンクです(1)
しおりを挟む
オレが異世界に召喚されて十五日目。
王城の禁書庫に通い始めて五日が過ぎようとしていた。
今日のオレは、禁書庫で最後の禁書と格闘していた。
お気に入りの閲覧席に座り、一冊の分厚い魔術書を読んでいた。
それもようやく最終ページになった。
くらくらする頭を抑えながら、オレは読み終わった禁書のページをゆっくりと閉じた。
「なんなんだ……ココは……」
オレはぐったりとしながら、閲覧用の豪奢な机につっぷした。
額が机に当たり、ゴツンという鈍い音が、静寂に包まれた室内に響く。
禁書には読者の魔力を喰うモノもあり、この本には、かなりの量の魔力を盗られてしまった。
精神疲労がハンパない。
貧血に似た状態になってしまい、頭がくらくらするよ……。
期待していたコトがこれっぽっちも書かれていなかったので、疲労度がさらに増す。増し増しだよ!
椅子の座り心地は最高だったが、気分は最低だよ。
「なんだコレは……」
机に額を押し付けながら、オレはブツブツと呟く。
禁書ばかりが収蔵されている部屋は、少しかび臭かった。
書庫内では私語は禁止だが、利用者が多い書庫は厳粛ななかにも、押し殺したざわめきがあった。
だが、禁書庫内にはオレと護衛のフレドリックくんしかおらず、しんと静まり返っている。
フレドリックくんはほぼ壁状態なので、オレが独りでいるのとかわりない。
静かな気配のなか、オレの大好きなインクの匂い、紙の匂いが漂っている。
オレの大好きな空間だ。
なのに、オレはかつてないほどの居心地の悪さを感じていた……。
「勇者様、お顔の色がすぐれないようです。……少し早いですが、今日はこれで退出されますか?」
オレの落胆ぶりを心配したのか、フレドリックくんが休憩を勧めてきた。
「いや……いい。もう少し、このままで」
と、答えながら、オレはテーブルの上にある分厚い魔術書へと手を伸ばす。
フレドリックくんはなにか言いたそうな顔をしていたが、ぐっと言葉を飲み込むと、再び壁に徹する。
オレは呪文を唱え、魔術書の封印を復活させた。
さらに、オレの厳重な封印もそこに加え、解呪に失敗したら、三日三晩、激痛に苦しむトラップも加える。
心のなかで、もう二度と、この本を読もうと思うヒトがいないように……と願わずにはいられない。
解呪するときとは違い、封印の作業はすぐに終了した。
ただし、さらに大量の魔力が無くなっちゃったよ。
(どんだけ強欲な本なんだよ……)
書かれているものがヒトの欲望を満たすものだからかな。
色々な意味で、これは危険な本だった。
魔力が少ない者がうっかり読もうと試みたら、間違いなく、魔力を根こそぎ吸い取られて死んでしまうだろう。
なかなかデンジャラスな本だよ。
禁書庫の奥の奥の、さらに奥の、幻影魔法で隠され、厳重に鍵がかかった棚の中に保管されていただけのことはあるね。
王城の禁書庫に通い始めて五日が過ぎようとしていた。
今日のオレは、禁書庫で最後の禁書と格闘していた。
お気に入りの閲覧席に座り、一冊の分厚い魔術書を読んでいた。
それもようやく最終ページになった。
くらくらする頭を抑えながら、オレは読み終わった禁書のページをゆっくりと閉じた。
「なんなんだ……ココは……」
オレはぐったりとしながら、閲覧用の豪奢な机につっぷした。
額が机に当たり、ゴツンという鈍い音が、静寂に包まれた室内に響く。
禁書には読者の魔力を喰うモノもあり、この本には、かなりの量の魔力を盗られてしまった。
精神疲労がハンパない。
貧血に似た状態になってしまい、頭がくらくらするよ……。
期待していたコトがこれっぽっちも書かれていなかったので、疲労度がさらに増す。増し増しだよ!
椅子の座り心地は最高だったが、気分は最低だよ。
「なんだコレは……」
机に額を押し付けながら、オレはブツブツと呟く。
禁書ばかりが収蔵されている部屋は、少しかび臭かった。
書庫内では私語は禁止だが、利用者が多い書庫は厳粛ななかにも、押し殺したざわめきがあった。
だが、禁書庫内にはオレと護衛のフレドリックくんしかおらず、しんと静まり返っている。
フレドリックくんはほぼ壁状態なので、オレが独りでいるのとかわりない。
静かな気配のなか、オレの大好きなインクの匂い、紙の匂いが漂っている。
オレの大好きな空間だ。
なのに、オレはかつてないほどの居心地の悪さを感じていた……。
「勇者様、お顔の色がすぐれないようです。……少し早いですが、今日はこれで退出されますか?」
オレの落胆ぶりを心配したのか、フレドリックくんが休憩を勧めてきた。
「いや……いい。もう少し、このままで」
と、答えながら、オレはテーブルの上にある分厚い魔術書へと手を伸ばす。
フレドリックくんはなにか言いたそうな顔をしていたが、ぐっと言葉を飲み込むと、再び壁に徹する。
オレは呪文を唱え、魔術書の封印を復活させた。
さらに、オレの厳重な封印もそこに加え、解呪に失敗したら、三日三晩、激痛に苦しむトラップも加える。
心のなかで、もう二度と、この本を読もうと思うヒトがいないように……と願わずにはいられない。
解呪するときとは違い、封印の作業はすぐに終了した。
ただし、さらに大量の魔力が無くなっちゃったよ。
(どんだけ強欲な本なんだよ……)
書かれているものがヒトの欲望を満たすものだからかな。
色々な意味で、これは危険な本だった。
魔力が少ない者がうっかり読もうと試みたら、間違いなく、魔力を根こそぎ吸い取られて死んでしまうだろう。
なかなかデンジャラスな本だよ。
禁書庫の奥の奥の、さらに奥の、幻影魔法で隠され、厳重に鍵がかかった棚の中に保管されていただけのことはあるね。
12
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる