傲慢な超幸運王子はある意味最強

東間

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消えない傷

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「イヴァン。今【聖女と王子の悲しき物語】が開演されてますよ」

「国王達のか?」

演劇広告のイラストには国王に似た青年が美しい黒髪の女性を後ろから抱き締めている。
スノーヴァはそれを不思議そうに眺めている。

「そうです。イヴァンの両親の話です」

クリパルクはスノーヴァに聞かずにチケットを二枚購入した。

「…こんな所に演劇場などあったか?」

スノーヴァは首を傾げる。
だが妖精達が何の反応もしないので安心して演劇場へ入っていった。








「あぁロズバルド様…私達は結ばれてはいけない運命なのです!さぁ早くお帰りになって!神官達が来てしまいます!」

「名も無き聖女よ!それでも私はソナタが欲しい!例え神に憎まれ殺されようとも、最後まで共に生き共に笑いたいのだ!」

演劇場はドーム型になっており声が良く響いている。
舞台には高い塔と草が生い茂る地面が用意され、高い塔にはまるで喪服用のドレスの様な黒いドレスを身に纏った女性が涙を流し青年に帰る様に言っている。
地面には絵本に出てくる王子の様な貴族服を着た青年がまたしても涙を流しながらそれを否定している。

「ロズバルド様ッ…
好きです。愛しています。だからッ…だから貴方を不幸にする事なんてできないッ!!
ミフィールと添い遂げて下さい…お願いです…」

「なぜそこまで…
私は…私はソナタが良いのだ…不幸などにならない…頼む聖女よ…
玉座などいらない…王太子の座などいらない!
私はあの五年間の…ソナタと笑い合った日々が欲しい!

不可能ならば…私を殺してくれ聖女よ…」

「ッ!…ロズバルド様…
…例え困難な…それこそ私との出会いを恨む様な耐え難い試練の道でも、共に歩んでくれますか?」

「誓おう。どんな困難があろうと私はソナタと共に歩む!」

青年は飛空魔法を使い塔の上までいき女性を拐っていく。
後から来た神官が大慌てで後を追っていく。

「国王はあんな人柄ではないぞ?」

「いイえ。あの子ハとても愚かナ人間でしタ」

スノーヴァは首を傾げ、隣にいるクリパルクを見る。

「…誰だ」

クリパルクであったはずだった人間は全くの別人になっていた。
特徴的なのは顔だろう。この人間の様な者は顔がないのだ。
真っ黒な靄が顔を覆っている。

「こコまで苦労シマした…。
初メまして、リバーナ王国ノ第一王子サマ。
ワタクシはメーダヤ帝国所属光ノ精霊。
光ノ精霊族長候補No.04デス。
数多クの精霊を統べル王子サマにお願イをしに来まシた。
無礼をお許シ下サい」

スノーヴァは演劇の方へ視線をズラす。

相手に敵意がないと分かったからだ。

「クリパルクや他の精霊をどうした?」

「王子サマだけコノ異空間へ誘導サセテ頂きました。
ワタクシはモウ魔の物にナリます。ソノ前に王子サマにオ願イガあります。」

他精霊の族長の目を欺ける。
スノーヴァはその事実に顔を険しくした。

「僕の時間は高いんだ。用件があるなら早く言え」

「ワタクシの主…帝国ノ第三皇子ヲお助ケ下サイ。」

スノーヴァは懐に入れていた短剣を精霊に突き刺した。

「ッ!?」

「お前ら帝国精霊が僕に何をしたのか知らないのか?」

精霊に物理は効かない。だがNo.04はそんな精霊を刺すほど怒っているスノーヴァに驚いた。

「昔ノ戦争ハお互イ様でショウ!」

「国々の争い等どうでも良い。僕らは帝国人が、帝国精霊が呑気に生存している事が赦せないだけだ。
それを赦し、あまつさえ手を貸す?馬鹿にするのも大概にしろっ!!!」

「ワタクシ達は王子サマニ何モシテイマセン!!誤解してオラレマス!
オ願イシマス!第三皇子ヲオ助ケ下サイ!」

精霊の体が黒い靄に包まれていく。
もうじきこの精霊は意思もない魔物になるだろう。

『恨みを忘れろ』

「できる訳ないだろ…君は僕の友達だったんだ」

スノーヴァは唇を噛み締めた。

「第三皇子…タスケ…皇子…タス」

精霊は苦しそうにもがく。

「アナタガ…アルジデ…タ…ミ…ン…オ…」

精霊は黒い球体になった。
ここから魔物が作成される。

「自業自得だ。」

精霊が作った幻影が消えていく。
その光景は金色に光る砂時計の様でとても美しい。

「《愛し子居たぁぁぁ!!!》」

「《どこに行ってたのさぁぁぁぁぁ!!》」

「《探したよぉぉぉぉぉぉぉ!!》」

「《愛し子ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!》」

幻影が消えたスノーヴァの視界には精霊達がスノーヴァを探す為暴走し、ありとあらゆる物が逆さになっている大変面倒な現実が待っていた。
    
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