例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間

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【操り師は】

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「反抗期は終わったのか?」

白騎士服を着た二十代の見目を持つ男…父であるロズワール皇帝が私の私室に居た。
茶髪に緑色の瞳を持ち、整った顔を持つ優男な見目の父上だが大臣に『腹の中黒い。脳には蛇を飼ってる』と言われる性格をしている。

ロズワール皇帝は花瓶に刺してある白いバラを握り潰して此方を愉快そうに見る。

「シュローズくんに会いに行ったのかな?」

シュローズとは私の婚約者候補であるシルバー侯爵の第一子だ。
興味が沸かずまだ会った事もない。

「冗談だよ。ルイくんに会ってたんでしょ?ロズワールは『まだコントロールできないから会わせない』って言ってたけど?」

マロス帝国の皇帝は二人いる。
一人は目の前にいる、父上であるロズワール皇帝。
もう一人は同じ見目である事から拾われ育てられた影武者であるロズワール。

公の場では基本ロズワールが指揮を取る。
普通に考えれば貧民街出身であるロズワールに[皇帝]として公の場で指揮を取らせるのは異常な事だ。

だが理由を私は知らされていないし誰もその事を反対しない。

「ロズワールの言う事は聞いといた方が良いよ?アレの言う事を破ると罰が当たるらしいから」

「罰?」

「私には効かないけど他の人間には効くらしいよ?
酷い時は疑心暗鬼になって自殺した人間も居たしね」

「ロズワールが?」

ロズワールはただの凡人だ。
だが皇帝を演じる歴が長いので有能に見せる事ができる。

「君は妙にロズワールになついてたよね。だから今まで言わなかったんだけど…まぁアレの言い付けを破る程度には自我が成長してる事だし」

確かに私はロズワールを好んでいた。

ロズワールは優しかったのだ。

講義を潰して遊んでくれた。
秘密の図書室を教えてくれた。
私の頭を撫でてくれた。

「君は第一皇子だ。誰が味方か敵か見極めろ」

そう言うと皇帝は私の頭を撫で扉に手を掛けた。

「何かあったらカロアス公爵に頼りなさい。」

私はハッとして皇帝のいる方へ顔を向けた。
皇帝はただ悲しそうに微笑んでいた。

「ロズワール皇帝!ここに居ましたか!」

「探したわよロズワール!」

二人の白騎士服を着た男達が皇帝を連れていく。

「必要書類片付けてから消えて下さい」

「また城下町に行ってたら川に沈める所だったわ」

皇帝はそのやりとりを心底楽しそうな顔で聞いている。

私や母上にも見せた事がない顔だ。

「羨ましい」

私には誰もいない。
いや、いなくなった。

ルルもクオトニットもロズワールも、味方ではなかった。
だがそれを知った事に後悔はしていない。信じて頼り、裏切られるのは最も恐ろしい事だ。

「君は私を信じてくれるかな…」

羨ましい。

皇帝達のやり取りはお互いを信じ合っているからこそできる物だ。
私もルイとそう言う関係を作りたい。

その為には全てを片付けなければいけない。
ルイを守る為にも。

『何かあったらカロアス公爵を頼りなさい。』

皇帝は先程そう言った。

『私をコントロールしていた人間がいる』

私は四人だけだと思っていた。

私をコントロールしていたのはロズワールだ。

そしてカロアス公爵は未来でそれを知った可能性が高い。

となるとカロアス公爵を信じているルルとクオトニットは使える。

二人が全て話してくれれば終わるのだが、精霊の様に何かあるのだろう。

…他に未来を知っている人間はいるのか?

ルイは…

『ロイス…みな…や…』

神殿で聞いたルイの喘ぎ声を不意に思い出す。

………。

ルイはないな。
…私が殺したと言う未来を覚えていて欲しくない。
怖がられて…嫌われてしまう。


私は他に未来を知っている者がいる可能性を視野に情報収集の為神殿へ向かおうと私室から出ようとした。

「ハロー王子!皆の英雄ルルくんでーす!」

「………」

私は夕陽が落ちている事に気がつき明日にしよう、と扉を閉じた。

「ふふふ!私は将軍の地位を承った英雄。
つまり強いんですよー!こんなちんけな扉破壊できまーす!」

「……」

「そうです。初めから素直にしていれば良いんです!」

私は深い溜め息をついた。
目の前には酒瓶を片手に持ったルルが居たからだ。

「何の用だ」

「聞きましたよー!私の大切な子息の子息?ふふ!に会ったんですってー!」

今日の衛兵は減給だな。皇帝はまだしも酔っぱらいのルルを入れるなんて…。

「そうだが?」

「あのですねー!私の子息は大切なんですよー!ふふ!」

私の子息?
先程もそう言った。子息の子息、と。
私が会ったのはロキ・スクエアとクオトニット、そしてレオニット男爵にルイだけだ。

…ロキ・スクエアの瞳の色は赤だ。

ルルと同じ色だ。

髪色はスクエアは海底の様な青色だ。そしてルルは深い緑色だ。

「ロキ・スクエアの事か?」

「スクエア?あーあの生意気な小僧!子息にラブレター渡したんですよ?!あり得なくないですかー!」

相当酔っているらしいがルルはそう言い再び酒を煽った。

ロキ・スクエアの事ではない?
それにラブレター?

まさか昔の事か?

「子息とは誰だ?」

「えーー!?子息を知らないんですかぁ!??子息は子息ですよ!!ふふ!」

限界が近づいているのかルルは扉に凭れかかった。
まだ倒れて貰っては困る。
子息の話を聞きたい。

「子息とは?」

「だから…子息は…カ」

ルルは気絶する様に寝た。
子息の謎を残して。

「起きろ」

両頬を容赦なく叩いたが無駄だった。

「仕方ない」

私は衛兵を呼びルルを冷たい地下廊へ入れた。

これで酔いも覚めるだろう。
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