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【存在しなかった護衛】

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「私がどれだけ心配したと思っているのですか!!だいたい貴方は何故何時も目を離したらすぐどこかへ行ってしまうのですか!置いていかれた人間の事をーーー」

僕は今ベットの上で正座させられています。

僕が起きる前に薬を打たれたらしく、眠気が半端ない僕はロキ様のパジャマを借りて着替えた。
ロキ様達は僕にパジャマを渡した後執事達に連行されていた。
まだ説明して貰いたそうに此方を見ていたけど僕にも訳が分からないので放置しました。
そしてそこにセバスが息を切らし顔を真っ青にしながら駆けつけてきた。

『あれ?セバスどうしたの?』

と言った過去の僕の口を押さえたい。

セバスの血管がブチッ、とキレる音がした。

ぶちギレたセバスは僕に正座する様に命令し、そこから怒濤の二時間説教が開始された。
足が痺れた。これ辛い。

「本当、カロアス様が見つかって良かったですよ」

セバスの後ろから鎧を全身に纏った護衛の人が現れる。

「誰だ貴様?」

以前居た護衛とは違う。
以前居た護衛は決して喋らずただ居るだけの存在だった。

「護衛です。彼が坊っちゃまの居場所を見つけてくれたんですよ」

「昨日から護衛の任を授かっているトバルトです。気軽にバルトと呼んで下さい」

「トバルト?」

僕は首を傾げる。

(誰だこいつ?)

ゲームでも一回目でもトバルトなんて名前聞いた事がない。
MPCキャラ…モブか?
一回目の護衛は僕が魔力暴走で殺してから誰もつかなくなった。

攻略対象キャラであるロイス達といい…

また"ズレ"が起きているのか?

「どうしましたカロアス様?」

?その前に以前は何もしなくてもシナリオが強制発動していた。
なのに今回は何故発動しない?

まさか二回目だから裏ルートが解放されたのか?
そうなると僕らの死は役にたった…のか?

いや、もし裏ルートなら…その場合悪役は誰だ?

………



変だな?ゲームではルイ・カロアスはラストのシナリオへ運ぶ繋ぎ悪役キャラだ。
つまり必須悪役キャラ。

ならば悪役は悪役でもシナリオだけ変化したのか?
なぜ?
そしてその場合僕はどういう行動を取るべきだ?

「貴様。スラム街で一人誘拐してこい」

とりあえずルイ・カロアス(18)を演じよう。
間違ってたら何かしらの反応があるよね?

「坊っちゃま?」

「分かりました。特徴はありますか?」

「は?え?何承諾してるんですかトバルト?」

セバスは混乱し、トバルトは承諾した。

裏ルートで新しく出てきたであろうモブが平然と承諾。
そして旧ルートのモブであるセバスが混乱。

この性格でいけば良いのか?

「ど、どうしたんですか?」

セバスが困惑しながら僕に聞く。
理由…何かないかな?

「…ここ最近魔封じを乱用している人間がいると、ギ…クオトニット公爵子息が言っていたんだ」

ギルが言ってたのは嘘だけどね。

「そうなのですか?私はそんな話聞きませんが…」

まだ事件起きてないからね。

「クオトニット公爵子息の叔父は白騎士副団長だ。まだ出回っていない話なのだろう」

「そうなのですか?」

「そうだ」

クオトニット副団長ごめんなさい。名前借ります。
まぁ一回目で母さんと不倫してたのを黙ってたんだ。
その恩を今使わなくてどうする!

「では魔封じを扱えるほどの高位魔力保持者、そしてその中でも魔力の扱いに長けた者を誘拐してきます。」

まぁ犯人であるあいつはまだ子供だ。見つかるわけない。
セバスのあの本とお菓子の様にはいかないだろう。

「遅かったら貴様の歯を一本一本抜いていくからな」

「分かりました。なるべく早く終わらせます」

トバルトはそう言って手をフリながら出ていった。
元気な奴だなぁ。

「流石レイオスド王国出身ですね」

セバスが呆れた様にため息をつく。

「…あの王国出身か」

僕もそれを聞いてため息をついた。

レイオスド王国は人間種族主義を掲げるイカれた国だ。

この世界には獣人や龍人、エルフや精霊など人種族の他に多数の種族が存在する。   
マロス大帝国ではどんな種族でも貴族至上主義だ。
だがレイオスド王国は人間だけに権利を与え、その他は奴隷として扱う。
以前は違ったらしいが戦争時代にレミオ大帝国に属国にされてから差別意識化が始まったらしい。
今では立派な奴隷流通王国だ。

そして奴隷の扱いを身近で見て育った王国民は犯罪に躊躇がない。
今王国ではそれが問題視されているほどだ。

「レイオスドからここまで距離がある。どうして当家に?紹介か?」

「公爵からの紹介ですので詳細は私も知りません」

「…しばらく様子見だな」

僕の父であるレイオット・カロアス公爵は小悪党だ。
だが運が良いのか悪いのか全て『血も涙もない悪党』に繋がる行程になってしまう。

今回の人事も何かしらの悪事のきっかけや流れになるだろう。

ある意味天災なのだレイオット・カロアス公爵は。

(次に薬が抜けたらゲームについて詳しく考えよう)

僕は嫌な予感がしながらもセバスの説教を引き続き聞いた。
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