例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間

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留木原 夜という人間

【狂いーーは正常】

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「ぼ、ぼく…僕達は、これで失礼する!」

沢山シチューを飲み干した後僕はすぐにセバスによって抱き抱えられ、逃げるように馬車に乗った。

でなければシチューに殺されていた。

「もう二度と会えないと思いました」

「僕もだ」

「「流石マリネット公爵家の人間」」

僕とセバスは馬車の中で深いため息をついた。

こうして逃げられたのも、皇妃とロイスが皇帝に呼び出された事が大きかった。
あの場では僕(公爵子息)に逆らう人間はいない。
…というか、『生きてください!早く、帰りたいと言って下さい!!!』と従者達に心配された。

そこまで言うなら皇妃を止めろ。

「何だか酷く疲れた」

「帰宅しましたら、蜂蜜紅茶を淹れてあげます」

ぐったりと馬車内のクッションに寄りかかっていたらセバスが微笑ましそうに笑った。

「それは…良いな…」

僕は疲れたように答える。

シナリオに縛られない…それは何よりも望んだ事だ。
この世界はシナリオがなければ僕の欲望に当てはまる世界だ。
男同士で結婚が受け入れられているし、経済的余裕と権力がある。
誰かを守る力も持っているし、好きな人もできた。

…でも僕は怖い。
シナリオが絡んだ世界は、何よりも残酷だ。
男同士で結婚する法を穢らわしいと批判し、自身の為に金と権力と力を振るう。
誰かを傷つけ嘲笑い、好きな人を殺そうとする。

目の前で肉塊になった人間を、沢山見た。
それを踏みにじり、高笑いし、生きてきた。

一回目の魔力暴走の時シナリオが絡まないと思って、結局関係ない人間も多く…多く殺してしまった。

いつシナリオが絡んでくるか分からないこの時間が、何よりも怖い…望んでいたはずなのに。

優しくされたらその分悲しい。
裏切られたと、罵ってしまいそうな僕がいるんだ。

ロイスも…皆優しいこの世界が悲しくて、怖い。

「坊っちゃま、大丈夫ですか?」

「…入学、楽しみだね」

…いっその事全て壊してしまいたい。
全員殺して、狂ってしまいたい。

僕は瞼を閉じて昔を思い出す。何十年も前の事になってしまう、懐かしい思い出。






『君も迷子なんだね?僕と一緒だ!』

そう言って笑った少年は、とても不気味だった。

僕は留木原 夜の時、共感がない子供だった。
他者を傷つける恐怖を感じられなかったのだ。

両親は酷く悲しみ、僕を施設に入れた。
そこで出会ったのが不気味な少年…光一さんだった。

光一さんは僕と反対で共感し過ぎてしまう子供だった。
施設の人は僕達を一緒にした。

双子のように何時も一緒にいた。
他人を傷つける痛みを知った。愛情を知った。全て光一さんから教えて貰った。

僕は治ってしまった。
だから両親は迎えに来た。とても喜んで、そして施設に入れた事に泣きながら謝ってきた。

有名な私立学園の学園長が僕に会いに来た。
その人は僕に学園に入るように薦めた。
両親は学費の提案を聞き、入学を薦めた。
だから僕は入学した。

そこには光一さんの弟がいた。
嬉しかった。
でも光一さんには何時まで経っても会えなかった。

「そうだ…あの時も…」

結婚の話が出た。悲しいような気分だった。
でも"ような"で済む、薄れた感情だった。

ゲームに没頭したのは、恋情…性への欲望だろう。
光一さんに似ていたキャラに、光一さんを被せ、求めていたのだろう。

僕は他人に悟られないように、心まで偽った。

僕は正常な優しい人間だと、偽った。

なぜだかは分からない。でも、施設には戻りたくなかった。

「坊っちゃま?」

「…何がしたかったんだろう」

今思うと無駄な努力だった。
また無感情に戻って施設に入って、それで終わりで良かったじゃないか。

いつも施設の人達は言っていた。
『そんな事は時間の無駄だ。時間の有効活用を考えろ』って。

「坊っちゃま!…もうそんな時間ですか…薬は邸に…くそっ!

ーーートバルトさん、急いで下さい!」

ゲーム…そうだ…僕はこの世界で感情を手に入れた。
ロイスに出会ってからだ。
圧倒的な存在感にこの人なら、僕を壊してくれると。

そう思うと何故か感情が生まれた。
光一さんとはどこか違う、でも恋情なのは確かな感情が生まれた。

「頭が…いたい…」

息が苦しい。頭がボーッとする。

以前にもあったような気がする…何時だっけ?

「坊っちゃま、お気を確かに!!!」

「こういちさんがかがくしつでイタズラしてた」

なきながらわらってた。
ぼくはしんぱいでちかづいた。

こういちさんはぼくをガラスにいれた。
しせつのひとがいつもはいるようにいう、みずがはいったおおきいガラス。

「坊っちゃま、薬を射ちますよ」

こういちさんはわらってた。
みんなないてた。

こういちさんはいきつづける、っていってた。
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