7 / 17
7.銀目竜を欲しがる者たち
しおりを挟む
飛竜を預けていた竜舎を訪れると、私の飛竜ジャーノンはとても元気そうだったが、数日竜舎に預けたままだった為、彼はスネていた。
「ジャーノン待たせてごめんね、でもあんたの好きなボトスの肉をお土産に買って来たよ」
「グルグローッ」
彼は喜んで長い首を上下させた。
王都の精肉店で彼の好物の魔物の肉を買って来た。森の家の周囲では狩れば容易に手に入れる事が出来るボトスという魔物の肉は、王都では容易く手に入らない。人が好んで食べる程美味だけど、こちらにはあまりいないようだ。
包を開くとジャーノンは首を下ろし私の身体にそっと頭をつける。
「よしよし、いい子ね」
その頭をひたひたと撫でてやると喉をゴロゴロと鳴らした。買ってきたお肉は二口で食べてしまう。
「すいません、お嬢さん、ちょっといいですか?」
そうしていると、奥の方から声をかけられた。
「ああ、竜舎の方ですね。丁寧にお世話して頂いていたようで、ありがとうございました」
声をかけてきたのはこの竜舎で働いている人で、来た時も飛竜の世話の事で話をした覚えがある人だった。
「いえ、とても賢くて良い竜だったので、世話も楽に出来ました」
「そうですか、あの、何でしょう?」
「それがですね、お嬢さんも王都にいらっしゃったので、竜騎士団の話を見たり聞いたりされたのではないかと思うのですが・・・」
「竜騎士団・・・そういえば、こちらに到着した翌日に魔物退治に国境へ向かわれていましたね」
「ええ、そうなんです。この頃頻繁に魔物が出没するようになったので、竜騎士団の働きが不可欠なんです。うちも竜騎士団の竜を預かったりすることもあるので、竜騎士団の援助も受けていまして・・・」
「はい?」
「あの・・・竜騎士団が銀目竜を欲しがって探しているのです。魔物は、その、銀目竜が苦手なので。銀目竜を持つ者が現れた場合連絡しなくてはならないようになっていまして・・・」
なるほど・・・王都では着いた時に、銀目竜を欲した男に絡まれたけど、こちらは竜騎士団の強制的なお願いとやらか・・・。
一気に気分がダダ下がりだ。
「この竜は大切な竜なのです。手放す気はありません」
「おっしゃることはよく分かります。お嬢さんが大切にされているのも私共は承知しているのです。ですが、王都には竜騎士団はなくてはならない存在ですので・・・。本当に申し訳ないのですが、竜騎士団の担当者と話し合いの場を設けさせて頂きたいと思うのですが・・・」
「話合いをしても手放す気はありませんので、無駄だと思います」
竜舎の人は本当に申し訳なさそうに眉を下げてお願いしてくるのだが、こちらとしても頷くわけにはいかない。
「申し訳ないが、竜騎士団のザルトリウスという者だ。銀目竜の持ち主というのはそなたか?」
突然話に入ってきたのは、体格の良い騎士服を着た男だった。カツカツと踵を鳴らして歩いて来た。
面倒臭い事になった、そう思った。どちらにしても私は大切なジャーノンを手放す気はない。しかもこういった話方をするということは面倒くさそうな相手だと思う。圧倒的に自分の方が立場が強いと認識している者の高圧的な口調だと思った。つまり、いやな感じというやつ。
「はい、ジュジュと申します」
仕方がないので、被っていたローブを下ろし、男を見上げた。
「ハッ?、フィルシャンテ嬢・・・貴方が?どうして・・・」
聞き覚えのある名を口にした男は、私の顔を凝視している。いや、ジュジュって言いましたけど?と心の中で呟く。
男は、かなりの上背で身体にも厚みがある。顔は整っていて冷たい印象だが、甘いはちみつ色の瞳と後ろに一つに括って背に垂らした波打つ金髪が印象的だった。
「貴女は竜には乗れないと聞いているが本当は乗れるのか?銀目竜は貴女の竜なのか?」
「まず、私はフィルシャンテ嬢ではない。そしてこの竜は私の竜。私の母は『棘草の魔女』であり、彼女が与えてくれた竜を手放す気はない。―――何人たりとも魔女の物を奪う事は出来ない」
最後の一文は有名な一文で、魔女の物に手を出して無事でいるものはいないと言われている。
口調を変えて私は言い分を述べた。まったく魔女らしい話方だ。
「・・・・・・」
私の言葉にザルトリウスという男はしばし沈黙した。
「ジャーノン待たせてごめんね、でもあんたの好きなボトスの肉をお土産に買って来たよ」
「グルグローッ」
彼は喜んで長い首を上下させた。
王都の精肉店で彼の好物の魔物の肉を買って来た。森の家の周囲では狩れば容易に手に入れる事が出来るボトスという魔物の肉は、王都では容易く手に入らない。人が好んで食べる程美味だけど、こちらにはあまりいないようだ。
包を開くとジャーノンは首を下ろし私の身体にそっと頭をつける。
「よしよし、いい子ね」
その頭をひたひたと撫でてやると喉をゴロゴロと鳴らした。買ってきたお肉は二口で食べてしまう。
「すいません、お嬢さん、ちょっといいですか?」
そうしていると、奥の方から声をかけられた。
「ああ、竜舎の方ですね。丁寧にお世話して頂いていたようで、ありがとうございました」
声をかけてきたのはこの竜舎で働いている人で、来た時も飛竜の世話の事で話をした覚えがある人だった。
「いえ、とても賢くて良い竜だったので、世話も楽に出来ました」
「そうですか、あの、何でしょう?」
「それがですね、お嬢さんも王都にいらっしゃったので、竜騎士団の話を見たり聞いたりされたのではないかと思うのですが・・・」
「竜騎士団・・・そういえば、こちらに到着した翌日に魔物退治に国境へ向かわれていましたね」
「ええ、そうなんです。この頃頻繁に魔物が出没するようになったので、竜騎士団の働きが不可欠なんです。うちも竜騎士団の竜を預かったりすることもあるので、竜騎士団の援助も受けていまして・・・」
「はい?」
「あの・・・竜騎士団が銀目竜を欲しがって探しているのです。魔物は、その、銀目竜が苦手なので。銀目竜を持つ者が現れた場合連絡しなくてはならないようになっていまして・・・」
なるほど・・・王都では着いた時に、銀目竜を欲した男に絡まれたけど、こちらは竜騎士団の強制的なお願いとやらか・・・。
一気に気分がダダ下がりだ。
「この竜は大切な竜なのです。手放す気はありません」
「おっしゃることはよく分かります。お嬢さんが大切にされているのも私共は承知しているのです。ですが、王都には竜騎士団はなくてはならない存在ですので・・・。本当に申し訳ないのですが、竜騎士団の担当者と話し合いの場を設けさせて頂きたいと思うのですが・・・」
「話合いをしても手放す気はありませんので、無駄だと思います」
竜舎の人は本当に申し訳なさそうに眉を下げてお願いしてくるのだが、こちらとしても頷くわけにはいかない。
「申し訳ないが、竜騎士団のザルトリウスという者だ。銀目竜の持ち主というのはそなたか?」
突然話に入ってきたのは、体格の良い騎士服を着た男だった。カツカツと踵を鳴らして歩いて来た。
面倒臭い事になった、そう思った。どちらにしても私は大切なジャーノンを手放す気はない。しかもこういった話方をするということは面倒くさそうな相手だと思う。圧倒的に自分の方が立場が強いと認識している者の高圧的な口調だと思った。つまり、いやな感じというやつ。
「はい、ジュジュと申します」
仕方がないので、被っていたローブを下ろし、男を見上げた。
「ハッ?、フィルシャンテ嬢・・・貴方が?どうして・・・」
聞き覚えのある名を口にした男は、私の顔を凝視している。いや、ジュジュって言いましたけど?と心の中で呟く。
男は、かなりの上背で身体にも厚みがある。顔は整っていて冷たい印象だが、甘いはちみつ色の瞳と後ろに一つに括って背に垂らした波打つ金髪が印象的だった。
「貴女は竜には乗れないと聞いているが本当は乗れるのか?銀目竜は貴女の竜なのか?」
「まず、私はフィルシャンテ嬢ではない。そしてこの竜は私の竜。私の母は『棘草の魔女』であり、彼女が与えてくれた竜を手放す気はない。―――何人たりとも魔女の物を奪う事は出来ない」
最後の一文は有名な一文で、魔女の物に手を出して無事でいるものはいないと言われている。
口調を変えて私は言い分を述べた。まったく魔女らしい話方だ。
「・・・・・・」
私の言葉にザルトリウスという男はしばし沈黙した。
0
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる