13 / 17
13.彼女と私
しおりを挟む
ヴィートレッドが快く?私に協力してくれることになったので、今日は彼の王都での家であるルドラン侯爵邸で午後のお茶の時に彼女と会える予定になっている。タウンハウスだけどルドラン侯爵邸は手入れの行き届いた広大な美しい庭園のある屋敷だった。領地は片道馬車で一日半程度離れた場所にあると聞いた。
私は彼の友人、ネトル男爵としてここに招かれていた。この名は国から爵位と一緒に貰ったもので、古語で棘草という意味がある。
問題はフィルシャンテ嬢がお茶の招待をすっぽかさないかという事だけど、これは正式な招待状をブラノア伯爵家に送られているので大丈夫なのだろう。前回のすっぽかし事件もあり彼女は父親のブラノア伯爵にかなり怒られたようだという。
ヴィートレッドの屋敷では、私は深くローブを被り顔を見せないようにしている。
そして、彼女が護衛を連れて庭に現れた時、既に私とヴィートレッドは庭に用意されたお茶のテーブルについていた。
私と同じ姿形をしているのに、フィルシャンテ嬢が髪を下ろしドレス一式を身に着けたその姿は自分とはかけ離れていて不思議な感じだ。ヴィートレッドはよく街の中で私をフィルシャンテ嬢だと思ったものだ。
「ヴィートレッド様、お招きありがとうございます」
膝を少し曲げてちょこんと簡易的なお辞儀をする姿は貴婦人だ。サラリと顔を滑り流れ落ちる金髪も手入れが行き届いているなあと思った。私はこういう所作が気恥ずかしさが先に立ち、なんとなく苦手だった。
母から貴族的な食事作法も学び、ダンスもヴィードを使って母から教えられた。何事も知識は大切だから知っていて損はないと言われて遊びがてらに習ったけど、後々の母の計画に私を貴族の世界に戻すという事が念頭にあったが為だったのだなと思う。素晴らしく中途半端で宙ぶらりんの教育法だ。こんなふうに母の行動の意味を確認できても、怒りや悲しみという感情は出てこなかった。
しかたがない人だなって・・・。
「フィルシャンテ、久しぶりだね。今日はまた一段と美しい。会えて嬉しいよ」
貴族って歯の浮くようなセリフを普通に話す。ヴィートレッドの貴族的で綺麗な笑顔は、自動人形ヴィードの笑顔と似ている。作った笑顔って感じする。
「ありがとうございます。先日はお手間をとらせて申し訳ありませんでした」
対して、フィルシャンテ嬢は表情筋の死んだような無表情だ。口角くらいは上げたらいいのに。
「元気そうで何よりだ。それから、今日は友人が一人来ている。君に紹介するよ。ネトル男爵だ」
ヴィートレッドが彼女に私を紹介してくれた。
護衛は少し離れた場所で待機させているが、音の遮断をヴィートレッドがしてくれているので、話す事は聞かれる心配はない。それに私は護衛からは後ろ姿となるので、ローブを外したとしてもそのままでは顔は見えないはずだ。
「ネトル・・・?」
視線がこちらによこされる。
「ジュジュ・ネトルです。初めましてフィルシャンテ嬢」
「――――そう・・・貴女が、本当のブラノア家の娘。とうとうやって来たという事なのね」
しばらく考えてのち、彼女は言葉に感情を乗せずに、淡々とそう言い放った。意外な反応に驚いてしまい素で返答する。
「・・・貴女は私達の入れ替えを知っているの?」
私は、彼女に話をしても信じてくれるだろうかと不安に思っていたけれど、まさか真実を知っていようとは思ってもいなかった。
「そうよ。あの人から聞いたから」
「あの人?」
「ええ。赤い髪の人.棘草の魔女」
ヴィートレッドと思わず顔を見合わせた。と言っても私の顔はローブであまり見えないだろうけど。
「まさか貴女が真実を知らされているなんて思ってもいなかった」
「顔をみせてくれないかしら?」
フィルシャンテ嬢の言葉にフードを下ろした。
彼女は私がフードを下ろすと目を見張る。
「本当に私だわ・・・。いえ、私が貴女の姿を映しているのね・・・」
そして、溜息のように大きく息を吐いた。ううん、これは溜息だ。彼女が自動人形だなんてとても思えない。
「ねえ、貴女は誕生日に何が起こるか本当に分かっている?」
「私の身体は自動人形で、私達の誕生日に魔女の術が解けて、私が消えてなくなるってこと?酷いわよね。でも、本来なら死んでいた私に、生を与えてくれたと喜ぶべきなのかしら?」
彼女の挑むような口調に怒りを感じた。
私は彼の友人、ネトル男爵としてここに招かれていた。この名は国から爵位と一緒に貰ったもので、古語で棘草という意味がある。
問題はフィルシャンテ嬢がお茶の招待をすっぽかさないかという事だけど、これは正式な招待状をブラノア伯爵家に送られているので大丈夫なのだろう。前回のすっぽかし事件もあり彼女は父親のブラノア伯爵にかなり怒られたようだという。
ヴィートレッドの屋敷では、私は深くローブを被り顔を見せないようにしている。
そして、彼女が護衛を連れて庭に現れた時、既に私とヴィートレッドは庭に用意されたお茶のテーブルについていた。
私と同じ姿形をしているのに、フィルシャンテ嬢が髪を下ろしドレス一式を身に着けたその姿は自分とはかけ離れていて不思議な感じだ。ヴィートレッドはよく街の中で私をフィルシャンテ嬢だと思ったものだ。
「ヴィートレッド様、お招きありがとうございます」
膝を少し曲げてちょこんと簡易的なお辞儀をする姿は貴婦人だ。サラリと顔を滑り流れ落ちる金髪も手入れが行き届いているなあと思った。私はこういう所作が気恥ずかしさが先に立ち、なんとなく苦手だった。
母から貴族的な食事作法も学び、ダンスもヴィードを使って母から教えられた。何事も知識は大切だから知っていて損はないと言われて遊びがてらに習ったけど、後々の母の計画に私を貴族の世界に戻すという事が念頭にあったが為だったのだなと思う。素晴らしく中途半端で宙ぶらりんの教育法だ。こんなふうに母の行動の意味を確認できても、怒りや悲しみという感情は出てこなかった。
しかたがない人だなって・・・。
「フィルシャンテ、久しぶりだね。今日はまた一段と美しい。会えて嬉しいよ」
貴族って歯の浮くようなセリフを普通に話す。ヴィートレッドの貴族的で綺麗な笑顔は、自動人形ヴィードの笑顔と似ている。作った笑顔って感じする。
「ありがとうございます。先日はお手間をとらせて申し訳ありませんでした」
対して、フィルシャンテ嬢は表情筋の死んだような無表情だ。口角くらいは上げたらいいのに。
「元気そうで何よりだ。それから、今日は友人が一人来ている。君に紹介するよ。ネトル男爵だ」
ヴィートレッドが彼女に私を紹介してくれた。
護衛は少し離れた場所で待機させているが、音の遮断をヴィートレッドがしてくれているので、話す事は聞かれる心配はない。それに私は護衛からは後ろ姿となるので、ローブを外したとしてもそのままでは顔は見えないはずだ。
「ネトル・・・?」
視線がこちらによこされる。
「ジュジュ・ネトルです。初めましてフィルシャンテ嬢」
「――――そう・・・貴女が、本当のブラノア家の娘。とうとうやって来たという事なのね」
しばらく考えてのち、彼女は言葉に感情を乗せずに、淡々とそう言い放った。意外な反応に驚いてしまい素で返答する。
「・・・貴女は私達の入れ替えを知っているの?」
私は、彼女に話をしても信じてくれるだろうかと不安に思っていたけれど、まさか真実を知っていようとは思ってもいなかった。
「そうよ。あの人から聞いたから」
「あの人?」
「ええ。赤い髪の人.棘草の魔女」
ヴィートレッドと思わず顔を見合わせた。と言っても私の顔はローブであまり見えないだろうけど。
「まさか貴女が真実を知らされているなんて思ってもいなかった」
「顔をみせてくれないかしら?」
フィルシャンテ嬢の言葉にフードを下ろした。
彼女は私がフードを下ろすと目を見張る。
「本当に私だわ・・・。いえ、私が貴女の姿を映しているのね・・・」
そして、溜息のように大きく息を吐いた。ううん、これは溜息だ。彼女が自動人形だなんてとても思えない。
「ねえ、貴女は誕生日に何が起こるか本当に分かっている?」
「私の身体は自動人形で、私達の誕生日に魔女の術が解けて、私が消えてなくなるってこと?酷いわよね。でも、本来なら死んでいた私に、生を与えてくれたと喜ぶべきなのかしら?」
彼女の挑むような口調に怒りを感じた。
0
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる