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16.伯爵家へ
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フィルシャンテとヴィートレッドと私は誕生日までの計画をその後何度か練った。
幸い、彼女が婚約者の屋敷に来る事には何も問題ない。両家は二人が仲良くすることを喜んでいるようだ。
そして、誕生日の前夜、彼女は屋敷から抜け出しヴィートレッドの屋敷にいる私の所へやってきた。
ヨーイが一声鳴いたので、到着が分かった。
「いよいよね。貴女は怖くない?」
「そうね、新しい事にチャレンジするのは平常心じゃいられない。でもその後の誕生日パーティーの方が緊張しそう。あんたはどう?」
「怖いわ。それに寂しさや悲しさもある。今日、夕食が済んだあとに両親から抱きしめられたの。祝福の言葉をもらった。私、そういえば大きくなってからそんな風にされたことが無かったなと思った ―――― あなたの今後の新しい人生に祝福がありますように ―――― そう、まるで、今夜が別れの日だと知っているみたいだった」
「うーん、伯爵家の両親の事は今の時点ではよく分からない。何か知っているのかどうか。それよりフィル、あんたは頑張った。魔女の母さんがあんたに言ったように、私達には何の落ち度も責任もないってこと分かってる?」
「ええ、頭では分かってるわ。でも、割り切って考えられないの」
「そこは私と反対よね。人の中しきたりに縛られて生きてきたあんたと、魔女の母さんと自由気ままに生きてきた私と」
私達は二人で色んな話しをした。正直、貴族の生活の話はあまり面白くなかった。どうして人が決めたつまらないしきたりを守らなくてはならないのかピンと来ないのだ。逆に棘草の森の話は、大いに盛り上がった。もう一つ、あんた→フィルに呼び方が昇格した事は嬉しいことの様で、文句はなかった。
「私、棘草の森に行きたいわ。竜にも乗せてくれないかしら?あんたの後ろでいいから」
「プッ、いいよ、全部終わったら、一緒に行こう。アド・ファルルカの所にも」
広いベッドに背中合わせに寄っかかり、二人で笑った。
もうすぐ日付が変わる。
それは、魔力の流動から始まった。二人を取り巻く空気が変わる。その時、私の指輪が銀色の光を放って弾けて消えた。
「ジュジュ、手をかして!」
フィルがベッドの上で私に両手を伸ばす。私達は向き合って手を繋いだ。指と指が絡み合う。
彼女から私へと魔力が流れ込んで来た。
それと同時に光がパラパラと剥がれていく様に、彼女の表面を象っていた私という形が、崩れていった。
「フィル!いいっ?あんたは魔女よ!私が恋焦がれた棘草の魔女!居なくなったら許さないから!」
私は強い思いをこめて叫んだ。
黄金の粉が辺りに舞い落ちる様に、光が満ち溢れ、一度崩れて溶けかけた姿が蘇る。
新たに燃える様な赤い巻毛と翡翠の瞳をともなって・・・。
目の前には美しい魔女がいた。
「ずるい・・・」
思わず私は呟いた。
私の目の前には、そのまま母が若返った様な、うっとりする様な肉感的で美しい魔女が座っていた。
「成功したの・・・かしら?」
「うん、大成功!」
私と彼女は抱き合って喜んだ。自動人形等とは思えない。柔らかくて暖かい身体だ。胸が豊かに実っていた。
彼女が自分自身の身体を魂の導くままに作り上げたのだ。
++++++++++++++=++===++++++++++
フィルの身体の作り替えと、私の魔力を彼女から私へと戻す事が成功した後、私は明け方フィルの代わりに屋敷へと戻った。
今度は私が伯爵家の両親と対峙する番だ。
ところが、私が教えられていた彼女の部屋へと戻り扉を開けると、明け方早くだというのにいきなり部屋の明かりが全て灯り、柔らかい女性の声が私に向けてかけられた。
「おかえり、ジュジュ」
不思議な事だけど、初めて会ったのに、この人が『お母さん』なのだと分かってしまった。
結った亜麻色の髪に、穏やかなヘイゼルの瞳。優しげに揺らめくと、透明な筋が何度も頬を流れていくのが目に入る。
その人は感極まった様に近づくと突然に私を抱きしめた。
「ああ、私の娘なのね。帰って来てくれた・・・」
「えっと、お母様、ただいま」
素直に言葉が出てきた。
そう答えると、ますます強く抱きしめられた。少しして落ち着いた頃に声をかけた。
「あの、これは、一体どういう事なのかな?」
私は、そこに立っていた隻眼の背の高い男性、そう、父親に声をかけたのだ。
私と同じ直毛の金髪を後ろで一つに束ねている。同じ色の瞳をしている人。
「ジュジュ、というのだね。すまない、君にも大変な苦労をかけたようだ。私は君の父親だ。少し前に、アド・ファルルカから手紙を貰ったのだ。黙って見守るしかなかったのだが、無事にこの家に戻ってきてくれたことが嬉しい・・・」
「アド・ファルルカ、なるほどそうだったんだ。私は確かに魔女の母に取り替えられ育てられたけど、苦労などしていないんです。だけど全ての原因は貴方にあるようなので、謝罪は一応受けますけど。こちらのお母様にもちゃんとあなたから謝罪はして下さいました?一番驚いたのはお母様だと思う」
「あ、ああ。それはもちろんだ。私が馬鹿みたいに竜騎士の家を重んじて、大切だった人を裏切った事で・・・妻となったこの人にも、娘の君にも謝ってもどうにも出来ない事を背負わせてしまった」
「会ったら聞いてみようと思ってたんですけど、伯爵様はフィルシャンテの事をどう思っているんですか?ずっと二人の間に出来た娘だと思って育ててきたけど、魔女の娘だったらもう娘じゃないんですか?」
「そんなことはない。あの子の事は愛して育ててきた。それはこれからも変わらない」
「貴女を前に言ってよいのか分からなかったけれど、私も母としてフィルシャンテをずっと愛しているの。その事実はこれから先も変わりません。ジュジュ、貴女の事は、重ねた時間がなくとも存在全てを愛しています。私の可愛い娘。これは理屈では表現できないことだけど・・・信じて欲しいの」
「ああよかった。それを聞いて安心しました。でも、私は貴族の家を継いだりするつもりはないんです。それでも私の事を大切な存在だと思ってくれますか?」
「まあ、当たり前でしょう?生きていて存在してくれるだけで世界に感謝しています。貴女が幸せでいてくれれば、どこで何をしていてもいいと思っているわ」
そして、お母樣はもう一度私を強く抱きしめてくれた。
幸い、彼女が婚約者の屋敷に来る事には何も問題ない。両家は二人が仲良くすることを喜んでいるようだ。
そして、誕生日の前夜、彼女は屋敷から抜け出しヴィートレッドの屋敷にいる私の所へやってきた。
ヨーイが一声鳴いたので、到着が分かった。
「いよいよね。貴女は怖くない?」
「そうね、新しい事にチャレンジするのは平常心じゃいられない。でもその後の誕生日パーティーの方が緊張しそう。あんたはどう?」
「怖いわ。それに寂しさや悲しさもある。今日、夕食が済んだあとに両親から抱きしめられたの。祝福の言葉をもらった。私、そういえば大きくなってからそんな風にされたことが無かったなと思った ―――― あなたの今後の新しい人生に祝福がありますように ―――― そう、まるで、今夜が別れの日だと知っているみたいだった」
「うーん、伯爵家の両親の事は今の時点ではよく分からない。何か知っているのかどうか。それよりフィル、あんたは頑張った。魔女の母さんがあんたに言ったように、私達には何の落ち度も責任もないってこと分かってる?」
「ええ、頭では分かってるわ。でも、割り切って考えられないの」
「そこは私と反対よね。人の中しきたりに縛られて生きてきたあんたと、魔女の母さんと自由気ままに生きてきた私と」
私達は二人で色んな話しをした。正直、貴族の生活の話はあまり面白くなかった。どうして人が決めたつまらないしきたりを守らなくてはならないのかピンと来ないのだ。逆に棘草の森の話は、大いに盛り上がった。もう一つ、あんた→フィルに呼び方が昇格した事は嬉しいことの様で、文句はなかった。
「私、棘草の森に行きたいわ。竜にも乗せてくれないかしら?あんたの後ろでいいから」
「プッ、いいよ、全部終わったら、一緒に行こう。アド・ファルルカの所にも」
広いベッドに背中合わせに寄っかかり、二人で笑った。
もうすぐ日付が変わる。
それは、魔力の流動から始まった。二人を取り巻く空気が変わる。その時、私の指輪が銀色の光を放って弾けて消えた。
「ジュジュ、手をかして!」
フィルがベッドの上で私に両手を伸ばす。私達は向き合って手を繋いだ。指と指が絡み合う。
彼女から私へと魔力が流れ込んで来た。
それと同時に光がパラパラと剥がれていく様に、彼女の表面を象っていた私という形が、崩れていった。
「フィル!いいっ?あんたは魔女よ!私が恋焦がれた棘草の魔女!居なくなったら許さないから!」
私は強い思いをこめて叫んだ。
黄金の粉が辺りに舞い落ちる様に、光が満ち溢れ、一度崩れて溶けかけた姿が蘇る。
新たに燃える様な赤い巻毛と翡翠の瞳をともなって・・・。
目の前には美しい魔女がいた。
「ずるい・・・」
思わず私は呟いた。
私の目の前には、そのまま母が若返った様な、うっとりする様な肉感的で美しい魔女が座っていた。
「成功したの・・・かしら?」
「うん、大成功!」
私と彼女は抱き合って喜んだ。自動人形等とは思えない。柔らかくて暖かい身体だ。胸が豊かに実っていた。
彼女が自分自身の身体を魂の導くままに作り上げたのだ。
++++++++++++++=++===++++++++++
フィルの身体の作り替えと、私の魔力を彼女から私へと戻す事が成功した後、私は明け方フィルの代わりに屋敷へと戻った。
今度は私が伯爵家の両親と対峙する番だ。
ところが、私が教えられていた彼女の部屋へと戻り扉を開けると、明け方早くだというのにいきなり部屋の明かりが全て灯り、柔らかい女性の声が私に向けてかけられた。
「おかえり、ジュジュ」
不思議な事だけど、初めて会ったのに、この人が『お母さん』なのだと分かってしまった。
結った亜麻色の髪に、穏やかなヘイゼルの瞳。優しげに揺らめくと、透明な筋が何度も頬を流れていくのが目に入る。
その人は感極まった様に近づくと突然に私を抱きしめた。
「ああ、私の娘なのね。帰って来てくれた・・・」
「えっと、お母様、ただいま」
素直に言葉が出てきた。
そう答えると、ますます強く抱きしめられた。少しして落ち着いた頃に声をかけた。
「あの、これは、一体どういう事なのかな?」
私は、そこに立っていた隻眼の背の高い男性、そう、父親に声をかけたのだ。
私と同じ直毛の金髪を後ろで一つに束ねている。同じ色の瞳をしている人。
「ジュジュ、というのだね。すまない、君にも大変な苦労をかけたようだ。私は君の父親だ。少し前に、アド・ファルルカから手紙を貰ったのだ。黙って見守るしかなかったのだが、無事にこの家に戻ってきてくれたことが嬉しい・・・」
「アド・ファルルカ、なるほどそうだったんだ。私は確かに魔女の母に取り替えられ育てられたけど、苦労などしていないんです。だけど全ての原因は貴方にあるようなので、謝罪は一応受けますけど。こちらのお母様にもちゃんとあなたから謝罪はして下さいました?一番驚いたのはお母様だと思う」
「あ、ああ。それはもちろんだ。私が馬鹿みたいに竜騎士の家を重んじて、大切だった人を裏切った事で・・・妻となったこの人にも、娘の君にも謝ってもどうにも出来ない事を背負わせてしまった」
「会ったら聞いてみようと思ってたんですけど、伯爵様はフィルシャンテの事をどう思っているんですか?ずっと二人の間に出来た娘だと思って育ててきたけど、魔女の娘だったらもう娘じゃないんですか?」
「そんなことはない。あの子の事は愛して育ててきた。それはこれからも変わらない」
「貴女を前に言ってよいのか分からなかったけれど、私も母としてフィルシャンテをずっと愛しているの。その事実はこれから先も変わりません。ジュジュ、貴女の事は、重ねた時間がなくとも存在全てを愛しています。私の可愛い娘。これは理屈では表現できないことだけど・・・信じて欲しいの」
「ああよかった。それを聞いて安心しました。でも、私は貴族の家を継いだりするつもりはないんです。それでも私の事を大切な存在だと思ってくれますか?」
「まあ、当たり前でしょう?生きていて存在してくれるだけで世界に感謝しています。貴女が幸せでいてくれれば、どこで何をしていてもいいと思っているわ」
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