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第三章

4.馬が爆走する街

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 あれから半月程経過した。

 距離的には江戸時代の人が日本橋から京都へ歩いて移動したよりも移動したよ感はんぱねえ。

 凄いぞ私。

 あちこちの街や村に寄り、色んな人に会った。ギルドにも何ヶ所も立ち寄った。

 やっぱ、以前の7年間はがっちり3人にガードされてたからここまで色んなお国事情や庶民の生活が身近には分からなかったけど、よく分かる。

 でもさ、古来から日本では、宿場町が整備されて、一日の歩ける移動距離で宿場町がだいたい作られていたらしいんだけど、こっちはそういうのないから、歩いて移動っていうのは、魔力持ちでないと無理だわ。いろんな意味で。

 お陰でそれなりに、ご当地名物も食べて遊んで色々楽しんだ。それに釣り三昧。

 えっ、なにしに来たんだっけ?自分?

 今は、ユルバーンというわりと大きい街に着いて、ここでは贅沢して宿屋に泊まろうという事になった。

 だいたい、どこの村や町でも、材料費タダだけど良く効く薬を売りさばいて、資金は潤沢だ。ここも動物OKの宿だ。

 それにしても、やけに整った街並みだ。逆に変わってるっていうのか・・・。

 どこがどう違うのか考えて見る。はあ、なるほど。露店だとかが異常に少ない。全て建物の中で商売をする様な感じだ。露店を出すなら、少し建物の引っ込んだ場所に出し、道にはみ出るような露店がないのだ。

 これはこのユルバーンの特徴なのか、そういうふうに、街に店を出すなら、こうしなさいという条例があるのかもしれない。

 さあ、宿選びだ。たまには贅沢したっていいんだ。いつもの様にハンターと同室にして貰った。衝立を置いて貰えば、わざわざ別々に部屋を借りる必要はない。どうせ男同士だ。(←ココ談)

 ふた部屋借りたら料金が二倍になるから、勿体ない。それなら一部屋で少しランクの高い部屋を借りた方が絶対にいい。部屋も広いし解放感絶大だ。

「ハンター、タライを借りてきて久しぶりにお湯を使うよ。ハンターも後で使う?」

「そうだな、たまにはいいな、じゃあ借りてきてやるから、先にゆっくり湯を使え。俺は街で土産物を見てくるよ」

「ありがとー」

 まあ、いくら凹凸が控えめなスレンダーボディーとはいえ、ハンターもお年頃だから気にするよね。

「じゃあ、シオウも一緒にお湯を浴びよう」

「にゃーん」

 シオウは両手で目を目を押さえて首を振ると、ハンターの肩に乗った。

「お前な、シオウに気を使わせるな。二人で出かけて来るからその間に湯を使え。あとでシオウと俺が湯を使う」

「えーっ、そんなに気を使わなくても大丈夫なのに」

「使うわ、アホか」

 その後直ぐにハンターは大きなタライを借りてきてくれた。

 流石にちょっと高い部屋だけあって、洗面所には水のシャワーが付いているのだ。

 そこにタライを置いて水を貯めて、生活魔法で湯に変える。

 洗面所に備え付けの手桶で体にかける。

「ああ、マジ、生き返るわー」

 旅の途中で川で水浴びはよくするけど、一応シャツは着て水に入るからね。

 マッパで気にせず湯を使えるのはホントこんな時位だ。

 石鹸で汚れを落とす。いやー。ますます筋肉質になって、無駄な肉もなく素晴らしいな。我ながらカッコイイ。

 色気のイの字もないわ―。ガッチガチじゃん。

 思わずポーズをとってみる。うん、すごい。

 時々、ハンター相手に剣の稽古もする。その剣はハンターに選んで貰い、普段はリュックの中に入れている。

 まあ、戦う選択肢は色々あった方がいい。アスランテに習った剣技は意外に身についているようで、条件反射の様に、身体が動く。ハンターにも驚かれた。

「ココ、お前、結構な腕前だな」

 まあ、そうは言ってくれるけど、獣人の身体能力には負けるわ。こっちは身体強化してこれだからね。

「剣も習ったからね。せっかく習ったんだから、忘れたらもったいない。だからハンターが相手してね」

「よし、まかせろ。自分の身を守れるのはいい事だ」

「でも、魔術のセンセイはクソだったよ。あれはクソだった」

 ロドリゴは、やばい奴だった。あいつには毎日痛めつけられて、イナバの白うさぎみたいになっていたのは、あいつのせいだ。スース―する薬なしでは生きていられなかったわ。

「そ、そうか」

 そんな話をした。

 この街からまたあちこちに分岐するけど、北に進む鄙びた道がある。それをさらに50キロくらい行けば、獣人の村があるそうだ。

 その村に立ち寄る際のおみやげを買いたいと言っていた。仲の良い獣人仲間のいる村らしい。




      ※      ※      ※



 ココは、湯を使うのが好きだ。ココの世界の同じ民族は湯に浸かるのが好きらしい。

 まあ確かに湯を使うと汚れがよくおちるが、俺達獣人はだいたい水を浴びて済ませるのだ。

 シオウと二人で街を歩く。この街には何度か立ち寄った事がある。俺の生まれ育った獣人の村は別の村だが、この近くにある獣人の村は仲の良い獣人仲間の生まれ故郷だ。

 そいつも冒険者になって国じゅうを歩いているので、会える機会は少ないが、俺はここを通る時には様子を見る為に立ち寄る事にしている。

 獣人の村にしては、人族の街に近い場所にあり、他の心配があるからだ。

 このユルバーンの街を含む近隣の村などを統治する領主に問題があった。この地はスワル伯爵領だ。

 領主の館はここから数十キロ離れた高台に建つ城だが、そこから馬鹿息子とその取り巻き達がユルバーンの街を馬で暴走するのは日常茶飯事だ。

 だから、街の狭い路地などで露店等をしていれば、全て蹴散らされてしまう。

 街で商売をする者は何度も痛い目にあっているので、そうならないように工夫しているのだ。

「いいかシオウ。ここはよく馬鹿貴族が馬を走らせる場所だ。俺の肩に乗っていろ」

「にゃーん」

 そう話して直ぐに、カン、カン、カンという鐘を鳴らす音が聞こえる。

「お客さん、危ないから店の中にいた方がいいよ、馬が爆走してくるからね」

 店の親父に言われて奥に入る。相変わらずの馬鹿のやる事は変わっていないらしい。



 
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