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第三章
3.私の大切な姫君 by白い人
しおりを挟む私は、北の果てにあるヴィドル公爵家の次男になる。
王城より『緑の巫女姫』召喚の知らせを受けて、仕方なく出向く事になった。
もともと、ヴィドル家は王族から疎まれているらしい。大昔に北の果ての地を領地とされ、押し込められたそうだ。
王族には異能があるといわれる。詳しくはどのような異能を持たれているのか分からないが、昔から逆らった貴族家は消されてきた。
ヴィドル家と王家とは魔力の相性がとても悪いと言われている。どう悪いのかは分からない。
そんな分からない事が多い中、王家には逆らってはいけないという風潮が浸透していったようだ。
150年に一度の周期で『緑の姫巫女』を王家が召喚するというのも慣例化して、三大公爵家から一人ずつお目付け役を付けるというのも決められた事だ。
王家が召喚した『緑の姫巫女』と、貴族を代表とする三大公爵家の代表が、国じゅうを周る。
それは、庶民に畏敬の念を植えつける為の芝居の様に思えるのは私だけなのだろうか?
もちろん、瘴気を浄化しない事には、国民は生活していけないし、国はどんどん疲弊していく。
何故国に瘴気が満ちて行くのか、魔物が増えるのかなど理由は分からないままだ。国境は王族により強力な結界が張られ出入りもできず、強大な箱の中で、一握りの王族達に掌握されているという事実から皆目をそらしていた。
だが、異世界から、巫女姫を召喚するという事は、その召喚された人物のそれまでの生活を奪い取るという事になる。
召喚された者の人権はとことん無視される。言うことを聞かない逆らう者は殺し、新しく召喚するというやり方だ。
その『緑の巫女姫』を宥め、そうして十年かけて国じゅうを回らなくてはならないという行事が運悪く自分の所に回って来て、気が滅入らないわけがない。
魔物を滅するという行為は、北の地でも生きて行くための当たり前の行為だった。
けれど、この国の都合で他所の世界から召喚された人を、命の危険がある旅に連れ回すのだ。
気が進まない、何と言葉をかけてあげればよいのだろうか。もともと口下手な人間だ。
城に到着し、王から言葉を賜り、他の公爵家の二人と『緑の巫女姫』に会いに行ったのは、地下の牢獄だった。
至上の黒を纏う、美しい少女がそこにはいた。
暴れた為に牢に入れたと聞いたが、可愛そうにあちこち擦り傷や打撲の怪我をしているようだ。
『緑の巫女姫』に暴力を振るうなど、本来なら許されない行為だ・・・。痛ましくて見ていられない。
『至上の黒』と呼ばれる黒い髪、黒い目というのは、召喚者にしか現れない色だ。
この国にはその色を持つ者は生まれなかった。この国には昔から、国の大事の際には黒を纏う者が現れて国を救うという言われがある。その為、黒はどんな色よりも美しい色とされてきた。
黒い色は王しか使う事が出来ない。だから黒は王の色でもあった。
だが、王族にとっては気に入らない事だろう。自分達よりも至上の存在など必要ないのだから。
「なんだあ、こんなドブスチビの面倒見なきゃいけないのかよ、やってらんねえな!」
ロドリゴはへそ曲がりだ。そんな毒を吐いた。こんな美しい存在にそんな事が言えるなんて考えられない。
けれども、彼は気に入らない者に自分から声をかけたりはしないのだ。
「うるさい、このクソが!こっから出せ、腹立つ」
彼女は美しく華奢な見た目とはうらはらに、檻の中の動物の様に鉄格子を掴んで暴れ毒づいた。
とても元気だった。
「巫女姫様、貴女がその様な態度をとられたままですと、殺されてしまいます。賢いやり方ではありませんよ」
そこに、ムーランが静かに声をかけた。ムーランは一見、女性かと見紛うような見た目の男性だ。
「はあ?勝手に呼び出して、小突き回して、牢に入れて」
『ぎゅるぎゅるぎゅるうううううううぅ』
大きな腹の音が鳴った。
「それに、お腹も減ったよ!!!」
「ワハハハッハハハ」
ロドリゴの爆笑に頬を赤く染め、巫女姫の牢の鉄格子を蹴る音が一段と大きくなる。
「わかりました。色々とご説明もしないといけませんし、とりあえず、一番近い私の屋敷に参りましょう。そこでお食事もご用意致します。どうか気をお鎮め下さい」
『お食事』と言われたのが効いたのか、急に彼女は静かになった。
見れば見る程、その存在の輝きは私を魅了した。
守らねばいけない。彼女を守るのだ。私は心に決めた。
そして、ムーランの屋敷で先に食事をし、身支度を整え、怪我をムーランに治癒魔法で治して貰うと、彼の話をきちんと聞いた。ロドリゴは無視された。
私は、彼女の一挙一動に目を奪われ、ひたすら彼女を見ていた。
彼女はその身の内に膨大な魔力を持っているようだが、魔法の無い国から来たらしい。
まずは旅に出て、基本的な魔法の使い方、自分の身を守る術を教えなければならないとムーランは言った。
私も依存はなかった。ムーランは高位貴族の中にあっても、とても常識的な男だという認識がある。
とにかく、巫女姫を連れて早々に王都を発つべきだった。
馬車で王都を発ち、時間をかけて、少しずつ魔物と戦う術や、この世界の事を巫女姫は吸収していった。
思った通り、彼女の浄化の力は凄まじい威力を持っていた。
彼女は芯が強く、弱みを見せないが、夜になるとひっそりと泣いているのを知っている。(←主に悔し涙)
私は剣や武器の使い方を、ムーランは薬学や浄化魔法、生活魔法や治癒魔法に関する知識等。
ムーランは人に物を教えるという事に長けていた。
ロドリゴは魔術を使った戦い方等を教えたが。特にロドリゴは教え方が酷く、生傷が絶えない状態だった。
どうしたら、彼女を慰めたり、支えたりしてあげられるのだろうか?考えに考えた中、ああ、そうだと思った。
私の一族には自分の分身を作り出す能力がある。『雪の精』と呼ばれるその小さな分身は、子供の頃にそれを作り出し魔力を高めていく事が目的だ。子供だましではあるが、自分の思いや言葉を伝えるには良いと思われた。
その『雪の精』を彼女はとても喜んだ。子供の様に胸に抱き、夜は眠った。
彼女はこの『ベリン国』が嫌いだと言った。
元の世界に還りたいという。
「ウン、ワカッタ。タビガオワッタラ、アナタノネガイヲ、カナエテアゲルヨ」
王家にはひた隠しにされている、生涯一度だけ使えるという聖魔法での異界への干渉。それは王家の所業に対抗し巫女姫を元の世界に戻すたった一つの術だが、大きな代償を払う事になる。
それでも、私は彼女の願いを叶えてあげたかったのだ。
私の大切な、大切な人の為ならば。
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