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1.ラムリースは心穏やかに暮らしたい
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町というよりは村に近い田舎の小さい町ケレル。私、ラムリースはここで生まれ育った。
近くを森と山に囲まれた静かな町だ。父さんは町で一つしかない鍛冶屋を営んでいる。
いつも父さんは朝早く隣の工房に仕事に行ってしまうので、朝昼の食事用におにぎりを前の日の夜のうちに作って竹の皮に包んでおくようにしている。おにぎりの中には昆布の佃煮を入れたり、その横には塩を少々振って汁の出ない様にしっかり炒った野菜と肉をを添えたり、卵焼きを焼いて添えることもある。
父さんは鍛冶屋で、毎日夜遅くまで隣の工房にいるのでほとんど顔を合わすこともないんだけど、次の日の朝には、おにぎりが包んであった竹の皮は綺麗に洗って流しに置いてあるので、ちゃんと食べてくれているのが分かる。
この国ではパンとお米の両方が主食で、どちらも食べる。叔母さんに聞いたところによると、父さんはお米が好きらしいのでおにぎりを作っている。これは昔、海を渡ってやって来た東の人々の国の文化が混ざったかららしい。
私が生まれた時に、お母さんは亡くなり、その後はまだ独身だった母の妹のマリエル叔母さんがずっと面倒を見てくれていた。だから家事は叔母さんに小さい頃から色々習った。
その叔母も昨年結婚して遠い王都にお嫁に行ってしまった。魔物討伐の遠征に来ていた騎士に見初められたから。ホント、叔母さんは器量良しで、とても優しい人だった。
叔母さんがお嫁に行ってしまった当時は、寂しくて毎日泣いて過ごした。
その叔母さんがよく私に言っていたのが、
「どうしてこの子はこんなに怖がりなのかしら?食も細くて心配だわ」
本当に私は怖がりで、少しのことでも怖がってビクビクするので、いつも叔母さんは心配してくれていた。
『気が弱くて怖がりで、すぐに泣いて、痩せっぽちでみっともない』
これは私の大嫌いな、近所に住む意地悪なリノによく言われた言葉。
確かに痩せているし、髪の毛だってミルクティーみたいな中途半端な色で色艶がないけど叔母さんは、
「優しい色ね、しっかり食べて栄養がつけば皆が羨むような素敵な髪になるわよ。貴女のお母さんと同じ色だわ」
そういってくれた。
私は今九歳。めちゃくちゃ気が弱くて、泣き虫で、痩せっぽちだ。
来年からは町唯一の学校で、3年程読み書きや計算を習わなければならないのがとても憂鬱。
といっても、授業は午前中のみで、週三日程だけど・・・。
この国では成人は15歳で、それまでに誰でも働く事が出来るようにするため、二年前にそういう決まりが出来たらしい。今代の王様が決められたそうだ。仕事は見習いとして十三歳から働くことができる。
だけどこれは私の心に重くのしかかっている案件だ。
というのも、同じ通りの雑貨屋の息子リノに、今までずっといじめられて来たので、学校に行くとどうしても顔を合わさなければいけなくなるから嫌なのだ。そんな怖いことは無理。
小さい頃から、目に触れる場所にいると突然突き飛ばされたり、川に落とされたり、手をいきなり掴まれて投げ飛ばされたり散々な目に逢って来た。
川に落ちた時には川底の石で頭を打って怪我して気を失ってしまい、どうやらリノに背負われて家まで連れて帰られたらしいけど覚えていない。そのことがトラウマになって少しでも家の外に出るのも恐ろしくなった。
リノは私以外には礼儀正しく、綺麗な金髪の子供だったので、皆、彼の言うことを信用する。
彼は本当に田舎町には珍しい美しい金髪に整った容姿を持っていた。
金髪碧眼というのは貴族に多く、庶民には少ない。
私が気を失っている間に、なぜだか私が足を滑らせて川に落ちた所にリノが通りがかり助けてくれた事になっていた。
「まあラム、リノ君が通りがかってくれて本当に良かったわね」
叔母さんにそう言われても、気が弱く情けない私には何も言うことが出来なかった。
彼は私にだけ無愛想で、いつも悪意のある目つきで私を睨んでくる。それも他の人にバレない様に。どうしてそんなに私の事を嫌うのか全く分からない。
家から出て一人でいると、何故か必ずリノに出会うので外に出なくなった。なのに学校で一緒だなんて耐えられない。どんな意地悪や暴力を振るわれるかと思うと怖くて仕方なかった。
父さんが私に無関心で、ほとんど家に居ずに工房に籠っていることをいいことに、これまで私は家に引きこもっていた。叔母さんが居なくなってからはますます引きこもりは酷くなる一方だった。
買い物は道を挟んだ向かい側に衣料品店と青果店と肉屋さんがあるので、買い物時はわき目も振らずに最短距離で済ましてすぐに家に戻るようにしていた。
私を可愛がってくれていた叔母さんは遠くに行ってしまったし、父さんは同じ家に住んでいるのに隣のおじさんよりも遠い存在だ。
だったら、叔母さんから聞いた事のある王都とは逆方向の山をひとつ超えた場所にある女の人ばかりの修道院に逃げればいいと思った。そうだそうしよう。そう決めると心が少し軽くなった。
どうして叔母さんがその修道院の話を私にしたのかというと、叔母さんの仲の良かった女友達が修道院に入ったという話を聞いたからだ。親が持って来た結婚話が嫌で修道院に逃げたのだという話だった。たった一人で山を越えてたどり着き、叔母さん宛てに手紙が届いたそうだ。心穏やかに今は過ごしているという内容だった。その話を聞いた時、とても羨ましかった。
私も心穏やかになりたい。そう思った。
近くを森と山に囲まれた静かな町だ。父さんは町で一つしかない鍛冶屋を営んでいる。
いつも父さんは朝早く隣の工房に仕事に行ってしまうので、朝昼の食事用におにぎりを前の日の夜のうちに作って竹の皮に包んでおくようにしている。おにぎりの中には昆布の佃煮を入れたり、その横には塩を少々振って汁の出ない様にしっかり炒った野菜と肉をを添えたり、卵焼きを焼いて添えることもある。
父さんは鍛冶屋で、毎日夜遅くまで隣の工房にいるのでほとんど顔を合わすこともないんだけど、次の日の朝には、おにぎりが包んであった竹の皮は綺麗に洗って流しに置いてあるので、ちゃんと食べてくれているのが分かる。
この国ではパンとお米の両方が主食で、どちらも食べる。叔母さんに聞いたところによると、父さんはお米が好きらしいのでおにぎりを作っている。これは昔、海を渡ってやって来た東の人々の国の文化が混ざったかららしい。
私が生まれた時に、お母さんは亡くなり、その後はまだ独身だった母の妹のマリエル叔母さんがずっと面倒を見てくれていた。だから家事は叔母さんに小さい頃から色々習った。
その叔母も昨年結婚して遠い王都にお嫁に行ってしまった。魔物討伐の遠征に来ていた騎士に見初められたから。ホント、叔母さんは器量良しで、とても優しい人だった。
叔母さんがお嫁に行ってしまった当時は、寂しくて毎日泣いて過ごした。
その叔母さんがよく私に言っていたのが、
「どうしてこの子はこんなに怖がりなのかしら?食も細くて心配だわ」
本当に私は怖がりで、少しのことでも怖がってビクビクするので、いつも叔母さんは心配してくれていた。
『気が弱くて怖がりで、すぐに泣いて、痩せっぽちでみっともない』
これは私の大嫌いな、近所に住む意地悪なリノによく言われた言葉。
確かに痩せているし、髪の毛だってミルクティーみたいな中途半端な色で色艶がないけど叔母さんは、
「優しい色ね、しっかり食べて栄養がつけば皆が羨むような素敵な髪になるわよ。貴女のお母さんと同じ色だわ」
そういってくれた。
私は今九歳。めちゃくちゃ気が弱くて、泣き虫で、痩せっぽちだ。
来年からは町唯一の学校で、3年程読み書きや計算を習わなければならないのがとても憂鬱。
といっても、授業は午前中のみで、週三日程だけど・・・。
この国では成人は15歳で、それまでに誰でも働く事が出来るようにするため、二年前にそういう決まりが出来たらしい。今代の王様が決められたそうだ。仕事は見習いとして十三歳から働くことができる。
だけどこれは私の心に重くのしかかっている案件だ。
というのも、同じ通りの雑貨屋の息子リノに、今までずっといじめられて来たので、学校に行くとどうしても顔を合わさなければいけなくなるから嫌なのだ。そんな怖いことは無理。
小さい頃から、目に触れる場所にいると突然突き飛ばされたり、川に落とされたり、手をいきなり掴まれて投げ飛ばされたり散々な目に逢って来た。
川に落ちた時には川底の石で頭を打って怪我して気を失ってしまい、どうやらリノに背負われて家まで連れて帰られたらしいけど覚えていない。そのことがトラウマになって少しでも家の外に出るのも恐ろしくなった。
リノは私以外には礼儀正しく、綺麗な金髪の子供だったので、皆、彼の言うことを信用する。
彼は本当に田舎町には珍しい美しい金髪に整った容姿を持っていた。
金髪碧眼というのは貴族に多く、庶民には少ない。
私が気を失っている間に、なぜだか私が足を滑らせて川に落ちた所にリノが通りがかり助けてくれた事になっていた。
「まあラム、リノ君が通りがかってくれて本当に良かったわね」
叔母さんにそう言われても、気が弱く情けない私には何も言うことが出来なかった。
彼は私にだけ無愛想で、いつも悪意のある目つきで私を睨んでくる。それも他の人にバレない様に。どうしてそんなに私の事を嫌うのか全く分からない。
家から出て一人でいると、何故か必ずリノに出会うので外に出なくなった。なのに学校で一緒だなんて耐えられない。どんな意地悪や暴力を振るわれるかと思うと怖くて仕方なかった。
父さんが私に無関心で、ほとんど家に居ずに工房に籠っていることをいいことに、これまで私は家に引きこもっていた。叔母さんが居なくなってからはますます引きこもりは酷くなる一方だった。
買い物は道を挟んだ向かい側に衣料品店と青果店と肉屋さんがあるので、買い物時はわき目も振らずに最短距離で済ましてすぐに家に戻るようにしていた。
私を可愛がってくれていた叔母さんは遠くに行ってしまったし、父さんは同じ家に住んでいるのに隣のおじさんよりも遠い存在だ。
だったら、叔母さんから聞いた事のある王都とは逆方向の山をひとつ超えた場所にある女の人ばかりの修道院に逃げればいいと思った。そうだそうしよう。そう決めると心が少し軽くなった。
どうして叔母さんがその修道院の話を私にしたのかというと、叔母さんの仲の良かった女友達が修道院に入ったという話を聞いたからだ。親が持って来た結婚話が嫌で修道院に逃げたのだという話だった。たった一人で山を越えてたどり着き、叔母さん宛てに手紙が届いたそうだ。心穏やかに今は過ごしているという内容だった。その話を聞いた時、とても羨ましかった。
私も心穏やかになりたい。そう思った。
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