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第一章 異世界に降り立つ!

02発目 異世界なんて気楽にGoGo!

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「ここは……」

 意識が戻り視界に映るのは、一面純白の世界。

 俺はさっき、何かにかれたんだよな? 
 病室って雰囲気でもないが、ここはいったいーー

「起きて早々、いきなりの質問で申し訳ないねんけど、君はケンイチくんで間違いないか?」

 そんな考えがまとまるのを待たずに、不意にかかった声の方へと視線を向けると、そこには一人のオッサンが立っている。

「は、はぁ……?」

 突然の質問に俺は、どこか歯切れの悪い声を返す。

 一旦コイツのことは置いておくとして、ともかくここはどこだ? 天国とか地獄って感じでもないし、俺は夢でも見ているのだろうか。

「ここは多分、君が思ってるようなとこやないで」
 
 これが夢じゃないなら、なんだと言うのか。
 勝手に続けるオッサンにそう文句をつけたくなるが、俺は何かに轢かれて、それでそのあと…… そのあと何があったんだっけ? 

 そこから先が何も思い出せない。

「それより君はやっぱり、ケンイチくんで間違いないみたいやね」
「そうですけど、それが一体なんなんですか?」
「いやいや、これは念の為の確認みたいなもんやから、あんまり深く考えんといてや」

 俺の思考が追いつかないままに、勝手に目の前のオッサンは話を進めていってしまう。

「それに今は長々と何言うてもわからんやろうし、単刀直入に用件を言わせてもらうとな、君は異世界転移の対象者に選ばれてん」
「異世界転移……?」
「いや、前の君は死んでもうた訳やし、もしかしたら転生って言うべきなんかな? まあそれはええとして、ともかくそれに選ばれたから、ワシが君をここに呼ばせてもろたってわけやな」

 名乗りもせずにさっきから関西弁で話かけてくる髭もじゃのコイツは、異世界転移だとか、俺が死んだだとか、人のことを馬鹿にしてるんだろうか?

「オッサンとかこいつとか酷いもんやな」
「え?」

 なんて怪訝けげんな様子を隠しもせずに視線を向けていると、まるで心の中を見透かされているかのような言葉がかかる。

「これでもワシは、君らが言うところの神をやらせてもらっとるんやけど…… あ、名前はアズラエルって言うから、好きに呼んでもろても構わへんよ」
「神とか異世界とか、あとその変な関西弁とか、色々突っ込みどころはあるんですけど、そんなことよりナチュラルに心の中読まないでくれませんか?」
「ああ、ごめんごめん。心読むんは辞めるから、これからは普通に話そうか」

 反応を見る限りそういうことで間違いないみたいだが、こっちの考えが勝手に伝わるっていうのは気味が悪いので、そうしてくれるとありがたい。

「あと言うてなかったけど、関西弁使うとるのは、これやと人間側からも話しやすいって聞いてやってるだけやから、気にせんとってな」
「誰ですかそんなこと言ったのは…… まあ別に、どうだっていいですけど」

 変に重々しい空気で話されても困りはするが、それでも関西弁はおかしいだろ……

「にしても、こんな状況でヤケに冷静やの」
「今はそんな元気もないですし」

 まあこの自称神…… アズラエルさんとやらの言ってることが本当だとしても、そもそも今は神だの異世界だの何だの言われて気分が乗るような精神状態でもないし、慌てる気にもなれない。

「それよりも、異世界転移ってのはなんなんですか?」
「今時の若者やのに異世界転移も知らんのかいな? この前に連れてきた子は、異世界転移ってワシの話聞いたら喜んどったんやけどな」

 確かに死ぬ前がもっと気楽なものなら、俺もそんな風に楽観的になれたのかも知れないが、死ぬ直前があれでは、喜ぶものも喜べない。

「いや、異世界転移自体は大体わかるんですけど、話の流れが掴めないんですよ。どうして俺が選ばれたのかとか、そもそも異世界に行って何をするのかとかが」
「理由とかやって欲しいことは特にないよ。ただ単純に不幸な死に方して可哀想やなって思った子らに、ワシがもう一回機会をあげとるだけやから」

 可哀想な人間にもう一度機会を与える……

「そんな慈善活動みたいなことをしてるんですね」
「ワシにとっての神の存在意義の本質ってのは、そこにあると思っとるからな」

 喋り方さえ除けば、この髭もじゃの見た目も理念も、なんだか逆に不振にも思えるぐらい神らしい神だ。

「それに、そんな気分落とさんでもええやないか」
「そんな訳にもいきませんよ……」
「いやな、君は前の世界で色々と悩みごとあって、それが死ぬ間際に一気に溢れて押し寄せてきたからそんな悲観的になっとるけど、実際のところもうその悩みからは解放されてるんやで?」

 言われてみればそうなのかも知れないが……

 いやしかし、異世界に行くからといって俺のこのコンプレックスは変わらないし、悩みから解放された訳でもないはずだ。

「……そう言うなら、俺のこの顔とか声とかも、どうにかしてくれたりするんですか?」
「いや、それかて君がこれから行く異世界なら些細な問題やと思うで? まあ、一応やれることやっといたるけど」

 なんて思ってはいたが、それもなんとかしてくれると言うのなら、もう悩む必要もないのか……?

「それに、君が次行く予定の世界は、元おった世界と違って祈祷プレイスキルっていう概念もあるねん。それがごっつおもろいと思うで」
「スキル…… それはちょっと、面白そうですね」
「そうそう、もう吹っ切れてプラスに考えようや!」

 こんな話を聞いていると、なんだか終わった話で悩んでいたのが、馬鹿らしくなってくる気がしなくもない。

 俺はこれから第二の人生を、もっと楽しい世界で過ごせるっていうんだから、これ以上のことはないと言ってもいいんじゃなかろうか?

「しかも特典として、向こうの言語を違和感なく話したり書いたりできるようにしといたるし、なんなら好きな系統の祈祷を最初から全部マスターできるオマケ付きやで」

 それにそこまで手厚くしてくれるなら、異世界で生きていくうえで困ることもないように思う。

「ほんでこの祈祷ってのは、ホンマやったら一朝一夕で手に入るもんちゃうねんけど、それを一種類とはいえ完璧に修得させたる言うてんねんから、破格やとは思わんか?」
「確かに凄いですね……」

 しかも、聞くだけでわかるチート能力もくれるらしい。

「どや、楽しみなってきたやろ?」
「はい……!」

 なんだかすっかりペースに乗せられている気もするが、それでもそんな風な話を聞いたら、興奮するに決まっているだろう……!

「それなら早速なんですけど、使えるようにしてくれる祈祷がどういうものか、教えてもらえませんか?」
「ドラ○エはやったことあるかな? 大体あんな感じのRPGの呪文みたいなんを想像してくれればええんやけど」

 RPGなら昔はよくやっていた。

「なるほど…… なんとなくわかりました」
「ほな良かったわ」

 つまり祈祷というのは、炎で攻撃したり、回復したりと、そういった類のものらしい。

「それで、オススメとかはあるんですか?」
「皆んながよく選ぶのは炎系と雷系、あとは風系とかの攻撃系祈祷やな」
「王道なやつですね」
「まあ、実際に見て選んでもらおうか」

 そうやって話していると突然、目の前に画面のようなものが現れる。
 

【Lv】 1
【HP】40/40 
【MP】25/25

【攻撃力】低
【耐久力】低
【身体能力】並
【危機察知】並
 
【身体状況】外傷、状態異常等なし
【プレイスキル】なし
【スキルポイント】なし

【固有スキル】なし
【パッシブスキル】なし


 これはステータスウィンドウだろうか。そこには俺のものらしきレベルや、HP,MPなんかについて書かれている。

「こんなところもRPGみたいな感じなんですね」
「いやいや、これは君らにもわかりやすいようにそう見せてるだけで、本来はそんなもんないで」

 ないとは一体どういうことか、それを聞こうと口を開こうとしたのだが、それより先にアズラエルさんは続ける。

「向こうではそもそも、レベルとかHP,MPなんて概念もなくて、祈祷もこんな風に神から授かったり、レベルアップしてスキルポイント振り分けてって感じで修得する訳でもないし、ステータスウィンドウなんかもないねん」

 つまり、俺にもわかりやすいよう、こうやって表示されているという訳らしい。

「親切なんですね」
「せやろ」

 そんな話を聞きながらに、ウィンドウの右側に目を移すと、そこには大量の文字が並んでいる。
 炎系、氷系、雷系、治癒系…… 色々な祈祷について書かれているが、ここから選べと言うことのようだ。

「それで、やっぱり君も王道のがええか?」
「いや自分は、もっとこうマニアックなのを」
「そらなんでよ?」

 炎とかも捨て難くはあるが、せっかくなら誰も使わない様なものを極めてみたい。

「前の世界だと俺は色々と中途半端で、そのせいで余計悩みを抱えることになったとも言えますから、この際もう色々とれまくって、新しい世界を楽しんでやろうかなと」
「なるほどな」

 あと王道な系統を選ぶのは、なんか日和ってる感じがして嫌だし。

「あ、これとかどうなんですか?」
「これって言うと、自壊祈祷アポトースのことか?」

 目についたのは自壊祈祷、なんだか響きがカッコよくてつい気になってしまった。

「そうです。自壊って物騒な名前がついてるぐらいですし、何か面白い効果もあったりするんですか?」

 それに、他の祈祷が大地や海といった自然への祈りを発動条件としているところに対して、アポトースの『己自身の衝動に祈れ』って文言には、眠っていた厨二心が惹かれてしまう。

「いやいや、こらあかんわ」
「どうしてです?」

 だがアズラエルさんは、深く話すこともせず俺の提案を即却下した。

 しかし、理由も聞かずに引き下がるわけにはいかない。

「これは自壊って書いてある通り、使った本人が自傷受けたり、MPを大量に消費させられたり、なんならレベルを消費したりするもんもある、中々危ない代償を前提とした攻撃祈祷やねん」

「代償ですか……」
「そうや、それに代償のデカさによって一発の威力も決まってくるから、最初の低いステータスやと思っとるより威力も出やんし、これを選ぶってのはちょっと勧められへんな……」

 確かに、話を聞く限りあまり勧められたものでないのはわかる。

「今まで選んだ人はいないんですか?」
「流石におらんわ」

 けど、今まで誰も選んでないってなんか良くない?

「これって、一撃の威力はデカいんですよね?」
「そら代償払ってまで行使するもんやからな。レベルも上がればそれに従って凄いもんなるよ」
「それならこれがいいです」
「んなアホな!」

 アズラエルさんは、先の忠告を無視したそんな俺の言葉に驚愕している。

「俺は本気ですよ」
「ほんまにええんかいな?」

 けど、誰も選んだことのないものなんて、正に王道から逸れていていいじゃないか。

「本当にそれでいいです。最後にあるスキルの『?????』って部分も気になりますし、それも直ぐに使えるっていうなら浪漫ロマンがあっていいじゃないですか!」
「まあ、君がええなら構へんけど……」

 俺は前の世界ではバ美肉やってたぐらいには変な人間な訳で、これぐらいは俺にとって変なことのうちにも入らないだろ。

 まあ何よりデメリット付きでも、最強の一撃なんて打てたらカッコいいしね!

「もう変えられへんし、後悔しても遅いで?」
「大丈夫なんでお願いします」

 その言葉を聞いたアズラエルさんは、渋々といった様子で俺の額に人差し指を置いて何かを呟く。

自壊祈祷アポトース、自己に対する祈りを修得マスターしました』

 すると、それと同時に頭の中に声が響いた。

「ほら、もう使えるようなったで。見たいときはステータスオープンって言うか、それか頭の中でそれを唱えるかしたら、さっきみたいにステータスが見れるようになるから、一回自分で開いて確認してみたらええよ」
「えっと、ステータスオープン……?」

 身体を包み込む光、頭の中に流れた声が聞こえたその直後、言葉を発してみると、目の前にさっき見たステータスウィンドウが現れる。

 えっと習得してるかの確認だから、祈祷の項目は……
  

【プレイスキル】なし


「あれ、変わってませんよ?」
「違う違う。そこやなくて、その下に固有スキルっていう欄があるやろ」

 言われて画面の下側に目をやると、さっきまでは無かったはずの一つの文字列が目に入る。


【固有スキル】自壊の極致アポトーサー


「自壊の極致?」
「そうそれや。気になるっていうなら、そこを触ってみるなり、開けって頭の中で考えるなりして確認してみたらええ」

『固有スキル・自壊の極致の詳細を確認しますか?』

 言われた通りにウィンドウに表示されるスキルの詳細を想像した瞬間、先程聞いた声が、また頭の中で流れた。

 とりあえず「はい」っと

『以下のスキルを、特殊条件等を無視して発動可能です』

【第一祈祷】自傷祈祷・フォーサラー
【第二祈祷】 消魔祈祷・ラッサアール
【第三祈祷】 研鑽消耗・エルプティオ
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 そこには、一定割合のHPやMP、レベルを消費することで発動する様々な祈祷について書かれてはいるが、その威力や詳しい内容なんかは、とりあえず向こうに着いて実際に試してみればいい。

 それより今気になるのは、あの最後の祈祷

「それで気になってた『⁇⁇?』は何やったんや?」
「アズラエルさんも知らないんですか?」

 そう思い下の方に目をやっていると、アズラエルさんから声がかかる。

 聞くにこの人…… じゃなくて神様も知らないらしい。

「そら誰も選んでこやんかったから、隠されとる項目を見ることもなかったし、祈られる側のワシらには祈祷なんて無用の長物やからな」
「なるほど」
「な? まあそれはええからワシにも教えてや」

 言われてみればわかる。
 それで一番下の項目に書いてあるのは……

「『魔力解放・ビッグバン』らしいです」
「えらいヘンテコな名前やな」
「ですね」
「ほんで、その効果はどんなんや?」

 ビッグバンなんてネーミングは、他と比べても若干チープな気もするが、しかし名前よりも大切なのは何よりその内容、効果にある。

「MPを全て消費し、その消費量に応じた大爆発を発生させるってことらしいです」
「他にはなんもないんか?」
「みたいですね」
「なんか想像しとったよりショボい気がするような…… いや、ワシはそういうのも嫌いやないで、うん」

 このスキルが実際にどんなものかはわからないが、MPを使い切って攻撃するだけなら確かに若干期待ハズレかも知れない。

 まあそれでも、今の俺はそんな多少のマイナスの感情を消し去るほどの胸の高まりを感じている。

「とりあえず祈祷も修得してもらって、ここでやってもらうことも済んだ訳やから、そろそろ行ってもらおうかな」
「はい!お願いします!」
「やっぱり、楽しみか?」
「そりゃあ勿論!」

 なぜって、これから俺は悩みも何もかも忘れて異世界に新しい人生を始めに行くんだから!

「ほな、長生きできるよう…… やなくて、楽しい人生を送れるように祈っとるわ!」

 なんだか不吉な言葉が聞こえたた気もするが、まあ多分気のせいだろう。

「達者でなぁ……」

 どんどんその声は遠くなっていく。

 こうして俺は、新しい世界に足を踏み入れることとなった。




『パッシブスキル・過剰増強オーバーエンハンスを修得しましたーー』
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