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第一章 異世界に降り立つ!
05発目 異常発生!WARNiNG!
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「なんだ、変な服に隠れててわからなかったけど、脱いでみたら思ってたより可愛らしい女の子……」
俺の体を見つめながら、エレーヌさんは一人呟く。
「はは、は……」
その言葉に、思わず喉から息が漏れてしまった。
「あ、ごめんなさい。そういうの気にしてましたか?」
「いや、そういう訳じゃないんですけど……」
「それならよかったです」
そう言って水場へ歩いていく彼女。
気になる気にならないというより、女の子……?
俺って女の子だったのか……
いや待て、そんなはずがない、少なくとも何か原因があってこうなってるはずだ。
「ほら、早くこっちで水浴びしましょうよ!」
それを突き止めようと頭を回転させつつ、声をかけてきた彼女に返事をしようとしたその直後ーー
「……」
眼前に幕が降りるよう、視界が黒に染まった。
---
目を覚ましたのは薄手の布団にやや硬いベットの上。
額に濡れたタオルが置かれているあたり、倒れた俺をエレーヌさんが介抱してくれたのだろうが……
「何回ぶっ倒れれば気が済むんだよ……」
窓の方へ目をやれば、差し込んでくるのは薄い月明かり、既に日は沈んでしまっているらしい。
異世界に来てからは起きてる時間より倒れている時間の方が長いように思うが…… まあ命があるだけマシだと考えるべきか。
「これが俺か……」
そんな風に思いながらベットから腰を上げ、隣にあった鏡台で自分の姿を目にする。
そこに映るのは、丸い目に大きくて少しグリーンの入った瞳、小さな鼻と赤みがかった薄い唇、そして無造作にボサついたやや長めの黒髪…… とまあ、若干幼さを感じさせるような気もするが、ほとんど元のモノと変わっていない俺の顔。
それよりも違和感を感じるのは、以前よりもどこか丸みを帯びつつも華奢になっている身体のほうだ。
『過剰増強・身体の重要器官と引き換えに付与されるパッシブスキル』
起きてからほとんど時間は経ってはいないが、簡単になんでこんなことになったのか考えてみると、やはりこのスキルが妙に引っかかる。
思うにこの重要な器官ってのは、俺のナニのことを言ってるんじゃないだろうか。
でもなんでだ?
異世界に来たら男はもれなく没収って訳でもないだろうし、少なからず何かの原因はあるはずでーー
って、ちょっと待てよ……
そう言えば、アズラエルに俺の容姿とか声について聞いたとき、アイツはどうにかするって言ってたはずだけど……まさかそれが俺からもぎ取って女にすりゃ万事解決なんてことじゃないよな?
「あのクソジジイ……!」
ほんとに何が幸せを願ってるだ。
普通にあり得ないだろ!
次会ったら引っ叩いてやろうと思っていたが、こりゃそれだけで済ませる訳にはーー
「起きたんですね」
「あ、はい。おかげさまで」
と、頭の中でアズラエルをめちゃくちゃにしてやっているところに、エレーヌさんから声がかかった。
「まったく、驚かせないでくださいよ。せっかく少しは仲良くなれたと思ったのに、急に倒れてこんな時間まで目を覚まさないんですから、もう駄目なのかと思いました」
「いや、迷惑かけて面目ないです」
「迷惑なんて思ってないです」
家に招いてもらった上に、こんな風に介抱までしてもらうなんて、本当にこの人がいなければ俺はもう死んでてもおかしくないってんだから、感謝してもしきれない。
「目が覚めてくれたなら、それでいいんですよ。もしこれでまた、私の前で誰かがどうにかなったりしたら……」
「また?」
しかし見ず知らずの俺にここまでしてくれるというのは、良い人だとは言っても、どこかいき過ぎている気もしなくはない。
それに、またって言うのはいったい……
「……私には、歳は多分あなたと同じくらいの、一緒に暮らしていた妹がいたんです」
彼女は一人でに語り始める。
「私も妹もまだ赤ん坊で何もわからなかった頃に、両親は魔獣に襲われて死んでしまったらしいんですけど…… そんな私達をこの村のみんなは大切に育ててくれて、大きくなってからはずっと、この家で二人楽しく過ごしていたんです……」
暗い話になるだろうし、このまま黙って聞いておこう。
「だけど半年ぐらい前、シナの森の近くに薬草を取りに二人で出かけたそのとき…… 私が守れなかったばかりにあの子は……」
なんとなく話は見えたが、やはりそう言った類の話のようだ。
「……今日あの光を見て森に行って、そこであなたを見つけたとき、あり得ないのはわかってるんでけど…… それでも、もしかしたらあの子なのかもって、そんな風に思って放っておけなかったんです」
つまり、エレーヌさんは、亡くなったらしい妹の姿を俺に重ねているということか……
それなら、家に招いてくれたり、こうやって介抱してくれた訳も理解できる。
「それでこんなに、優しくしてくれたんですね」
「妹の代わりみたいにされたって、嫌ですよね…… 暗い話をしてごめんなさい」
確かにこの状況、俺の存在は、彼女からすれば偶然には思えないだろう。
それに俺は記憶をなくしてるってことにもしているし、仮に逆の立場だったら、俺だってそんな風に信じたくなる。
「全然嫌なんかじゃないですよ。むしろ……」
「……?」
「なんだか、自分にお姉さんができたみたいで嬉しいです」
「ほんとですか?」
「うん! お姉ちゃん!」
妹と俺を重ねているというのなら、美少女Vtuberとして変態どもを相手にしていた俺の「お姉ちゃん」呼びは聞くだろう。
今は俺のことを本当の妹のだと思っていいんだぜ…… って、あれ?
「…………」
「……なんちゃって」
なんだかあんまり刺さってないような。
「……っ!」
喜んでくれるかもと思ったが、流石に空気が読めていなかったのだろうか、目尻に涙を浮かべながら、彼女は部屋を足早に去ってしまった。
「変なこと言っちゃったかな……」
---
窓から差し込む光で目が覚め、重いまぶたを上げると、直ぐにステータスが目に入ってきた。
【Lv】 46
【HP】178/178
【MP】 90/90
【攻撃力】やや高
【耐久力】やや高
【身体能力】高
【身体状況】外傷、異常等なし
【プレイスキル】なし
【スキルポイント】45
【固有スキル】自壊の極致
【パッシブスキル】過剰増強
昨晩、エレーヌさんが部屋を後にしてから俺は、ステータスの確認や今ある固有スキルの使い道について軽く考えていたのだが、どうやらそれを開いたまま、疲れに任せて途中で眠ってしまったようだ。
そんな開かれたままのステータスを確認すると、まずHPとMPに目がいく。それは一晩寝たら回復するのか、昨日と違い上限まで回復しているのが見て取れるが……
「それより、どうしようかな……」
しかしそんなことは、今は一旦どうでもいい。
昨日は彼女に変なことを言ってしまったせいで、なんだか気まずい雰囲気になってしまったように思うし、どうすればよいかの方が気にかかっているのだが……
普通に声をかけても大丈夫だろうか?
それとも気付かれないうちに家を出てしまった方がいいかだろうか?
「おはよう、レティシア!」
なんて考えていると、扉を元気よく開けてエレーヌさんが入ってくる。
レティシアって…… 俺に言ってるんだよな?
「あ、おはようございます」
「どうしてそんなに固いのよ! 私たちは姉妹なんだから、敬語なんていらないでしょう?」
存外、というよりも想像の何倍も機嫌が良さそうな彼女に意表をつかれてしまった。
「おはよう……?」
「うん、おはよう!」
しかしこれは、本気で俺のことを妹だと勘違いしてしまったのだろうか?
「それじゃあ、朝ご飯もできてるから、早く降りてきて一緒に食べましょう!」
そう言ってさっさと下に降りていってしまったが、このまま流れに任せるのは良くないよな……
彼女には助けてもらったり、行くあてのないところを家に連れてきてもらったりと、色々恩はある。
しかし、俺が妹さんのフリをして相手をし続けるっていうのは、彼女の精神によくない影響を与えてしまいかねない。
自分から昨日あんなこと言っておいてなんだが、ここはしっかりと説明させてもらしかないだろう。
「あの……」
「どうかしたの? レティシア」
そんな風に考えながら階段を降りて、彼女に声をかけたのだが、言い出しづらいな……
「私は、あなたの妹のレティシアさんではなくてーー」
「わかってる」
言葉を言い終える暇もなく、声が返ってくる。
けど、わかってるって一体……?
「わかってるんです、そんなこと……
だけど少しぐらいいいでしょう?」
「……」
「あなたが昨日私にああ言ってくれたのは、一瞬とは言え妹のことを思い出せるようにって、そういう理由なんですよね?」
「はい……」
「ちゃんと、わかってますから……」
「それでも今だけはこんな風に、妹としてのあなたと話をしていたいの……」
本当に俺のことを妹と思い込んでいる訳ではなく、ただそんな風に振る舞って欲しいだけ……
「うん、わかったよ」
「ありがとう……!」
それぐらいであれば俺は、彼女の想いに応える義理はあるはずだ。
「さっ、ご飯も冷めちゃったらいけないし、早速二人で食べましょうか!」
「うわー、美味しそう!」
そう思い、彼女に合わせて直前までの暗い雰囲気を忘れるように、明るく振る舞う。
「そうでしょう? お姉ちゃん、朝なのについ張り切っちゃった!」
しかしまさか異世界に来てまで、女の子のフリをするハメになるとは……
まあ今度は、本当に女の子なんだけどさ……
「ありがとう! お姉ちゃん!」
「はいはい、どういたしまして。
それじゃあ、お祈りを捧げましょうか」
祈りを捧げる、と言うのは、
食前の儀式的なものだろうか?
「天よ、わたしたちを祝福し、またその恵みによって共にいただくこの食事を祝してください」
とりあえず、見よう見まねで続けてみる。
この世界では祈祷って書いてプレイスキルって読むぐらいだし、やはりそういった祈りを大事にする文化らしい。
「はい、じゃあ頂きましょうか」
「はーい!」
実際のところこんな風に食事を摂れるのはかなりありがたい。
異世界に来てからは何も食べれていなかったし、ここでしっかり食べておかないと後に差し支える。
「美味しいよ! お姉ちゃん!」
「あらあら、そんな慌てないで」
俺の演技はちょっと幼すぎる気もするが、まあ彼女はそれで満足してくれてるようだしいいとしよう。
しかしこの食事、少しの野菜が入った薄味のスープに、黒くて酸味の強いパン、あとは少しの付け合わせと、食べさせてもらっておいて失礼だが、あまりいい内容とは言えないだろう。
この食事や村の様子からしても、それほど豊かではなく、苦しい状況だと言うことは伝わってくる。
そんな中でもこうやって俺に色々としてくれるあたり、失った妹への思いは相当強いのだろう。
口では今だけと言っていたが、続けているうちにやっぱり良くない方向にいきそうな気がしてならない。
やっぱり今からでもやめるべきか……
「あの、エレーヌさーー」
「おいエレーヌ、開けてくれ!」
言いかけたその瞬間、玄関の扉が荒々しく叩かれた。
その様子にただ事ではないと感じたのか、エレーヌさんは急いで玄関へと駆け寄って戸を開ける。
「村長じゃない、一体どうしたの? それにその格好……」
扉の先に立っていたのは、村長と呼ばれる初老の男だが、その服はおびただしい量の血に染められている。
「外の騒ぎに気がつかなかったのか? 魔族だよ…… 魔族が来たんだ!」
「なんですって!」
魔族が来た…… と言っているようだが、その言葉に彼女も強い力を込めた言葉を返す。
「あの、一体なにが……?」
「魔獣を放っていた森が消滅したと聞き、戦線を捨ててまで来てみたはいいが、こんな寂れた村一つとは」
状況を理解できない俺のその言葉に返ってくるのは、村長の声でも、彼女の声でもなく……
「ここに神子が現れたわけではないのか」
後ろから胸を貫かれた村長の血飛沫と
「アテが外れたな」
不気味な気配を帯びる一つの声だったーー
俺の体を見つめながら、エレーヌさんは一人呟く。
「はは、は……」
その言葉に、思わず喉から息が漏れてしまった。
「あ、ごめんなさい。そういうの気にしてましたか?」
「いや、そういう訳じゃないんですけど……」
「それならよかったです」
そう言って水場へ歩いていく彼女。
気になる気にならないというより、女の子……?
俺って女の子だったのか……
いや待て、そんなはずがない、少なくとも何か原因があってこうなってるはずだ。
「ほら、早くこっちで水浴びしましょうよ!」
それを突き止めようと頭を回転させつつ、声をかけてきた彼女に返事をしようとしたその直後ーー
「……」
眼前に幕が降りるよう、視界が黒に染まった。
---
目を覚ましたのは薄手の布団にやや硬いベットの上。
額に濡れたタオルが置かれているあたり、倒れた俺をエレーヌさんが介抱してくれたのだろうが……
「何回ぶっ倒れれば気が済むんだよ……」
窓の方へ目をやれば、差し込んでくるのは薄い月明かり、既に日は沈んでしまっているらしい。
異世界に来てからは起きてる時間より倒れている時間の方が長いように思うが…… まあ命があるだけマシだと考えるべきか。
「これが俺か……」
そんな風に思いながらベットから腰を上げ、隣にあった鏡台で自分の姿を目にする。
そこに映るのは、丸い目に大きくて少しグリーンの入った瞳、小さな鼻と赤みがかった薄い唇、そして無造作にボサついたやや長めの黒髪…… とまあ、若干幼さを感じさせるような気もするが、ほとんど元のモノと変わっていない俺の顔。
それよりも違和感を感じるのは、以前よりもどこか丸みを帯びつつも華奢になっている身体のほうだ。
『過剰増強・身体の重要器官と引き換えに付与されるパッシブスキル』
起きてからほとんど時間は経ってはいないが、簡単になんでこんなことになったのか考えてみると、やはりこのスキルが妙に引っかかる。
思うにこの重要な器官ってのは、俺のナニのことを言ってるんじゃないだろうか。
でもなんでだ?
異世界に来たら男はもれなく没収って訳でもないだろうし、少なからず何かの原因はあるはずでーー
って、ちょっと待てよ……
そう言えば、アズラエルに俺の容姿とか声について聞いたとき、アイツはどうにかするって言ってたはずだけど……まさかそれが俺からもぎ取って女にすりゃ万事解決なんてことじゃないよな?
「あのクソジジイ……!」
ほんとに何が幸せを願ってるだ。
普通にあり得ないだろ!
次会ったら引っ叩いてやろうと思っていたが、こりゃそれだけで済ませる訳にはーー
「起きたんですね」
「あ、はい。おかげさまで」
と、頭の中でアズラエルをめちゃくちゃにしてやっているところに、エレーヌさんから声がかかった。
「まったく、驚かせないでくださいよ。せっかく少しは仲良くなれたと思ったのに、急に倒れてこんな時間まで目を覚まさないんですから、もう駄目なのかと思いました」
「いや、迷惑かけて面目ないです」
「迷惑なんて思ってないです」
家に招いてもらった上に、こんな風に介抱までしてもらうなんて、本当にこの人がいなければ俺はもう死んでてもおかしくないってんだから、感謝してもしきれない。
「目が覚めてくれたなら、それでいいんですよ。もしこれでまた、私の前で誰かがどうにかなったりしたら……」
「また?」
しかし見ず知らずの俺にここまでしてくれるというのは、良い人だとは言っても、どこかいき過ぎている気もしなくはない。
それに、またって言うのはいったい……
「……私には、歳は多分あなたと同じくらいの、一緒に暮らしていた妹がいたんです」
彼女は一人でに語り始める。
「私も妹もまだ赤ん坊で何もわからなかった頃に、両親は魔獣に襲われて死んでしまったらしいんですけど…… そんな私達をこの村のみんなは大切に育ててくれて、大きくなってからはずっと、この家で二人楽しく過ごしていたんです……」
暗い話になるだろうし、このまま黙って聞いておこう。
「だけど半年ぐらい前、シナの森の近くに薬草を取りに二人で出かけたそのとき…… 私が守れなかったばかりにあの子は……」
なんとなく話は見えたが、やはりそう言った類の話のようだ。
「……今日あの光を見て森に行って、そこであなたを見つけたとき、あり得ないのはわかってるんでけど…… それでも、もしかしたらあの子なのかもって、そんな風に思って放っておけなかったんです」
つまり、エレーヌさんは、亡くなったらしい妹の姿を俺に重ねているということか……
それなら、家に招いてくれたり、こうやって介抱してくれた訳も理解できる。
「それでこんなに、優しくしてくれたんですね」
「妹の代わりみたいにされたって、嫌ですよね…… 暗い話をしてごめんなさい」
確かにこの状況、俺の存在は、彼女からすれば偶然には思えないだろう。
それに俺は記憶をなくしてるってことにもしているし、仮に逆の立場だったら、俺だってそんな風に信じたくなる。
「全然嫌なんかじゃないですよ。むしろ……」
「……?」
「なんだか、自分にお姉さんができたみたいで嬉しいです」
「ほんとですか?」
「うん! お姉ちゃん!」
妹と俺を重ねているというのなら、美少女Vtuberとして変態どもを相手にしていた俺の「お姉ちゃん」呼びは聞くだろう。
今は俺のことを本当の妹のだと思っていいんだぜ…… って、あれ?
「…………」
「……なんちゃって」
なんだかあんまり刺さってないような。
「……っ!」
喜んでくれるかもと思ったが、流石に空気が読めていなかったのだろうか、目尻に涙を浮かべながら、彼女は部屋を足早に去ってしまった。
「変なこと言っちゃったかな……」
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窓から差し込む光で目が覚め、重いまぶたを上げると、直ぐにステータスが目に入ってきた。
【Lv】 46
【HP】178/178
【MP】 90/90
【攻撃力】やや高
【耐久力】やや高
【身体能力】高
【身体状況】外傷、異常等なし
【プレイスキル】なし
【スキルポイント】45
【固有スキル】自壊の極致
【パッシブスキル】過剰増強
昨晩、エレーヌさんが部屋を後にしてから俺は、ステータスの確認や今ある固有スキルの使い道について軽く考えていたのだが、どうやらそれを開いたまま、疲れに任せて途中で眠ってしまったようだ。
そんな開かれたままのステータスを確認すると、まずHPとMPに目がいく。それは一晩寝たら回復するのか、昨日と違い上限まで回復しているのが見て取れるが……
「それより、どうしようかな……」
しかしそんなことは、今は一旦どうでもいい。
昨日は彼女に変なことを言ってしまったせいで、なんだか気まずい雰囲気になってしまったように思うし、どうすればよいかの方が気にかかっているのだが……
普通に声をかけても大丈夫だろうか?
それとも気付かれないうちに家を出てしまった方がいいかだろうか?
「おはよう、レティシア!」
なんて考えていると、扉を元気よく開けてエレーヌさんが入ってくる。
レティシアって…… 俺に言ってるんだよな?
「あ、おはようございます」
「どうしてそんなに固いのよ! 私たちは姉妹なんだから、敬語なんていらないでしょう?」
存外、というよりも想像の何倍も機嫌が良さそうな彼女に意表をつかれてしまった。
「おはよう……?」
「うん、おはよう!」
しかしこれは、本気で俺のことを妹だと勘違いしてしまったのだろうか?
「それじゃあ、朝ご飯もできてるから、早く降りてきて一緒に食べましょう!」
そう言ってさっさと下に降りていってしまったが、このまま流れに任せるのは良くないよな……
彼女には助けてもらったり、行くあてのないところを家に連れてきてもらったりと、色々恩はある。
しかし、俺が妹さんのフリをして相手をし続けるっていうのは、彼女の精神によくない影響を与えてしまいかねない。
自分から昨日あんなこと言っておいてなんだが、ここはしっかりと説明させてもらしかないだろう。
「あの……」
「どうかしたの? レティシア」
そんな風に考えながら階段を降りて、彼女に声をかけたのだが、言い出しづらいな……
「私は、あなたの妹のレティシアさんではなくてーー」
「わかってる」
言葉を言い終える暇もなく、声が返ってくる。
けど、わかってるって一体……?
「わかってるんです、そんなこと……
だけど少しぐらいいいでしょう?」
「……」
「あなたが昨日私にああ言ってくれたのは、一瞬とは言え妹のことを思い出せるようにって、そういう理由なんですよね?」
「はい……」
「ちゃんと、わかってますから……」
「それでも今だけはこんな風に、妹としてのあなたと話をしていたいの……」
本当に俺のことを妹と思い込んでいる訳ではなく、ただそんな風に振る舞って欲しいだけ……
「うん、わかったよ」
「ありがとう……!」
それぐらいであれば俺は、彼女の想いに応える義理はあるはずだ。
「さっ、ご飯も冷めちゃったらいけないし、早速二人で食べましょうか!」
「うわー、美味しそう!」
そう思い、彼女に合わせて直前までの暗い雰囲気を忘れるように、明るく振る舞う。
「そうでしょう? お姉ちゃん、朝なのについ張り切っちゃった!」
しかしまさか異世界に来てまで、女の子のフリをするハメになるとは……
まあ今度は、本当に女の子なんだけどさ……
「ありがとう! お姉ちゃん!」
「はいはい、どういたしまして。
それじゃあ、お祈りを捧げましょうか」
祈りを捧げる、と言うのは、
食前の儀式的なものだろうか?
「天よ、わたしたちを祝福し、またその恵みによって共にいただくこの食事を祝してください」
とりあえず、見よう見まねで続けてみる。
この世界では祈祷って書いてプレイスキルって読むぐらいだし、やはりそういった祈りを大事にする文化らしい。
「はい、じゃあ頂きましょうか」
「はーい!」
実際のところこんな風に食事を摂れるのはかなりありがたい。
異世界に来てからは何も食べれていなかったし、ここでしっかり食べておかないと後に差し支える。
「美味しいよ! お姉ちゃん!」
「あらあら、そんな慌てないで」
俺の演技はちょっと幼すぎる気もするが、まあ彼女はそれで満足してくれてるようだしいいとしよう。
しかしこの食事、少しの野菜が入った薄味のスープに、黒くて酸味の強いパン、あとは少しの付け合わせと、食べさせてもらっておいて失礼だが、あまりいい内容とは言えないだろう。
この食事や村の様子からしても、それほど豊かではなく、苦しい状況だと言うことは伝わってくる。
そんな中でもこうやって俺に色々としてくれるあたり、失った妹への思いは相当強いのだろう。
口では今だけと言っていたが、続けているうちにやっぱり良くない方向にいきそうな気がしてならない。
やっぱり今からでもやめるべきか……
「あの、エレーヌさーー」
「おいエレーヌ、開けてくれ!」
言いかけたその瞬間、玄関の扉が荒々しく叩かれた。
その様子にただ事ではないと感じたのか、エレーヌさんは急いで玄関へと駆け寄って戸を開ける。
「村長じゃない、一体どうしたの? それにその格好……」
扉の先に立っていたのは、村長と呼ばれる初老の男だが、その服はおびただしい量の血に染められている。
「外の騒ぎに気がつかなかったのか? 魔族だよ…… 魔族が来たんだ!」
「なんですって!」
魔族が来た…… と言っているようだが、その言葉に彼女も強い力を込めた言葉を返す。
「あの、一体なにが……?」
「魔獣を放っていた森が消滅したと聞き、戦線を捨ててまで来てみたはいいが、こんな寂れた村一つとは」
状況を理解できない俺のその言葉に返ってくるのは、村長の声でも、彼女の声でもなく……
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