断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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4章 主権奪還

4-14 よみがえった王都

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 王都を修復するのに、一ヶ月かかった。
 魔力に限界があることも一因だが、最大の理由は別である。

 なるべく元通りにしようと思い、王都を知る人たちに色々教わりながらの作業だったからだ。
 一つ何かを作るたび、誰かに突っ込まれる。

「アナベル。柱は木材ではなく、石材でお願いします」

 家を作ると、イザークがそう言った。

「ああ、そっか。燃えやすいと困るもんね。じゃ、こっちの壊れた……時計塔かな?これも頑丈にしておこうか」

「アナベル様、そちらは監視塔にございます!」

 元近衛兵が、ビシッと敬礼した。

「えっ、それならさっき作ったけど」

「異変をいち早く察知できるよう、何基もの監視塔が必要なのです」

「ははあ、なるほど……」

 角度や高さによって、見えやすい部分と見えにくい部分ができるんだろうか。

「監視塔を建てて……そろそろ町の中の壁を直そうかな」

 そう言って、迷路のような壁を修復していると、

「聖女様、壁に装飾は不要です」

 と、侍女長さんが一言。

「でも、目印になるものがないと迷子になりませんか?」

「なりますが、それで結構です。敵兵を混乱させるためのものですから」

「じゃあ、町の人が迷子になったら……?」

「それを見つけるためにも監視塔があるのですよ」

「なるほど!」

 こんな調子で作業は進んだ。
 中央の王城を直す時は、さらに細かく指示が入ったので、一朝一夕ではとても終わらない。

 それでも人の手で行うよりは、何百倍も早い。

 建物を完成させるたび、みんなは目を見張った。
 修復が進むにつれて、その目に涙が浮かんだ。

「また、この風景を見られる日が来るとは……」

 元文官長のおじいさんが、皺だらけの手を静かに合わせる。
 私は照れくさくなって肩をすくめた。

「私の感覚でやってるから、前とは違うかもしれませんけど」

「いえ、ファルガランではそういうものですよ」

 市場で売り子をしていたという女性が、微笑んだ。

「敵の襲撃を受けては、作り直す。そうやって続いてきた国なんです」

「……そうなんだね」

 どうりで、みんなの指示が妙だと思った。
 ディテールは細かいのに、ざっくりした町並みについてはほとんど何も言われなかった。

 この人たちにとって、変化は日常の一部なのだ。
 だから、突然現れた次期王妃も、すんなり受け入れてくれたのだろう。


 王城が完成した時、「まずは王子殿下と聖女様が」と勧められた。
 私とイザークは、真新しいお城の中を、二人きりで進んでいく。

「謁見の間も、すっかり綺麗になりましたね」

 イザークは、玉座が二つ──国王と王妃のもの──並んだ部屋を、ぐるりと見回した。

「アナベル、ありがとうございます」

「ん?何が?」

 聞き返すと、イザークはきょとんとして、それから肩を揺らして笑った。

「王都を直してくださったことです。決まっているでしょう?」

「いや、だって、もう二百回ぐらい言われてるから。十分というか……」

「千回言っても足りませんよ」

 イザークは私の髪をなでて、笑うのをやめた。
 ただ、やわらかな微笑みは口元に残っている。

「愛しています、アナベル」

「そ、それももういいから」

「一万回言っても足りません」

「それはさすがに多すぎない?」

「キスをしてもいいですか?」

「なんで!?」

 脈絡がなければ、心の準備をする暇もない。
 とっさにイザークの胸元を押したものの、彼は私との距離を詰めてきた。

「今は二人きりで、ここに子どもたちはいませんから」

 そう言われると、拒否する理由がなくなってしまう。
 私は死ぬほど恥ずかしいのを我慢して、頷いた。

 イザークの唇が、私の唇に重なる。
 少し長いキスが、私の頭をぼうっとさせる。

 イザークは唇を離すと、包み込むように私を抱きしめた。

「これから、忙しくなりますね」

「え……?どういうこと?」

「連続で儀式などを行わなくてはなりません。父の葬儀、戴冠式、アルデリアとの会談。結婚式は後回しでしょうね」

 どことなく不機嫌そうな声色だ。
 対して、私はさらに頭がふわふわしていた。
 
 結婚式。
 そうか、私とイザークは結婚するんだ。

 楽しいことより苦しいことの方が多いだろうけど、それでも、これからはイザークと支え合っていくんだ。

 そう思うと、胸の奥から幸福感が湧いてくる。
 自然と手が動いて、大きな背中を抱きしめ返した。

「イザーク、一緒に生きよう」

「もちろんです」

 イザークの声が、にわかに明るくなった。
 私たちはしばらく抱き合い、手を取り合って城を出た。

  ◇

 それからの日々は、「忙しい」というレベルではなかった。
 
 貴族への挨拶やら、アルデリアとのやり取りやら。
 まだ荒れている地方を視察しては、儀式の流れの暗記……

 頭がおかしくなりそうだ。

 ストレス発散のため、意味もなく精霊たちを呼び出しては、もふもふな体に顔を埋めていた。
 もちろん、精霊たちは大喜びだった。

 結婚式の準備も、完全に作業と化した。

 アルデリアだけでなく、敵対国以外の国にも招待状を送るのだが。
 どの国の誰に何を言ってはいけないだとか、挨拶の仕方はどうだとか……
 城勤めの貴族たちに、散々覚えさせられた。
 
 そして、魔王との決戦に挑むような気持ちで、私は結婚式当日を迎えたのだった。
 
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