断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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4章 主権奪還

4-16 一緒に生きていく

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「ファルガランでは頻繁に軍事演習を行いますし、私自身が国境を視察することもあります。不穏な空気があると報告を受ければ、すぐに出立します。王都にいる方が珍しいかもしれません」

「でも……今は、外国との間に壁が……」

「いつ壊されるかわかりません。それに、侵攻を目論む国があっても、ファルガランの国王軍が近辺にいれば、一時的にでも手を引く場合が多いのです」

 なるほど、と私は心の中で呟いた。
 声が出なかったのは、それなりにショックを受けたからだ。

 イザークがいるなら、王妃の重圧も見知らぬ土地も平気だと思った。
 しかし、彼と毎日顔を合わせることはできない。

 寂しさで、心が少し重くなる。

 とはいえ、今さら後戻りはできない。
 する気もないが。

 それなら前を向くしかない。

「わかった。ファルガランの人たちって大変なんだね。何も知らないで恥ずかしいよ」

 私は笑顔を浮かべて、肩をすくめた。
 イザークが目を丸くした隙に、私はテーブルへ少し身を乗り出した。

「大変だから、一緒にご飯を食べられる時間も貴重なんだよね。それならたくさん話をしたりして、お互いに向き合って過ごそう。そういうことでしょ?」

 寂しさが消えたわけではないが、これからのことを口にすると、うつむかずにいられる気がした。

「……ええ」

 イザークは、かすかに瞳を潤ませて微笑んだ。

「ありがとうございます」

「何もしてないよ」

「それでも、お礼を言いたいのです」

「いいってば」

「あなたを愛しています」

「……スープが冷めるから食べようか!」

 私は、トロトロに煮込まれたカブを頬張って、ドキッとしたのをごまかした。
 とはいえ隠せていなかったらしく、イザークはまた笑っている。

 私、こうやって一生遊ばれるのかな。
 それでもいいか。
 笑わなかったイザークが、笑ってくれるなら。

 そんなことを考えつつ、イザークの顔を見る。
 彼は静かに笑みをたたえて、綺麗な所作でスープを食べ終えた。
 そして、私を見つめ返してきた。
 
「アナベル。食後、一緒に来てほしい場所があります」

「どこに行くの?」

「王城の地下です」

「地下って……王族が埋葬されてたよね」

 イザークの父親の葬儀で、私も参列した。

「なんで、そこに行くの?」

「それは後程。まずは食べましょうか、スープが冷めるのでしょう?」

 イザークはそう言って、サンドイッチを食べ始めた。
 からかっているというより、言いにくいから濁した、という空気を感じる。
 私は「そうだね」とだけ答えて、食事を再開した。

 食後、私はイザークの腕を取り、エスコートされるようにして地下へ向かった。
 
 この数カ月で、ファルガランは急激に変化した。
 国王夫妻の親密さを見せることで、臣下の不安を拭えるからと、イザークに提案されたのだ。

 ……本当は、イザークがくっつきたいからだろうけど。
 それはお互い様なので、何も言わずに提案を受け入れた。

 燭台を掲げ、地下への階段を下り切ると、急に空間が開ける。
 床には棺が整然と並んでいる。

「父の棺がある場所へ、行きましょう」

 イザークに示された方を、私は見た。
 そして首を傾げた。
 
 前王の棺は、ほかの棺から少し離して据え置かれたはずだ。
 なのに今は、その隣に、二つの棺が増えている。

 寄り添う三つの前に立った時、私はちょっとビクビクしながら尋ねた。

「ねえ……棺、増えてない?」

「はい。母と兄のものです」

 頷くイザークを、思わずサッと見上げた。
 彼は棺に目を落としたまま、また口を開いた。

「レオナルド陛下が、アルデリアにあった墓を開き、運ばせてくださったのです」

「そうだったんだ……」

「ええ。私の家族が皆、ここに揃いました。それで……お願いがあるのです」

「何?」

「ファルガランの王妃には、城を守る役目があります。あなたには、家族を……この城を守ってほしいのです」

「私が、ここを?」

 私は、三つの棺へ目を落とした。
 イザークが私の肩を抱く。

 私を守るようでもあったし、彼自身の不安をごまかすようでもあった。
 
「私は、外敵からこの国を守ります。あなたは内側からこの国を支え、城を安定させてください。お願いできますか」

「……私が国の中心部を守れば、イザークは外国の動きに集中できるってことだね」

 アルデリアにいた頃から、王妃はそういうものだと知っていた。
 ただ、改めて口にされるとより重圧を感じる。

「そうですね。あなたには負担をかけてしまいますが……」

「大丈夫」

 私はイザークに向き直り、ぎゅっと抱きついた。
 イザークが息をのむ気配がする。

「イザークがファルガランを守ってくれるって知ってるから、頑張れるよ。だから心配しないで」

 肩の荷は増えたのに、心はむしろ軽かった。

 私が頑張ったら、イザークも頑張れる。 
 イザークが守ってくれるから、私も守ろうと思える。

 抱きしめ返される腕の力を感じる。
 「私たちは一緒に生きていくんだ」という、たしかな実感が全身を満たしていた。




  ◆◆◆◆◆◆◆◆



 最終話(長いので2話に分けました)の投稿がやや遅れてしまい、申し訳ありません。
 お読みいただき、ありがとうございました。
 

「断罪直前から力技で逆転したら、どういう話になるんだろう?」


 と思って書いてみたところ、ひたすら慌ただしい話になりました。
 お疲れ様でした。本当に。


 次はもっと、もふもふした話を書きたいです。

 もしくは連発ざまぁもの。
 5~10話ごとに1人消えるような。

 あとは、家族愛が育っていく裏で生死に関わるサスペンスが進んでるとか。


 ……極端ですね。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

yuta
2025.09.13 yuta

始めから 設定/ハード な様子ですが、読んでて面白いです。
しかし… アナベルがいい奴過ぎる〜そしてリリィの軟弱さ!どうにかして〜

2025.09.13 山河 枝

ご感想ありがとうございます。重い世界観ですが、楽しんでいただけて嬉しいです。

アナベルいい奴ですか!書きながら「ドタバタしてるな」としか思ってなかったのでよかったです…!

リリィはじれったいですよね汗
彼女も色々と背負ってますので、早く解放してやりたいです。

解除

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