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1章 断罪回避
29 対策を立ててはみたものの
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「アナベル、何だ?リリィがどうかしたのか?」
「うん……昨日、コハクが岩のドームを作ってくれたでしょ?リリィも、あんな感じで壁を作れないかな。ドームというか、筒みたいな」
レオナルドはちょっと首を傾げて、それから「なるほど」と手を打った。
「そこに隠れて、リリィからペンダントを受け取るってことか」
「そうそう!二人分ならサイズも小さく済むだろうし。リリィにできる?」
「大丈夫だと思うよ。魔物が巣から出ないように、事前に壁を作ることもあったから」
そうだったのか。
ゲームでは、いきなりダンジョンに入っていたから知らなかった。
「少し時間はかかるだろうけど……魔物が現れてから襲撃されるまでには、間に合うと思う」
「そっか、じゃあ問題なさそうだね!」
精霊が言うことを聞かなかったら、私からもお願いしてみよう。
ガッツポーズの私とは裏腹に、レオナルドの顔は浮かない。
「でも、不自然じゃないか?マチルダは絶対怪しむよ」
「それは、『大聖堂の魔物は凶悪だから、まず防御を強化する』ってことで。精霊の攻撃もすさまじいでしょ?防壁、必要でしょ?」
「たしかに……処刑場でも風がすごかったな。押し通せるかもしれない」
「いける、いける。私がペンダントを着けたら、マチルダたちの前にも壁を作るし。疑問の声が上がったら、『安全第一だ』ってごり押しして!頼りにしてるよ、王様!」
私はレオナルドの背中をバーン!と叩いた。
「痛いって!……まあ、頑張ってみるよ」
お飾りの国王は、まんざらでもなさそうに笑った。
これで大聖堂の戦いも乗り切れるだろう。
……という流れで立てた対策は、ことごとく崩れることになるのだった。
◇
数日後、私は馬車に乗り、王都を出発した。
ほかの馬車も一緒だけど、私がいるのは一番襲われやすい先頭。
マチルダの指示らしい。
あちこちで魔物を倒しまくったからか、何も襲ってこないけど。
後ろからついてくるのは、レオナルドの乗った馬車。
それを取り囲む親衛隊の中に、ギデオンとエリオットがいる。
ルーク、リリィもそれぞれの家の馬車に乗り、行列に混じっているのだろう。
貴族の馬車を護衛が囲み、騎士の隣には従者が侍る。
今すぐ戦争ができそうだ。
イザークはといえば、私と同じ馬車に乗っている。
今回も、「アナベルがリリィのペンダントを奪ったら首を斬れ」と命じられているらしい。
マチルダに。
正直、焦ってやらかす可能性はある。
大聖堂では、魔物が思いもよらない場所から出現するのだ。
気をつけないと。
(というか……マチルダのやり方って、『アナベルが本物の聖女だ』って認めてるようなものじゃない?ここまであからさまに私を消そうとするなんて、普通じゃないよ)
気持ちはわからなくもないけど。
マチルダは、かなり歪んでいるものの、リリィを溺愛している。
リリィより目立とうとする私は、邪魔でしかないだろう。
そうでなくても、リリィに殺害予告が送られてきたのだ。
本物の聖女はアナベルだ、という噂のせいで。
娘を守るために、私を消そうと躍起になるのも無理はない。
(……あれ?でも、アナベルが本物の聖女だって噂される前から、アナベルを処刑したがってたよね)
以前、処刑場で浮かんだ仮説が、再びよみがえってくる。
(やっぱりマチルダは……自分が聖女じゃないってわかってた?自分の姉と、その娘のアナベルが本物の聖女なんだって、最初から気付いてたの?)
マチルダがそう考えていたのなら、一連の行動は不自然じゃない。
アナベルが生まれたその時から、殺したくてたまらなかっただろう。
すべて私の妄想だけど。
妄想だけど……妙にしっくりくる。
とはいえ、真偽を確かめる手段も、マチルダの嘘を証明できるものも、何一つ持っていない。
じれったいけど、まずは目の前のことに集中だ。
私はイザークに話しかけた。
「ねえ、イザーク。私も頑張るけど、大聖堂って危ないからさ。リリィのことも気にかけてあげてくれない?」
「私はアナベル様の監視役ですが」
「それはわかるけど、聖女を守るのも大事でしょ?」
「聖女はアナベル様なのでは?」
だからそんな格好をしているのだろう、と言いたげに、イザークが私の服を見つめる。
私もつられて下を見る。
うつむいた拍子に、宝石を連ねた耳飾りが、シャランと揺れた。
私の身を包むのは、純白のローブだ。
レースが幾重にも重なり、縫い付けられた真珠がやわらかく光る。
これもマチルダが用意したらしい。
全身がキラキラと煌めいて、いかにも魔物に狙われやすそう。
一体、どこの聖女様なんだ。
「……まあ、聖女なんだけど」
「そうですね」
イザークは、話は終わった、とばかりに窓の外を見た。
「ちょっと待ってよ。リリィも聖女ってことにしないと、あの子が危険なんだって……それより、イザークの中でどうなってるの?」
「何の話ですか?」
「イザークは、私が本物の聖女だから守ってくれるんでしょ?でも、私を殺せっていう命令には従うんだよね。矛盾してない?」
「しているといえば、していますね」
イザークは、拍子抜けするほどあっさりと頷いた。
「私個人としては、アナベル様を生かす方が国益になると考えています。ですから処刑には反対です。しかし、私は大罪人の弟。この国に生かされている者です。ですから、最後には……」
淀みなく話していたイザークは、突然黙り込んだ。
そして、両手を握ったり開いたりし始めた。
「どうかした?」
「いえ……私は、王侯貴族の命令に、従わなくてはなりません」
イザークはそう言うと、ひときわ強く拳を握りしめた。
「うん……昨日、コハクが岩のドームを作ってくれたでしょ?リリィも、あんな感じで壁を作れないかな。ドームというか、筒みたいな」
レオナルドはちょっと首を傾げて、それから「なるほど」と手を打った。
「そこに隠れて、リリィからペンダントを受け取るってことか」
「そうそう!二人分ならサイズも小さく済むだろうし。リリィにできる?」
「大丈夫だと思うよ。魔物が巣から出ないように、事前に壁を作ることもあったから」
そうだったのか。
ゲームでは、いきなりダンジョンに入っていたから知らなかった。
「少し時間はかかるだろうけど……魔物が現れてから襲撃されるまでには、間に合うと思う」
「そっか、じゃあ問題なさそうだね!」
精霊が言うことを聞かなかったら、私からもお願いしてみよう。
ガッツポーズの私とは裏腹に、レオナルドの顔は浮かない。
「でも、不自然じゃないか?マチルダは絶対怪しむよ」
「それは、『大聖堂の魔物は凶悪だから、まず防御を強化する』ってことで。精霊の攻撃もすさまじいでしょ?防壁、必要でしょ?」
「たしかに……処刑場でも風がすごかったな。押し通せるかもしれない」
「いける、いける。私がペンダントを着けたら、マチルダたちの前にも壁を作るし。疑問の声が上がったら、『安全第一だ』ってごり押しして!頼りにしてるよ、王様!」
私はレオナルドの背中をバーン!と叩いた。
「痛いって!……まあ、頑張ってみるよ」
お飾りの国王は、まんざらでもなさそうに笑った。
これで大聖堂の戦いも乗り切れるだろう。
……という流れで立てた対策は、ことごとく崩れることになるのだった。
◇
数日後、私は馬車に乗り、王都を出発した。
ほかの馬車も一緒だけど、私がいるのは一番襲われやすい先頭。
マチルダの指示らしい。
あちこちで魔物を倒しまくったからか、何も襲ってこないけど。
後ろからついてくるのは、レオナルドの乗った馬車。
それを取り囲む親衛隊の中に、ギデオンとエリオットがいる。
ルーク、リリィもそれぞれの家の馬車に乗り、行列に混じっているのだろう。
貴族の馬車を護衛が囲み、騎士の隣には従者が侍る。
今すぐ戦争ができそうだ。
イザークはといえば、私と同じ馬車に乗っている。
今回も、「アナベルがリリィのペンダントを奪ったら首を斬れ」と命じられているらしい。
マチルダに。
正直、焦ってやらかす可能性はある。
大聖堂では、魔物が思いもよらない場所から出現するのだ。
気をつけないと。
(というか……マチルダのやり方って、『アナベルが本物の聖女だ』って認めてるようなものじゃない?ここまであからさまに私を消そうとするなんて、普通じゃないよ)
気持ちはわからなくもないけど。
マチルダは、かなり歪んでいるものの、リリィを溺愛している。
リリィより目立とうとする私は、邪魔でしかないだろう。
そうでなくても、リリィに殺害予告が送られてきたのだ。
本物の聖女はアナベルだ、という噂のせいで。
娘を守るために、私を消そうと躍起になるのも無理はない。
(……あれ?でも、アナベルが本物の聖女だって噂される前から、アナベルを処刑したがってたよね)
以前、処刑場で浮かんだ仮説が、再びよみがえってくる。
(やっぱりマチルダは……自分が聖女じゃないってわかってた?自分の姉と、その娘のアナベルが本物の聖女なんだって、最初から気付いてたの?)
マチルダがそう考えていたのなら、一連の行動は不自然じゃない。
アナベルが生まれたその時から、殺したくてたまらなかっただろう。
すべて私の妄想だけど。
妄想だけど……妙にしっくりくる。
とはいえ、真偽を確かめる手段も、マチルダの嘘を証明できるものも、何一つ持っていない。
じれったいけど、まずは目の前のことに集中だ。
私はイザークに話しかけた。
「ねえ、イザーク。私も頑張るけど、大聖堂って危ないからさ。リリィのことも気にかけてあげてくれない?」
「私はアナベル様の監視役ですが」
「それはわかるけど、聖女を守るのも大事でしょ?」
「聖女はアナベル様なのでは?」
だからそんな格好をしているのだろう、と言いたげに、イザークが私の服を見つめる。
私もつられて下を見る。
うつむいた拍子に、宝石を連ねた耳飾りが、シャランと揺れた。
私の身を包むのは、純白のローブだ。
レースが幾重にも重なり、縫い付けられた真珠がやわらかく光る。
これもマチルダが用意したらしい。
全身がキラキラと煌めいて、いかにも魔物に狙われやすそう。
一体、どこの聖女様なんだ。
「……まあ、聖女なんだけど」
「そうですね」
イザークは、話は終わった、とばかりに窓の外を見た。
「ちょっと待ってよ。リリィも聖女ってことにしないと、あの子が危険なんだって……それより、イザークの中でどうなってるの?」
「何の話ですか?」
「イザークは、私が本物の聖女だから守ってくれるんでしょ?でも、私を殺せっていう命令には従うんだよね。矛盾してない?」
「しているといえば、していますね」
イザークは、拍子抜けするほどあっさりと頷いた。
「私個人としては、アナベル様を生かす方が国益になると考えています。ですから処刑には反対です。しかし、私は大罪人の弟。この国に生かされている者です。ですから、最後には……」
淀みなく話していたイザークは、突然黙り込んだ。
そして、両手を握ったり開いたりし始めた。
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「いえ……私は、王侯貴族の命令に、従わなくてはなりません」
イザークはそう言うと、ひときわ強く拳を握りしめた。
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