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1章 断罪回避
19 和解への一歩
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「処刑が延期されたあと……急に不安になったの。アナベルにペンダントを渡したら、私は踏み台にされるんじゃないかって。ごめんなさい……」
「そんな、謝らないでよ。これまで嫌味ざんまいだったんだから、私を信じられなくて当たり前だよ。こっちこそ、今までごめんね」
私が頭を下げると、リリィは意外そうに目を瞬いた。
「……本当に、昔とは全然違うのね」
「そんなに変わった?」
「うん……お茶会の時には、血走った目で私を見ながら、ずっと歯ぎしりをしていたり……」
「それは完全に危険人物だね!」
リリィとルークが怯え、ギデオンとエリオットが警戒するのは当然だ。
レオナルドが私に優しいのは奇跡かもしれない。
処刑が決まった時点で婚約は無効になったけど、私だったらそれより前に逃げ出す。
「ごめん!もう本当、ごめん!」
バネ仕掛けの人形みたいにペコペコしまくった。
そのたび、腕の中のコハクが「ほえ」「ぴや」と鳴く。
「ううん。私も、何となくわかってたの」
リリィは泣き腫らした顔に、ようやく小さな苦笑を浮かべた。
「自分は本物の聖女じゃないんだって。だから、アナベルが『この偽物!』って水をかけてきた時、言い返せなかったの」
そういえばそんなこともあった……
私、めちゃくちゃ最低じゃないか。
「ご、ごめんなさい、リリィさん……そんな最低な奴ですけど、ペンダント、借りてもいいですか?精霊を仲間にしたら、速攻で返しますから……」
ビクビクしながら尋ねると、リリィは静かに頷いてくれた。
ルークが気遣わしげに、リリィへ声をかける。
「それでいいの?」
「ええ。ルークだって、今のアナベルなら大丈夫だと思うでしょ?」
「それはそうだけど……」
まだ心配そうなルークに、リリィは弱々しく微笑んだ。
それから大きく息を吸い込み、ペンダントを首から外した。
「あ、ありがとう!本当にありがとう……!」
拝む私に、リリィがペンダントをかけてくれる。
その様子をギデオンたちは、
「リリィ様がいいと言うなら……」
「たしかに、今のアナベル様は別人のようですし……」
と、言い合いながら見守っている。
ペンダントの宝石が、コハクの頭にポフッと触れた。
次の瞬間、腕の中のコハクが「ぴぃ!」と声を上げる。
「これでペンダントに入れる!聖女さま、戦うときもいっしょ?いっしょ?」
大喜びのコハクへ、リリィは寂しげに笑いかける。
「精霊様、よかったですね。これからは戦う時も、なるべくペンダントをアナベルに渡します」
「えっ……本当に⁉︎」
目を見開く私の胸元で、コハクが手足をパタパタさせる。
「うれしい!ありがと、リリィ!」
それからぴょんとジャンプをすると、
「聖女さまの近く、スッキリする~。しあわせ~」
と、うっとりしながらペンダントの宝石に入っていった。
ナギとコハクの歓声が、ペンダントから小さく聞こえた。
「精霊様に、初めて『ありがとう』って言われた……」
またリリィが涙ぐむ。
今度は頬を赤らめている。
感激しているらしい。
ゲームでは、無視か罵倒しかされてなかったもんね。
精霊たちが落ち着いたら、リリィに優しくするよう言って聞かせなくちゃ。
「じゃ、地の精霊が仲間になったし。敵が出る前に帰ろっか」
私がそう言った時だった。
左手にある茂みが、大きく揺れた。
「ん?」
何だろう。
茂みというか木が密集して、しかもツタがびっしりと絡んで、奥がよく見えない。
──と、私の首根っこをイザークが思い切り引っ張った。
「ぐえっ!」
ケープのリボンが喉に食い込み、カエル声で叫んでしまった。
後ろに投げられた私は、草むらの上へ仰向けに落下した。
びっくりするじゃない、痛くはなかったけど──と、怒ろうとした瞬間。
巨大なものが茂みを突き破り、砲丸のように飛び出してきた。
(げっ、ボス狼⁉︎)
ゲームプレイ時も大きいと思っていたけど、迫力がまるで違う。
もし虎がここにいたら、子猫に見えただろう。
ボス狼の口の中には、何本もの鋭い牙が並んでいる。
その一本一本が、私の手首より太い。
レオナルドたちは身についた習慣で、リリィの周りへ集まった。
だけど、かなり動揺しているらしい。
互いに肩をぶつけ合い、よろめいている。
ボス狼は、誰から食おうかと私たちに視線を走らせた。
その視線が、据え膳状態の私に定まる。
あ、死ぬ──そう思ったら、急に体が固まってしまった。
大きく開いた真っ赤な口が迫ってくる。
誰も動けない。
いや、誰かが私の前に躍り出た。
剣を構えたイザークだ。
「……精霊、助けて!」
考える前に叫んでいた。
ペンダントが眩い光を放つ。
「聖女様!」
「あぶない!」
ペンダントから精霊たちが現れる。
ナギが白く輝くと、ゴウッという音が私の上を駆け抜けた。
「ギャンッ!」
ボス狼が悲鳴を上げてひっくり返る。
強い風が吹いたのか、と理解する前に、ボス狼の真下の地面がメリメリと裂けた。
巨体は、あっという間に亀裂の中へ飲み込まれてしまった。
一呼吸のあと、バクンと地面の口が閉じる。
木々が一瞬震え、そのあとは静けさが戻った。
ポコポコと、川の泡立つ音が聞こえてくる。
「えーっと……ボス狼、倒したんだよね?」
周囲がすっかり元通りなので、起きたまま居眠りしたのかと心配になる。
とりあえず立ち上がろう。
そう思ったけど、体が重くて動かない。
「何? 何か乗っかって……ぎゃー!」
「そんな、謝らないでよ。これまで嫌味ざんまいだったんだから、私を信じられなくて当たり前だよ。こっちこそ、今までごめんね」
私が頭を下げると、リリィは意外そうに目を瞬いた。
「……本当に、昔とは全然違うのね」
「そんなに変わった?」
「うん……お茶会の時には、血走った目で私を見ながら、ずっと歯ぎしりをしていたり……」
「それは完全に危険人物だね!」
リリィとルークが怯え、ギデオンとエリオットが警戒するのは当然だ。
レオナルドが私に優しいのは奇跡かもしれない。
処刑が決まった時点で婚約は無効になったけど、私だったらそれより前に逃げ出す。
「ごめん!もう本当、ごめん!」
バネ仕掛けの人形みたいにペコペコしまくった。
そのたび、腕の中のコハクが「ほえ」「ぴや」と鳴く。
「ううん。私も、何となくわかってたの」
リリィは泣き腫らした顔に、ようやく小さな苦笑を浮かべた。
「自分は本物の聖女じゃないんだって。だから、アナベルが『この偽物!』って水をかけてきた時、言い返せなかったの」
そういえばそんなこともあった……
私、めちゃくちゃ最低じゃないか。
「ご、ごめんなさい、リリィさん……そんな最低な奴ですけど、ペンダント、借りてもいいですか?精霊を仲間にしたら、速攻で返しますから……」
ビクビクしながら尋ねると、リリィは静かに頷いてくれた。
ルークが気遣わしげに、リリィへ声をかける。
「それでいいの?」
「ええ。ルークだって、今のアナベルなら大丈夫だと思うでしょ?」
「それはそうだけど……」
まだ心配そうなルークに、リリィは弱々しく微笑んだ。
それから大きく息を吸い込み、ペンダントを首から外した。
「あ、ありがとう!本当にありがとう……!」
拝む私に、リリィがペンダントをかけてくれる。
その様子をギデオンたちは、
「リリィ様がいいと言うなら……」
「たしかに、今のアナベル様は別人のようですし……」
と、言い合いながら見守っている。
ペンダントの宝石が、コハクの頭にポフッと触れた。
次の瞬間、腕の中のコハクが「ぴぃ!」と声を上げる。
「これでペンダントに入れる!聖女さま、戦うときもいっしょ?いっしょ?」
大喜びのコハクへ、リリィは寂しげに笑いかける。
「精霊様、よかったですね。これからは戦う時も、なるべくペンダントをアナベルに渡します」
「えっ……本当に⁉︎」
目を見開く私の胸元で、コハクが手足をパタパタさせる。
「うれしい!ありがと、リリィ!」
それからぴょんとジャンプをすると、
「聖女さまの近く、スッキリする~。しあわせ~」
と、うっとりしながらペンダントの宝石に入っていった。
ナギとコハクの歓声が、ペンダントから小さく聞こえた。
「精霊様に、初めて『ありがとう』って言われた……」
またリリィが涙ぐむ。
今度は頬を赤らめている。
感激しているらしい。
ゲームでは、無視か罵倒しかされてなかったもんね。
精霊たちが落ち着いたら、リリィに優しくするよう言って聞かせなくちゃ。
「じゃ、地の精霊が仲間になったし。敵が出る前に帰ろっか」
私がそう言った時だった。
左手にある茂みが、大きく揺れた。
「ん?」
何だろう。
茂みというか木が密集して、しかもツタがびっしりと絡んで、奥がよく見えない。
──と、私の首根っこをイザークが思い切り引っ張った。
「ぐえっ!」
ケープのリボンが喉に食い込み、カエル声で叫んでしまった。
後ろに投げられた私は、草むらの上へ仰向けに落下した。
びっくりするじゃない、痛くはなかったけど──と、怒ろうとした瞬間。
巨大なものが茂みを突き破り、砲丸のように飛び出してきた。
(げっ、ボス狼⁉︎)
ゲームプレイ時も大きいと思っていたけど、迫力がまるで違う。
もし虎がここにいたら、子猫に見えただろう。
ボス狼の口の中には、何本もの鋭い牙が並んでいる。
その一本一本が、私の手首より太い。
レオナルドたちは身についた習慣で、リリィの周りへ集まった。
だけど、かなり動揺しているらしい。
互いに肩をぶつけ合い、よろめいている。
ボス狼は、誰から食おうかと私たちに視線を走らせた。
その視線が、据え膳状態の私に定まる。
あ、死ぬ──そう思ったら、急に体が固まってしまった。
大きく開いた真っ赤な口が迫ってくる。
誰も動けない。
いや、誰かが私の前に躍り出た。
剣を構えたイザークだ。
「……精霊、助けて!」
考える前に叫んでいた。
ペンダントが眩い光を放つ。
「聖女様!」
「あぶない!」
ペンダントから精霊たちが現れる。
ナギが白く輝くと、ゴウッという音が私の上を駆け抜けた。
「ギャンッ!」
ボス狼が悲鳴を上げてひっくり返る。
強い風が吹いたのか、と理解する前に、ボス狼の真下の地面がメリメリと裂けた。
巨体は、あっという間に亀裂の中へ飲み込まれてしまった。
一呼吸のあと、バクンと地面の口が閉じる。
木々が一瞬震え、そのあとは静けさが戻った。
ポコポコと、川の泡立つ音が聞こえてくる。
「えーっと……ボス狼、倒したんだよね?」
周囲がすっかり元通りなので、起きたまま居眠りしたのかと心配になる。
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