婚約者に裏切られた「魔女」ですが、辺境伯閣下の「聖女」になりました

山河 枝

文字の大きさ
28 / 113
1章 「魔女」が辺境伯の「聖女」になるまで

27 声を荒らげるアルヴィン

しおりを挟む
(ウィルと会ったことは、秘密なのよね)

 それなら採集物のことにしよう。

「外に出て、ノトゥ草と小石を集めて──あっ、石を拾ってよかった? 地面に落ちている、白っぽいものなんだけど」

「いくらでもどうぞ~。何に使うんですか~?」

「砕いて作物用の薬にするの」

「石を砕く? ソフィア様が?」

 そう聞き返したのはノーラだ。

「お手伝いいたしましょうか? 腕力には自信がございます」

 力こぶを作るポーズに、私は笑って首を横に振った。

「ありがとう。でも、私の手で作った方が効果があるから」
 
「そうですか……ほかにできることがありましたら、何でもお申し付けくださいね」

「ええ、お願い」

 答えると同時に、朝食が運ばれてきた。

 ウィルはいない。
 地下階段の前で鉢合わせたことがアルヴィン様に伝わったのでは、と不安なのだろう。

 対する料理長は快調らしく、鼻歌を歌っている。

「おや、久しぶりにご機嫌ですね~」

 目を丸くするルイスに、料理長は得意げに胸を張った。

「いやあ、睡眠は大事ですな! ソフィア様がいらっしゃらなければ、寝不足で倒れるところでしたよ!」

 そう言って「ありがとうございます」とくり返す姿が、私を拝んでいた村人たちと重なっていく。
 胸に、熱いものが込み上げてくる。

(私には、本当に力があるんだ……その力でみんなを、アルヴィン様を助けたい)

 村での治療を進めれば、アルヴィン様も私の見立てを信じてくれるはず。
 彼を治せるはず。

 そうしたら、地下室に入れてもらえるかもしれない。
 そこに隠れている人を助けられる。

 自分が行動できなかったせいで、誰かが死ぬのはもう嫌だ。
 早く薬作りに取り掛かろう。
 
 私は食事を終えると、すぐに席を立った。

「ごちそうさまでした。アルヴィン様、お先に失礼いたします」

「もう行くのか?」

 アルヴィン様が目を丸くする。

「調合材料はどうするんだ」

「今日の分は足りそうです。昨晩、ウィルに在庫を聞きました。ただ、まだまだ必要になると思いますので……ルイス、赤辛子を1箱注文してもらえる?」

「かしこまりました~。領民のためなら、いくらでも~」

「ありがとう。明日は家畜を調べてくるから、薬の材料がわかったら頼むわね」

「おや、人間と家畜で薬を変えるんですか~?」

「ええ。人間には無害でも、家畜には毒になるものがあるでしょう? 調合作業も、材料が混ざらないように分けなくちゃ……時間がかかるから急がないと」

 両手をグッと握る私へ、アルヴィン様が声をかけてくる。

「しかし、食後ぐらいゆっくりしてもいいのでは?」

 気遣いの言葉に対して、私は首を横に振った。

「少しでも早く、苦しんでいる人を助けたいんです。ノーラ、手を貸してくれる?」

「もちろんですわ」

 頷いたノーラと一緒に、私は食堂を出た。
 視界の端に見えたアルヴィン様は、なぜか落ち込むように目を伏せていた。

 厨房で赤辛子を受け取り、庭の即席かまどへ。
 ノトゥ草と赤辛子を煮ている間に、石を砕く。
 鍋が沸いてきたら様子を見て、また石を砕いて……

「一旦、休憩なさってください」

 ノーラに声をかけられて、集中が途切れる。
 そこでようやく、太陽が真上へ昇っていることに気付いた。

「ソフィア様、お顔が真っ赤ですわ」

「そういえば暑くなってきたわね……あと少し、お鍋から材料を引き上げたら休むわ」

「少し? どのくらいですか?」

「30分くらいかしら」

「それは『少し』ではないだろう」

 男性の声がして、ハッと体を強張らせる。
 声がした方を向くと、アルヴィン様が立っていた。

 薬の完成を待っているのかと思い、急いで頭を下げる。

「閣下、時間がかかりまして申し訳ございません」

 のぼせているせいか、少し足元がふらついてしまった。

「時間は問題ない。ウィルが、君を心配して俺を呼びに来たんだ。ノーラの言う通り、顔が赤すぎる。一旦休め」

「完成したら休みます」

「今すぐ来なさい。俺の部屋を貸すから」

「結構です。私がやらないと、薬の効果が──」

「今すぐ来いと言っているっ!」

 荒々しい怒声が、陽気に包まれた穏やかな空気を引き裂いた。
 私はその場に立ちすくんだ。

 しん……と、庭が静まる。
 隣にいるノーラも硬直していたけれど、先に持ち直し、私の肩を叩いた。

「アルヴィン様のおっしゃる通りです。あと少しですから、わたくしにお任せください。何をいたしましょう?」

「わ……たし……」

 何か言おうとしても、うまく口が動かない。
 手足もだ。
 全身が石になったみたいに、固まっている。

「まあ、ソフィア様! アルヴィン様の祝福が効きすぎていますわ!」

「しゅく、ふく?」

「アルヴィン様の、大喝だいかつの祝福です。声で敵の動きを止めるんです。すぐに解けますから安心なさってください」

 ノーラが、なだめるように両肩を叩いてくれる。
 体から硬直が解けていく。

「それでは、ソフィア様。わたくしは何をいたしましょう?」 

「……30分後に、お鍋の中身を……ざるに上げて。それから、瓶を……煮沸消毒して……」

「かしこまりました。一昨日と同じように、薬を瓶詰めすればよろしいのですね」

「ええ……」

 体は動くようになった。
 その代わり、目眩がする。
 
 手が小刻みに震え出す。
 顔は熱いのに、頭からは血の気が引いている。

 ふいに、ひときわ大きく視界が揺れた。
 一瞬意識が飛び、気付いた時にはしゃがみ込んでいた。

「ソフィア様⁉︎」

「大丈夫、ちょっと疲れただけ……」

 両手で顔を覆い、かすれた声で答えたけれど、ノーラには聞こえなかったのか、ふわりと抱き上げられる。

「ノーラ、そんなことしたら危ないわ……いくら力に自信があっても……」

「悪いな、俺だ」

 耳元で聞こえたのは、アルヴィン様の声。
 私は、即座に大きく目を開けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ
恋愛
「真実の愛を見つけた」 そう告げられて、王太子との婚約をあっさり破棄された聖女シャマル。 泣かない。 責めない。 執着もしない。 だって正直、 好きでもない相手との政略結婚も、 毎日王宮に通って無償奉仕する生活も、 もう十分だったから。 「必要なときだけ呼んで。報酬は時給でいいよ」 そうして始めたのは、 前代未聞の サブスク式・聖女制度。 奇跡を振りまくのではなく、 判断基準を明確にし、 数字と仕組みで回す“無理をしない聖女業”。 ところがそれが、なぜか国にとって一番うまくいく。 しかし、 「平民の娘では納得できない」 「聖女は神聖であるべきだ」 そんな声が、王と貴族たちから上がり始め―― 「じゃあ、侯爵令嬢にしましょう」 肩書だけを差し替える、 中身は何ひとつ変えない痛快対応で、 価値観そのものを静かに詰ませていく。 これは、 怒鳴らない、争わない、感情に走らない。 それでも確実に“立場逆転”していく 理屈派・ドライ聖女の静かなザマァ物語。 働きすぎないこと。 全員に好かれようとしないこと。 納得しない自由も、ちゃんと認めること。 そんな聖女が作ったのは、 奇跡ではなく―― 無理をしなくても生きられる仕組みだった。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される

鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」 王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。 すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。 頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。 「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」 冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。 公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。 だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

処理中です...