「君とは契りを結ばない」と言った夫は、悲しい秘密を持っていた

山河 枝

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8 ふくらむ期待

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「奥様への愛に決まっているじゃありませんか!」
「そう……かしら」

 なぜ、そこまで自信たっぷりに言い切れるのだろう。戸惑っていると、ナンシーは私へ言い聞かせるように話し始めた。

「そうですとも! 旦那様は、奥様をお迎えするご準備を、それは念入りになさっておいででした。家具もだいぶ取り替えられたんですよ。『アリスは青が好きだと、兄君から聞いたから』って」

 私はびっくりして寝室を見回した。カーテン、ベッド、敷物。テーブルクロスの刺繍やクローゼットの模様まで。
 言われてみればこの部屋は、濃淡とりどりの青であふれていた。

「ここだけじゃありません。あちこちの部屋の壁紙を変えて、ドアまで付け替えたんですよ。それに、旦那様は今まで赤をお好みでしたのに、ご結婚が決まった途端、青を身につけるようになられて……」

 そこまで話したナンシーは、クスクスと笑い始めた。たぶん、また私の顔が火照ってきたからだ。

 だけど不思議だ。
 オスカーは、面倒事を避けるためだけに私と結婚したのに。どうして、そんなことをしてくれたんだろう。

 心の中で首をひねっていると、ナンシーは「ですから」と言った。

「メイドたちがはしゃぐ気持ちも、本当はわかるんです。旦那様はいつも難しいお顔をなさって、私でもひどく緊張する時がありました。ですが奥様がいてくだされば、きっとこれから、やわらかいお顔つきになられるでしょうから」

 歌うように語られた上、にっこり笑顔で「旦那様をよろしくお願いいたします」と締めくくられたら、

「ええ、わかったわ」

 と、答える以外にどうしようもない。
 私は笑顔を返しながら、内心では頭を抱えていた。これで、ますます本当のことが言えなくなってしまった。

 ただ、オスカーへの期待もかすかに生まれていた。

 興味のない私のために、屋敷を改装してくれたのだ。本当は心の温かい人なんだろう。
 それなら、ほかの人を愛していても、私を傍に置いてくれるかもしれない。

(いつか私のことも、好きになってくれるかも)

 その期待を、ナンシーの言葉が後押しした。

「朝食のあと、お着替えをお手伝いしますわ。旦那様が奥様をお呼びですから、うんと綺麗にしましょう」
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