魔術師の妻は夫に会えない

山河 枝

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3章 飛ばされた部屋

2月1日 雨

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今日は、なんだかウィルブローズ様が変だった。いつもちょっと変だけど、今日は特に変。

朝ごはんのあと、ラウルさんが手紙を持ってきてからよ。
差出人はわからなかった。でも封蝋の紋章が、うちの玄関にあるのと同じだった。

親戚からかな? と思ったけど、聞く隙がなかったわ。
手紙を見た途端、ウィルブローズ様がラウルさんからそれを引ったくって、部屋にこもっちゃったから。あんなに血相変えたの、初めて見た。

で、しばらくして出てきたと思ったら、イライラというかオロオロというか、とにかく落ち着きがない。
どうしたのか聞いても「ニニは何も心配いりません、大丈夫です」って……その言い方、余計に気になるんですけど。
しかも、周りの景色がめちゃくちゃゆがんでた。魔力、思いっきり溜めてるじゃない。

その上、すごく手をこすり合わせてた。
あんなにゴシゴシやったら、右手のあざが薄くなりそう。大事にすればいいのに。四つ葉のクローバー型で縁起がいいんだから。

とにかく、何かトラブルがあったんだわ。しかも、私に関することだと思う。
お仕事とかお屋敷のことなら、なんだかんだで教えてくれるもの。

……よし。こうなったら、自分でなんとかするしかない。
何が来るんだか知らないけど、受けて立ってやる! クモ以外なら!

というわけだから、明日は捜査……といきたいところなんだけど、私がコソコソ嗅ぎ回ると、みんながそれとなく避けるのよね。
しばらく様子見しようかな。なんて言ってたら、いきなり事態が急変したりして。

それから今日嬉しかったことは、注文してたものが届いたこと。ウィルブローズ様に選んでもらった、透かしが繊細な銀細工の髪飾り。

ちょっと気は引けるけどね。ウィルブローズ様ってば、とんでもない宝飾店を選ぶんだもの。
ゴテゴテした馬車が止まってるわ、パリッとした制服のいかめしいおじさんが立ってるわ。「貧乏人お断り」ってオーラが、入り口からビシバシ飛んできてた。
店内もすごかったわね。肩がこりそうな首飾りとか、手が上がらなくなりそうな指輪とかが、整然と並んでた。ギラギラ輝いてて、目が疲れちゃったわ。

お手頃価格の雑貨屋さんを、モーガンから聞いておいたのに。
「きちんとした場所で選ばないと、僕がジェフローラ様に怒られてしまいます」って言われて、仕方なく折れたけど。

そこからがまた長かったわ。結局、決めるまでに五日かかったんだっけ。それこそ、生きるか死ぬかの瀬戸際かってくらい悩んでたわね。
四日目以降は店員さんの目が死んでた。申し訳なかったなあ。

それでも……正直、やっぱり嬉しい! 値段を考えると血の気が引くけど、実は私もいいなあって思ってたのよね、選んでもらった髪飾り。一目惚れって言っても過言じゃない。
「綺麗ですね、クモの糸がこんがらがってるみたいで」って、ウィルブローズ様の感想は最低だったけど!

明日、つけてみようかな。でも、出かける用事もないのにつけてたら、浮かれてるのがバレバレで恥ずかしいなあ。

朝ごはんの時、ウィルブローズ様を散歩に誘ってみようかしら。そのついでに、今朝の手紙について探りを入れてもいいわね。
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