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3章 飛ばされた部屋
2月5日 晴れ
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今日は、ウィルブローズ様もどきの正体を暴いてやったわ!
朝ごはんが済んだあと、あの人はいつもみたいに部屋へ入ってきた。
「ほしいものはありませんか」って聞かれたから、ほしいものはないけど聞きたいことがあるって答えたわ。
まず、ラウルさんたちは今どうしてるのか。尋ねたら、「普段通りです。屋敷でニニの帰りを待ってますよ」。にこやかに言われちゃった。
そのあと色々質問してみたわ。
マリさんの背中にあるものとか、クロップさんの初恋の相手だとか、ラウルさんの歳とか……。
でも、「使用人の事情にはあまり踏み込まないようにしているので」って返してきただけ。
まあ、確かに和気あいあいと談笑してる場面は見たことないわね。
だけど、もうちょっと何か考えてもいいんじゃない? そう思って注意して見てたら、ほんの少ーしウィルブローズ様もどきの目が泳いでた。
それに、やっぱり右手に四つ葉のあざがない。
だから一か八か、思いっきり叫んでやったわ。
「ぎゃー! 肩に大きなクモが乗ってます!」
ウィルブローズ様もどきは、ぎょっとして手で肩を払ってた。それから、しまったって顔をしたの。
そりゃそうよね。本物はそんなことしないもん。むしろ、嬉々として離れのクモ小屋に連れて行きそう。
……改めて想像したら、嫌な絵面ね。
とにかく、その行動で明らかにウィルブローズ様じゃないってわかったことだし、もどきの二の腕をがっしり捕まえて「あんた誰よ! 」って怒鳴ってやった。
そうしたら、もどきの姿がぐにゃーっとゆがんで……部屋の中に知らない男の人が立ってた。
ウィルブローズ様と同じ淡い色の金髪で、黒地に金の刺繍が入った上等な服を着てた。
私が後ずさったら、その人、頭を下げて「初めまして、ウィルブローズの兄です。ニニさん、騙して申し訳ありません」。
言われてみれば、ウィルブローズ様と面立ちが似てたわ。ちょっと童顔なところも同じ。赤紫色のマントをつけてたら、一瞬見間違ってたかも。
だけど雰囲気が全然違う。そこはかとなく威厳がにじみ出てるというか……歳、ウィルブローズ様とそんなに離れてないと思うんだけどな。
髪がきちんと整えられてたからかな?
ただ、その時は混乱してて、なんて言えばいいのかわからなかった。
口をパクパクさせてたら、ウィルブローズ様もどき……もといお義兄さんが、笑顔を浮かべて「ずいぶん驚いていらっしゃるようですが、大丈夫ですか? 今日はひとまず失礼しますね。また明日、うかがいます」。
で、一礼して部屋から出て行った。
ああもう! 引き止めればよかった。あとから聞きたいことがどんどん出てきて、気になって仕方ないじゃない!
部屋を掃除してくれたメイドさんに質問しても、困ったような笑顔で会釈するだけ。たぶん、余計なことは喋るなって言われてるんだろうな。
よし。お義兄さんは明日も来るって言ってたし、その時までに何を聞くかまとめておかなくちゃ。
今日嬉しかったことは、もちろんお義兄さんの化けの皮を剥いだことよ。すっきりした!
でも、本物のウィルブローズ様がどうしてるのかわからないから、素直に喜べないなあ……。
朝ごはんが済んだあと、あの人はいつもみたいに部屋へ入ってきた。
「ほしいものはありませんか」って聞かれたから、ほしいものはないけど聞きたいことがあるって答えたわ。
まず、ラウルさんたちは今どうしてるのか。尋ねたら、「普段通りです。屋敷でニニの帰りを待ってますよ」。にこやかに言われちゃった。
そのあと色々質問してみたわ。
マリさんの背中にあるものとか、クロップさんの初恋の相手だとか、ラウルさんの歳とか……。
でも、「使用人の事情にはあまり踏み込まないようにしているので」って返してきただけ。
まあ、確かに和気あいあいと談笑してる場面は見たことないわね。
だけど、もうちょっと何か考えてもいいんじゃない? そう思って注意して見てたら、ほんの少ーしウィルブローズ様もどきの目が泳いでた。
それに、やっぱり右手に四つ葉のあざがない。
だから一か八か、思いっきり叫んでやったわ。
「ぎゃー! 肩に大きなクモが乗ってます!」
ウィルブローズ様もどきは、ぎょっとして手で肩を払ってた。それから、しまったって顔をしたの。
そりゃそうよね。本物はそんなことしないもん。むしろ、嬉々として離れのクモ小屋に連れて行きそう。
……改めて想像したら、嫌な絵面ね。
とにかく、その行動で明らかにウィルブローズ様じゃないってわかったことだし、もどきの二の腕をがっしり捕まえて「あんた誰よ! 」って怒鳴ってやった。
そうしたら、もどきの姿がぐにゃーっとゆがんで……部屋の中に知らない男の人が立ってた。
ウィルブローズ様と同じ淡い色の金髪で、黒地に金の刺繍が入った上等な服を着てた。
私が後ずさったら、その人、頭を下げて「初めまして、ウィルブローズの兄です。ニニさん、騙して申し訳ありません」。
言われてみれば、ウィルブローズ様と面立ちが似てたわ。ちょっと童顔なところも同じ。赤紫色のマントをつけてたら、一瞬見間違ってたかも。
だけど雰囲気が全然違う。そこはかとなく威厳がにじみ出てるというか……歳、ウィルブローズ様とそんなに離れてないと思うんだけどな。
髪がきちんと整えられてたからかな?
ただ、その時は混乱してて、なんて言えばいいのかわからなかった。
口をパクパクさせてたら、ウィルブローズ様もどき……もといお義兄さんが、笑顔を浮かべて「ずいぶん驚いていらっしゃるようですが、大丈夫ですか? 今日はひとまず失礼しますね。また明日、うかがいます」。
で、一礼して部屋から出て行った。
ああもう! 引き止めればよかった。あとから聞きたいことがどんどん出てきて、気になって仕方ないじゃない!
部屋を掃除してくれたメイドさんに質問しても、困ったような笑顔で会釈するだけ。たぶん、余計なことは喋るなって言われてるんだろうな。
よし。お義兄さんは明日も来るって言ってたし、その時までに何を聞くかまとめておかなくちゃ。
今日嬉しかったことは、もちろんお義兄さんの化けの皮を剥いだことよ。すっきりした!
でも、本物のウィルブローズ様がどうしてるのかわからないから、素直に喜べないなあ……。
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