無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物

ゆうぎり

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幕間―別視点【四人ピックアップ】

俺の主は無茶を言う(前編)

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―――教師ライナルト・オルレンブルグ視点

 ユーフルディア帝国にあるザイフリート公爵の屋敷の執務室では、不機嫌な主が唸っていた。
 ローデリッヒ・ザイフリート公爵、若くして公爵家を継いだ俺の乳兄弟だ。
 俺は幼い頃から仕えているのだが、クローディル国から帰ってきてからこの調子だった。

「しっくりこない。何がとは言わんがしっくりこない。こう棘が何処かに刺さって取れない様な……」

 延々と唸る声を無視して、俺は溜まっている書類の上に書類を重ねた。

「ローデ、唸るのは結構だけどな。決裁溜まってるぞ」

 主従関係ではあるが、二人きりの時はざっくばらんに接している。

「分かっているんだがな。答えが出ないんだ。今後の国政にも関わるんだよな」
「はぁ、王国で何があったんだ」

 ここまで煮詰まっているなら、聞いてやってスッキリさせなければ仕事が進まん。

「例の王太子とその婚約者に会った。婚約者のだが学術論文なども読ませて貰った。今年学園に入学するにしてはよく出来ていた。社交もそつなくこなし、将来安泰だと言う声も納得のものだった」

「だったら何の問題もないだろう?」
「そうだ、そうなんだけど違うんだ。こう、節々に感じる違和感というか……ああ、すっきりしない」

 ドンと叩いた机から書類が落ちる。

「物に当たるな。まだ学園前ならブレーンがしっかりしているんだろ」
「少し探りを入れたが、それらしき者は見当たらなかった」

 ピタリと言葉が止み、無言の圧がかかる。
 嫌な予感がヒシヒシとした。

「ライ、探ってきて貰えないか?教師の資格持ってたよな。臨時でもなんでも学園に潜り込んでライの目で人となりを確かめて欲しいんだ」

 今回の使節団に入らず、悠々と留守番して息抜きしていたツケが回ってきた。

「今の帝国と王国の緊張感分かってて言ってるのか?学園なんかに潜り込める訳ないだろう!」
「ライなら出来る。任せたよ」

 当然出来るという信頼のもと、任務を与えられた。
 帝国は魔道具作製が盛んで魔術大国と言われて久しく、魔力が抜きん出ている王国に一方的に敵愾心を持たれていた。

 祖母が王国とも帝国とも良好なオーリア国出身だから、そちらから手を回した。
 学園の教師採用を狙ったが、採用はされなかった。

 流石に時期が遅すぎる。
 王太子が入学するなんて前々から分かっていた事だからな。
 少しでも顔繋ぎしたい貴族が押し寄せた事だろう。

 教師陣を見たが、言語などの専門課程に他国の者が紛れていたが、基本王国の上位貴族が占めていた。

 教師以外でも情報収集の方法はある。
 学園近隣の飲食店、学園や王宮官吏が集まる飲み屋などで地道に集めていると思わぬ縁が降ってきた。

 学園の最下位クラスを受け持つ男、それも王太子の同学年だった。
 何度か一緒に飲んだが、今日は事の他荒れていた。

「あーもう学園行きたくない!」
「何があったんですか、先生」
「学園の機密だから言えないんですよ。でも……」

 飲ましに飲ませて泥酔させ、聞き出そうとしたが
「言えないんです」「今後に関わるんだ」「生活が……」等で、他に職があるなら今すぐに辞めてやるの一点張りだった。

 じゃあと、職を紹介するので代わりに私を教師として推薦して欲しいと言うと驚かれた。

「あの、今更ですが王太子との接触は本当にないですよ。はっきり言って貧乏くじですよ、後悔しませんか?」
「先生こそ後悔しません?学園の教師なんて優秀な職を蹴って。私が紹介するのは、他国での家庭教師ですよ」

「私には、駆け引きは合わなくて。のんびりさせてもらおうかと思っています」

 手紙でのやり取りで、相手側との条件も合ったようで何よりだ。
 学園の方も貴族として大人の取引・・・・・をするとすんなり教師になれた。

 最も、急な退職と王太子は自分のクラス以外見向きもしないという事が知れ渡っていたので、なり手もいなかったのだろう。

 この学園長は王族と言うが、随分と品のない男だった。





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