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幕間―別視点【四人ピックアップ】
俺の止まっていた時間が動き出した(後編)
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俺がエイヴァリーズ公爵家に関わったのは、見習いになってすぐの事だった。
「まだ赤子を見る事は出来ないが、外からよくよく人々を観察しなさい」
そう言って連れてこられた場所が公爵家だった。
公爵家の者やその親族、それに王族が数人見えた。
「豪華ですね」
「産まれた子が女子なら王太子妃として育てられるからのぉ」
その内産婆が「産まれました」と声をかけると、皆がぞろぞろと部屋に入っていった。
「どれ、儂もそろそろ行こうか。ここで待っておれよ」
全員が入ったのを確認し師匠が入り、すぐに魔術が行われたのを感じた。
その後出てきた者達の表情は不安から一変、輝かしいものとなっていた。
そして本当にうっすらとだが、他者の魔力を纏っていた。
「アドリアンは、相変わらず魔力を見る事に長けておるな。普通なら分からんぞ。この国の魔術師を目指すには、この力を受け付けぬ訓練が必須となる。中々難しいが、おまえなら出来るじゃろうて」
励めと師匠は言った。
すぐに帰ろうとしたのだが、師匠が長話に捕まり俺は少し席を外した。
長時間だったから、自然の摂理には逆らえない。
「迷った……」
流石公爵家、屋敷内が広い。
師匠の魔術の残り香を目指して歩いていると、どこかの夫人だろうか?
血相を変えて部屋から出てきた。
「……魔術師ですか?」
「ん?まだ見習いですが、そうですよ」
「治癒出来ますよね?急いで下さい」
その夫人は俺の腕を引っ張り、部屋に引きずり込んだ。
「この子が大変なんです」
夫人はまるで外を見張る様に扉付近に待機し、中にいた使用人が俺を急かした。
そこには、か細い息が今にも途切れそうな赤子がいた。
「体力を消耗仕切っているじゃないか。何故?」
師匠が魔術を使ったはずだ。
この時は驚きすぎて、この赤子から師匠の魔術の残り香が全く感じられない事に気づかなかった。
「それは、見たらこうなっていて……」
師匠の魔術が失敗?いやいや、予想よりすぐに悪くなったのかも。
赤子はすぐ体調が変化すると言うしな。
俺は治癒術で回復させた。
俺を連れて来た夫人は「この事は他言無用で、これは心付けです」と言い、少し重い小袋を渡してきた。
おかしいなと少し思ったが、この時は魔術師の慣習など分からないからそんなものかと思って受け取った。
見習いも板についた学園時代、師匠が何やら本を作っていた。
「師匠これ何してるんですか?」
「魔術を楽しく学んで貰おうと思ってな」
俺は魔術関係ならなんでも触れて知りたいから、つい完成間近な本を読んで解いてしまった。
見た目は如何にも古い本が、鮮やかな宝飾品で飾られた本に変わった。
「ああ、やってしまったか。アドリアンのイタズラにも困ったもんじゃな」
「師匠、これ凄いです。視覚触覚系の幻術が何重にもかかっている。これ俺も欲しいです」
「アドリアンなら式さえ分かれば自分で作れるぞ。儂がこれから式を掛け直すから見ておれ」
最初は楽しかったが、その内根気よく繰り返す術式に飽きた。
だから試しに今作っている魔道具に使ってみた。
手紙受け渡しの魔道具みたいに、周りの魔力を自ら集めてポーションの製作を助ける。
綺麗な魔道具が古びた物になり、大きな核は目立たなくなった。
「師匠、これも持って行ってください」
師匠は呆れながらも、将来の妃の三歳の誕生日に持っていってくれた。
いつ、これが本来の姿を取り戻すのか。
いずれ王に仕えて妃となったあの子に実は……と話すのだ。
そんな師匠と俺の気の早い楽しいプレゼント作りは、師匠が辞職するまで続いた。
まあ、希望を持っていた頃の話だ。
王宮で見かけた王太子の婚約者の魔術、あれはなんだろうな。
あまりの拙い変化の魔術は失笑ものだった。
練習中にしても酷すぎるぞ。
身近な掛かりやすくなった者だけしか見えない中途半端な魔術など、身内だけで楽しめ。
王太子と一緒にお茶会ばかり開いているからだ、もっと練習しろ。
この調子だと師匠が渡した本は、いつまでも解けないのでは?と思う有り様だった。
当たり前というか、王太子の試験官をすると同じクラスの婚約者の試験も見る訳で。
当日、俺がクラスを見渡しその場で与えた課題を実行させたのだが、実技は力技で押し切っていた。
筆記は全くダメで、才女の噂はどこいった?
愛嬌だけがある人気者の少女は、俺には全く興味がないものだった。
しかし、今回の追放に大いに役立ってくれて感謝している。
俺はまず久しぶりに師匠に会おうと思っている。
師匠に手土産を持っていこう。
師匠の好物の酒は確か……
フライでたまに休みを挟みながら飛び続け、国境についた。
俺は師匠のいる小国オーリアの二つ隣の国の入国手続きをする為に、国境を渡る検問に並んだ。
「まだ赤子を見る事は出来ないが、外からよくよく人々を観察しなさい」
そう言って連れてこられた場所が公爵家だった。
公爵家の者やその親族、それに王族が数人見えた。
「豪華ですね」
「産まれた子が女子なら王太子妃として育てられるからのぉ」
その内産婆が「産まれました」と声をかけると、皆がぞろぞろと部屋に入っていった。
「どれ、儂もそろそろ行こうか。ここで待っておれよ」
全員が入ったのを確認し師匠が入り、すぐに魔術が行われたのを感じた。
その後出てきた者達の表情は不安から一変、輝かしいものとなっていた。
そして本当にうっすらとだが、他者の魔力を纏っていた。
「アドリアンは、相変わらず魔力を見る事に長けておるな。普通なら分からんぞ。この国の魔術師を目指すには、この力を受け付けぬ訓練が必須となる。中々難しいが、おまえなら出来るじゃろうて」
励めと師匠は言った。
すぐに帰ろうとしたのだが、師匠が長話に捕まり俺は少し席を外した。
長時間だったから、自然の摂理には逆らえない。
「迷った……」
流石公爵家、屋敷内が広い。
師匠の魔術の残り香を目指して歩いていると、どこかの夫人だろうか?
血相を変えて部屋から出てきた。
「……魔術師ですか?」
「ん?まだ見習いですが、そうですよ」
「治癒出来ますよね?急いで下さい」
その夫人は俺の腕を引っ張り、部屋に引きずり込んだ。
「この子が大変なんです」
夫人はまるで外を見張る様に扉付近に待機し、中にいた使用人が俺を急かした。
そこには、か細い息が今にも途切れそうな赤子がいた。
「体力を消耗仕切っているじゃないか。何故?」
師匠が魔術を使ったはずだ。
この時は驚きすぎて、この赤子から師匠の魔術の残り香が全く感じられない事に気づかなかった。
「それは、見たらこうなっていて……」
師匠の魔術が失敗?いやいや、予想よりすぐに悪くなったのかも。
赤子はすぐ体調が変化すると言うしな。
俺は治癒術で回復させた。
俺を連れて来た夫人は「この事は他言無用で、これは心付けです」と言い、少し重い小袋を渡してきた。
おかしいなと少し思ったが、この時は魔術師の慣習など分からないからそんなものかと思って受け取った。
見習いも板についた学園時代、師匠が何やら本を作っていた。
「師匠これ何してるんですか?」
「魔術を楽しく学んで貰おうと思ってな」
俺は魔術関係ならなんでも触れて知りたいから、つい完成間近な本を読んで解いてしまった。
見た目は如何にも古い本が、鮮やかな宝飾品で飾られた本に変わった。
「ああ、やってしまったか。アドリアンのイタズラにも困ったもんじゃな」
「師匠、これ凄いです。視覚触覚系の幻術が何重にもかかっている。これ俺も欲しいです」
「アドリアンなら式さえ分かれば自分で作れるぞ。儂がこれから式を掛け直すから見ておれ」
最初は楽しかったが、その内根気よく繰り返す術式に飽きた。
だから試しに今作っている魔道具に使ってみた。
手紙受け渡しの魔道具みたいに、周りの魔力を自ら集めてポーションの製作を助ける。
綺麗な魔道具が古びた物になり、大きな核は目立たなくなった。
「師匠、これも持って行ってください」
師匠は呆れながらも、将来の妃の三歳の誕生日に持っていってくれた。
いつ、これが本来の姿を取り戻すのか。
いずれ王に仕えて妃となったあの子に実は……と話すのだ。
そんな師匠と俺の気の早い楽しいプレゼント作りは、師匠が辞職するまで続いた。
まあ、希望を持っていた頃の話だ。
王宮で見かけた王太子の婚約者の魔術、あれはなんだろうな。
あまりの拙い変化の魔術は失笑ものだった。
練習中にしても酷すぎるぞ。
身近な掛かりやすくなった者だけしか見えない中途半端な魔術など、身内だけで楽しめ。
王太子と一緒にお茶会ばかり開いているからだ、もっと練習しろ。
この調子だと師匠が渡した本は、いつまでも解けないのでは?と思う有り様だった。
当たり前というか、王太子の試験官をすると同じクラスの婚約者の試験も見る訳で。
当日、俺がクラスを見渡しその場で与えた課題を実行させたのだが、実技は力技で押し切っていた。
筆記は全くダメで、才女の噂はどこいった?
愛嬌だけがある人気者の少女は、俺には全く興味がないものだった。
しかし、今回の追放に大いに役立ってくれて感謝している。
俺はまず久しぶりに師匠に会おうと思っている。
師匠に手土産を持っていこう。
師匠の好物の酒は確か……
フライでたまに休みを挟みながら飛び続け、国境についた。
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