20 / 42
幕間―別視点【四人ピックアップ】
俺の止まっていた時間が動き出した(前編)
しおりを挟む
―――王宮魔術師アドリアン・パレテヌミーユ視点
俺は遊学し、魔術師として知らない知識を吸収したい。
王宮に何度願い出ても、不許可の通知が来るだけだった。
だが、まさか渋々受けた学園の試験官があの様な結果になるなんて思いもしなかった。
フライで王宮の自室に戻り、荷物をまとめる。
「楽しそうですね。どこかへ行かれるのですか?」
そんな風にすれ違った魔術師や官吏に聞かれた。
俺は余程楽しそうにしていたのだろう。
「ちょっとそこまで」
自宅に戻り、自宅ごと収納した。
王族と王太子が国外追放を発令したのだ。
難癖付けられる前に早く去るに限る。
俺はまたフライを唱え飛んだ。
俺の未来は決まっていた。
将来王に仕え活躍する様に、当時の王宮魔術師長の養子に入ったからだ。
八歳の時、教会で水晶に手をかざし魔力の量が推測されると周りが一変した。
甘く厳しかった両親も説得され養子に出し、十二歳の最終測定後異例の魔術師見習いになった。
養父を俺は師匠と呼んで慕っていた。
俺が学園と専門課程を卒業し、一人前の魔術師に成長したと判断した師匠は王宮を辞し、小国へ渡った。
ここから俺の生活は一気につまらなく、止まってしまった。
今までは魔術研究を楽しくしていたのに、無駄な雑事に忙殺される日々。
俺はどうも人との交流は苦手なのだが、それでも親しくしている同僚がいた。
歳は離れていたが、とても気があった。
そいつも王宮魔術師を辞め、帝国に渡るという。
「は?帝国に行くなんて聞いてないよ」
「妻が妊娠して、心機一転だな」
「それも聞いてない。何?奥さん帰ってきたの?」
こいつは俺と一緒で研究の虫だからな。
気づけば奥さんに捨てられていたんだ。
「違う違う、再婚したんだ。子供の家庭教師に来て貰ってた人なんだが、指導は厳しいが心根が優しい人でな。子供も凄く懐いて……」
延々惚気を聞かされた。
再婚相手のキャサリンが素敵なのはわかったから、心機一転の理由を教えやがれ。
「どうも誤解からだと思うんだが、突き上げが酷くてな」
今いる家庭教師先の不興を買ったらしく、このままではお腹の子に良くないと判断したらしい。
妊婦の旅も相当なリスクがあるのに、それを推してもこの国を出ていくのか。
それって相手は相当な力があるよな。
しかし、それでよく帝国行きを許されたもんだ。
「あ、帝国行きは黙っていろよ。お前だから言ったんだからな」
俺は羨ましげに同僚の退職を見送った。
思えばこの頃からこの国を出て見聞を広げ、己の魔術を高めたいと思うようになったのだろう。
そんな思いは知らず強くなり、色々とこの国への興味を失っていった。
だからだろうか。王太子が八歳になり、魔術宮で魔力解放を行っても最終測定が終わっても俺にはピンと来なかった。
将来こいつに仕えるのか……。
魔術実技の勉強に俺を教師に加える話もあったが、魔力が多いだけの教え下手だから却下された。
これは地味に嬉しかった。
それからも、王宮に出向けば王太子を見かけるのだが、いつもお茶会を開いていた。
「あの様に庭園でゆったり過ごしていても成果を上げるなんて、余程優秀なんですね」
嫌味混じりに言っても、周りからは賞賛の声しか返ってこなかった。
今まで断っていた学園の試験官を受けたのは陛下からの直々の指示だった。
将来の王の成果や側近の勇姿を見て来いとの事だ。
「今年の出来は酷いな」
「王太子自身があれで満足しているから、育たないのだろう」
「昨年が良すぎたのでは?」
試験が終わり、他の試験官達が話していた。
俺は普通に成績を付けた。
忖度する?知らんな。
結果、俺はこの国から解放された。
それにしても、王宮魔術師としての生活は最初から最後までエイヴァリーズ公爵家が関わっているのか。
妙な縁を感じた。
俺は遊学し、魔術師として知らない知識を吸収したい。
王宮に何度願い出ても、不許可の通知が来るだけだった。
だが、まさか渋々受けた学園の試験官があの様な結果になるなんて思いもしなかった。
フライで王宮の自室に戻り、荷物をまとめる。
「楽しそうですね。どこかへ行かれるのですか?」
そんな風にすれ違った魔術師や官吏に聞かれた。
俺は余程楽しそうにしていたのだろう。
「ちょっとそこまで」
自宅に戻り、自宅ごと収納した。
王族と王太子が国外追放を発令したのだ。
難癖付けられる前に早く去るに限る。
俺はまたフライを唱え飛んだ。
俺の未来は決まっていた。
将来王に仕え活躍する様に、当時の王宮魔術師長の養子に入ったからだ。
八歳の時、教会で水晶に手をかざし魔力の量が推測されると周りが一変した。
甘く厳しかった両親も説得され養子に出し、十二歳の最終測定後異例の魔術師見習いになった。
養父を俺は師匠と呼んで慕っていた。
俺が学園と専門課程を卒業し、一人前の魔術師に成長したと判断した師匠は王宮を辞し、小国へ渡った。
ここから俺の生活は一気につまらなく、止まってしまった。
今までは魔術研究を楽しくしていたのに、無駄な雑事に忙殺される日々。
俺はどうも人との交流は苦手なのだが、それでも親しくしている同僚がいた。
歳は離れていたが、とても気があった。
そいつも王宮魔術師を辞め、帝国に渡るという。
「は?帝国に行くなんて聞いてないよ」
「妻が妊娠して、心機一転だな」
「それも聞いてない。何?奥さん帰ってきたの?」
こいつは俺と一緒で研究の虫だからな。
気づけば奥さんに捨てられていたんだ。
「違う違う、再婚したんだ。子供の家庭教師に来て貰ってた人なんだが、指導は厳しいが心根が優しい人でな。子供も凄く懐いて……」
延々惚気を聞かされた。
再婚相手のキャサリンが素敵なのはわかったから、心機一転の理由を教えやがれ。
「どうも誤解からだと思うんだが、突き上げが酷くてな」
今いる家庭教師先の不興を買ったらしく、このままではお腹の子に良くないと判断したらしい。
妊婦の旅も相当なリスクがあるのに、それを推してもこの国を出ていくのか。
それって相手は相当な力があるよな。
しかし、それでよく帝国行きを許されたもんだ。
「あ、帝国行きは黙っていろよ。お前だから言ったんだからな」
俺は羨ましげに同僚の退職を見送った。
思えばこの頃からこの国を出て見聞を広げ、己の魔術を高めたいと思うようになったのだろう。
そんな思いは知らず強くなり、色々とこの国への興味を失っていった。
だからだろうか。王太子が八歳になり、魔術宮で魔力解放を行っても最終測定が終わっても俺にはピンと来なかった。
将来こいつに仕えるのか……。
魔術実技の勉強に俺を教師に加える話もあったが、魔力が多いだけの教え下手だから却下された。
これは地味に嬉しかった。
それからも、王宮に出向けば王太子を見かけるのだが、いつもお茶会を開いていた。
「あの様に庭園でゆったり過ごしていても成果を上げるなんて、余程優秀なんですね」
嫌味混じりに言っても、周りからは賞賛の声しか返ってこなかった。
今まで断っていた学園の試験官を受けたのは陛下からの直々の指示だった。
将来の王の成果や側近の勇姿を見て来いとの事だ。
「今年の出来は酷いな」
「王太子自身があれで満足しているから、育たないのだろう」
「昨年が良すぎたのでは?」
試験が終わり、他の試験官達が話していた。
俺は普通に成績を付けた。
忖度する?知らんな。
結果、俺はこの国から解放された。
それにしても、王宮魔術師としての生活は最初から最後までエイヴァリーズ公爵家が関わっているのか。
妙な縁を感じた。
118
あなたにおすすめの小説
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします
ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに
11年後、もう一人 聖女認定された。
王子は同じ聖女なら美人がいいと
元の聖女を偽物として追放した。
後に二人に天罰が降る。
これが この体に入る前の世界で読んだ
Web小説の本編。
だけど、読者からの激しいクレームに遭い
救済続編が書かれた。
その激しいクレームを入れた
読者の一人が私だった。
異世界の追放予定の聖女の中に
入り込んだ私は小説の知識を
活用して対策をした。
大人しく追放なんてさせない!
* 作り話です。
* 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。
* 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。
* 掲載は3日に一度。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる