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10 クラーラとバートのじゃれ合い
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ヘインズ領都に入り少しすると、ヘインズ領館が見えてくる。
「バート様、もう大丈夫なのですが……」
「あぁ、気にしなくていいよ。俺もヘインズ子爵には挨拶をしたいからね。それにロンバード男爵にもね」
「そうですか、でも……」
私が言いかけると遮るようにバート様が仰った。
「本当に気にする事はないよ。カルドラシオ辺境伯の者として鉱山の採掘計画が知りたいのさ」
そして、私の頭をなでる。
気に入ったのかしら?
やはりなでられると不思議に思う。
何故だろう、と考えた。
そう言えば昔もこんな風になでられたわ、と思い出すと懐かしい気持ちが湧いてくる。
バート様もお兄様と同じで、幼少の頃より王太子のご学友を務めていた方。
以前は当家に来られ、幼い頃私も遊んで貰った。
私がナディオ様に恋をする前の話だ。
クスッと笑った私に「どうした?」と顔を近づけながらバート様が尋ねた。
「最近お兄様にもなでられなくなりましたのに、何だか子供に返ったみたいです」
「クーはまだまだ子供だよ」
「もう、そこまで子供ではございません」
小さい頃の舌っ足らずな私は、自分の事をクーと呼んでいた。
少し膨れて言う私に、バート様は大口を開けて笑う。
「そんなに笑わなくてもよろしいでしょう。レディに失礼ですよ」
「ごめん、ごめん。王都に帰ったらレディに合う品を買ってあげるよ。俺から社交界デビューの祝いだと思って受け取ってね」
バート様は気軽に仰いますが、それは外聞が悪いと感じた。
「……それは……私にはナディオ様がいるので……」
「そのナディオから何が貰った?」
「……いいえ」
私の声が徐々に萎む。
貴族の常識として婚約者からの祝いがあるのは当然の事。
バート様もそんな私を見て困った様子だ。
「うーん、ではハンスかマーナとの合同ならどう?」
「合同ですか?」
「ハンスは親友だし、マーナは俺の従妹だ。これなら大丈夫だろう?王太子の夜会が終わる頃なら時間に余裕ができるし、四人で買物にでも出かけよう」
晴れやかに如何にも「良い提案をした」という顔をバート様はなさった。
「それではお兄様が拗ねてしまいます」
「残念、ハンスと予約済みだったか。じゃあマーナと三人でどう?」
「バート様、お兄様に喧嘩を売る気ですか」
「大丈夫、大丈夫。マーナと女同士の買物と言っておいて、俺が途中に合流するだけだから」
「会話中失礼します。お嬢様、ヘインズ領館に着きました」
悪戯っぽく笑うバート様と会話を楽しんでいたが、リリーの声が終わりを告げた。
「バート様、もう大丈夫なのですが……」
「あぁ、気にしなくていいよ。俺もヘインズ子爵には挨拶をしたいからね。それにロンバード男爵にもね」
「そうですか、でも……」
私が言いかけると遮るようにバート様が仰った。
「本当に気にする事はないよ。カルドラシオ辺境伯の者として鉱山の採掘計画が知りたいのさ」
そして、私の頭をなでる。
気に入ったのかしら?
やはりなでられると不思議に思う。
何故だろう、と考えた。
そう言えば昔もこんな風になでられたわ、と思い出すと懐かしい気持ちが湧いてくる。
バート様もお兄様と同じで、幼少の頃より王太子のご学友を務めていた方。
以前は当家に来られ、幼い頃私も遊んで貰った。
私がナディオ様に恋をする前の話だ。
クスッと笑った私に「どうした?」と顔を近づけながらバート様が尋ねた。
「最近お兄様にもなでられなくなりましたのに、何だか子供に返ったみたいです」
「クーはまだまだ子供だよ」
「もう、そこまで子供ではございません」
小さい頃の舌っ足らずな私は、自分の事をクーと呼んでいた。
少し膨れて言う私に、バート様は大口を開けて笑う。
「そんなに笑わなくてもよろしいでしょう。レディに失礼ですよ」
「ごめん、ごめん。王都に帰ったらレディに合う品を買ってあげるよ。俺から社交界デビューの祝いだと思って受け取ってね」
バート様は気軽に仰いますが、それは外聞が悪いと感じた。
「……それは……私にはナディオ様がいるので……」
「そのナディオから何が貰った?」
「……いいえ」
私の声が徐々に萎む。
貴族の常識として婚約者からの祝いがあるのは当然の事。
バート様もそんな私を見て困った様子だ。
「うーん、ではハンスかマーナとの合同ならどう?」
「合同ですか?」
「ハンスは親友だし、マーナは俺の従妹だ。これなら大丈夫だろう?王太子の夜会が終わる頃なら時間に余裕ができるし、四人で買物にでも出かけよう」
晴れやかに如何にも「良い提案をした」という顔をバート様はなさった。
「それではお兄様が拗ねてしまいます」
「残念、ハンスと予約済みだったか。じゃあマーナと三人でどう?」
「バート様、お兄様に喧嘩を売る気ですか」
「大丈夫、大丈夫。マーナと女同士の買物と言っておいて、俺が途中に合流するだけだから」
「会話中失礼します。お嬢様、ヘインズ領館に着きました」
悪戯っぽく笑うバート様と会話を楽しんでいたが、リリーの声が終わりを告げた。
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