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第二十一章 最強の竜騎士 その名は……

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 マティアスもすぐにその気配に気づき、剣を抜いた。
 一方、男爵は周囲のことなどまるでおかまいなしだ。
 深く瞑想めいそうするように目を閉じ、その場から動こうとしない。
 
 今日もいきなり絶体絶命――!

 いま、このメンバーで大勢の敵に囲まれたら完全にお手あげだ。
 いくらマティアスが強いとはいえ、僕を含めたその他三人は実戦ではほぼお荷物状態。
 仲間を助けることはおろか、自分たちの命すら危うくなってしまう。

 ここは止むを得ない。
 予定変更を変更しいきなり『ミスト』を唱えてしまおう。
 
 いやむしろ、初めて使う魔法なんだから効果を試すのには格好の機会なのかもしれない。
 それで上手く敵をけむにまけたら、その足でエリックの救援に向かえばよいのだ。

 完全に開き直った僕は、敵が見えると同時に魔法を唱えてやる! と、意気込んで身構えた。
 岩かげから、おおよそ三十騎ほどで構成された騎士の一団が現われたのは、その直後だった。
 
 ……あ、あれ?
 ロードラント軍?

 思いっきり拍子抜けした。
 騎士団は全員味方の竜騎士で構成されていたのだ。

 でも、一方で違和感もあった。
 なぜなら、その竜騎士団はいわく言い難い威厳に満ちており、普通の人間が近寄りがたいようなオーラを発散させていたからだ。

 ――この人たち、普通の竜騎士よりもさらに高いレベルにいる。

 僕はそう直感した。
 ゲームで言えばマスターレベルの騎士集団、と言ったところか。

「おお、王の騎士団キングスナイツではないか!!」
 その時、マティアスが珍しく明るい声で叫んだ。
「リューゴ、貴様、いったい今までどうしていたのだ?」

「マティアス殿!」
 騎士団の先頭にいた男が、馬を降りマティアスの方へ歩いてくる。
「いったいなぜこんな所に? アリス様を守り、すでに撤退されたと思っていました

 その姿を見て、僕は「あっ」と驚愕《きょうがく》した。

 りゅーご?
 りゅーご?
 りゅーご?

 この顔……。
 やたらたくましく、そしてイケメン。一度見たら絶対に忘れない顔。

 現実世界、あの日、あの赤い夕やけの中で見たあの男。 
 理奈と二人並んで歩いていたあの男。

 佐々木ささき龍吾りゅうご――
 現実世界での理奈の恋人だ。


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